第二十七話 潜入
気付けば、ステラは暗闇の中にいた――。
冷たい床の上に寝かされ、手と足はロープで縛られていた。
さらに口には布を巻かれ、声を出す事ができないようにされていた。
朦朧とした意識の中、何故こんな事になったのかを思い出す。
ステラはマリカの金を盗んだシモンを探している時に、市場の裏道にある店に入って、そこで店の老人に麻痺毒の付いた針を撃たれ意識を失ったのだと思い出す。
「そうか、私……」
叫び声を上げようとするも、口に巻かれた布で言葉を出せないステラ、ふと見ると自分意外にもこの部屋に人がいるのに気付く。
見れば同じように両手両足を縛られ、口には布が巻かれた女の子が五人、皆茫然自失という状態で泣く力すら残っていないような感じだった。
恐らくはこの子達も奴隷として売られる為に捕まったのだろう、そしてステラは自分もそういう状態にあるのだと認識する。
「シモンは……」
ステラは連れ去られたであろう仲間のシモンを探す、しかしその姿はここにはなかった。
「無事だと……、いいけど」
未だ麻痺矢の毒が効いているのか、思考もはっきりしない中、ステラは再び深い眠りに落ちていく――。
その頃景虎はたった一人で、海賊達が大騒ぎするただ中に見つからないように近づいていた。
真正面から突っ込んでいく事も考えてはいたのだが、もし海にでも逃げられたりすれば再び探し出すのに時間と手間がかかってしまうと思ったからだ。
さらに相手がステラ達を殺してしまう恐れも考え、助け出すまでは無謀はすまいと決めていた。
「ちっ、こーゆーコソコソしたのは嫌ぇだってぇのによ! おい糞ドラゴン、ステラとシモンの居所はまだわからねぇのか!」
『こう人間が多くてはな、せめて大声上げて叫んでくれたりすれば感じるのも容易くはあるのだが』
「くそっ、無事なんだろうなあの二人はよ!」
景虎はイラつきながらも海賊達に気付かれないようにさらに近づいていく。
辺りは暗くなり、かがり火の焚いてないような場所は暗闇でわからないほどになっていた。
海賊達は特に見張りを立てるでもなく、酒や喧嘩などで盛り上がっていたおかげで、景虎は海賊船が停泊している桟橋近くにまでは気付かれずに来る事はできた。
「船か家か、どっちにいるかがわかりゃあなあ」
『とりあえず家の方からの気配は薄いな、人が多いのもあるが向こう側にはおらぬと思った方がいいかもしれん』
「なら船か」
そう言うと景虎は気付かれないように海の中へと入っていく。
季節は冬という訳ではないが、海の水は冷たかった、しかしステラ達を助ける為ならばどんな事でもするつもりだった景虎には苦でも何でもなかった。
大きな斧を背負ったままではあったが、今の景虎はドラゴンのフライハイトの力によって身体能力が常人より高くなっている為、苦もなく泳ぐ事が出来た。
最初の船にフライハイトは反応せず、二隻目の船にも反応をしなかった、そして三席目に近づいた時、フライハイトが何かに気付く。
『む、近いくにいるようだ』
「どこだ」
問う景虎にフライハイトが示したのはその三隻目の船だった。
「ステラとシモンは生きていそうか?」
『わからん、二人とも寝ているのか弱っているのか、気配のようなものがかなり薄い、だが少なくとも一人はそこにいるのは間違いない』
「よっしゃ、そこに行けるか糞ドラゴン!」
『当然だ』
そう言ったあと、景虎はフライハイトの瞬間移動の能力で瞬時に移動する。
再び現れた場所はの薄汚れた船の船倉のような場所だった。
幸いにして現れた場所には海賊はいなかったが、できるだけ注意を払ってフライハイトか感じた気配のする方へと向かっていく。
『景虎、いたぞ、その先の部屋に少年の反応だ』
「シモンか!」
『恐らくはな、だがその部屋の前に他の人間の気配がいくつかある』
「関係ねぇ、そいつらボコってシモンを助け出す!」
言うが早いか景虎はその部屋に向かう、そして見張りだと思われる海賊二人を見つけると問答無用で殴りかかる。
すぐさま警戒して武器を取ろうとした海賊二人だったが、景虎のあまりにも速い急襲に対応できず、またたくまにのされてしまう。
景虎は近くにあった部屋のものであろう鍵を取ると、扉の鍵穴に入れて扉を開ける。
「!」
「シモン! 無事か!」
その部屋には両手両足を縛られ、口に布を巻かれたシモンがいた。
さらにその他にも十歳から十五歳くらいまでの男の子が、同じく両手両足を縛られ、口に布を巻かれ憔悴しきった表情をしていた。
おそらくこの少年達もどこかで拉致られたか売られた後、長い航海の間ずっとこの部屋に閉じ込められていたのだろう。
景虎は怒りを感じながらも、まず縛られてるシモンの縄を切る。
「シモン大丈夫か?」
「う、うん、なんとか」
「そうか、そらよかった、ところでステラがどこにいるかわかるか?」
「た、多分隣の部屋だと思う」
「わかった、シモンてめーはこいつらの縄を切ってやれ、んで逃げる準備しとくけ、いいな!」
「は、はい兄貴!」
その言葉を聞いた景虎は隣の部屋に向かい、先程の鍵で同じように扉を開ける。
そして開けられたその部屋には先程の部屋と同じように縄で縛られた女の子が五人、そして――。
「ステラ!」
床に倒れているステラを見つける、すぐさま縄を切り口に巻かれていた布を外すと何度も声をかける。
意識を失っていたステラだったが、景虎の言葉に反応すると虚ろながら目を覚ます。
「ステラ大丈夫か! 生きてっか!」
「景……虎、やっぱり、きてくれた……」
「おい、大丈夫なのか、おい!」
「大きな声出さないで、まだ、身体が上手く動かないのよ……、麻痺毒がまだちゃんと、抜けてなくて……」
とりあえず命には別状がなさそうなのを確認して胸を撫で下ろす景虎、そして同じように縛られている女の子達の縄を切ってやる。
「とりあずこっから逃げるぞ、歩けるか?」
「ごめん、ちょっと、無理かも……」
見るとステラは立つのもやっとという状態だった。
他の女の子達も長期の間閉じ込められてたせいか、まともに立つこともできない感じだった。
「おい、どうすりゃいいと思うよ、担いで瞬間移動みたいのできーか?」
『無理だな、前にも言ったが私の力が及ぶのは景虎お前だけなのだ、それ以外の者に能力を使った場合どのような弊害が出るかわからん」
入り込んで助けられたはいいが、このままでは海賊達がやって来てしまう、そうなればステラ達はともかく、他の捕らえられていた少年少女達にも危害が及ぶと考えた景虎はどうするか悩んでいた。
と、そんな考える景虎にステラが声をかけてくる。
「景虎、私達は私達でなんとかするから、景虎は自分の事を考えなさい」
「あ? 馬鹿かてめぇは、んな状態でどうにかできる訳ねぇだろうが!」
「大丈夫、きっと、逃げ出して見せるから……、だから、景虎も早く……」
「おい!」
気丈に振舞うステラだったが、やはり麻痺毒がまだ効いてるのか再び床に倒れてしまう。
景虎はステラを助け起こそうとした時、その手に冷たい雫が流れ落ちる。
驚く景虎が見たステラの目には涙が溢れていた。
「お、おいステラ、てめやっぱどっか痛むんか?」
「違うの、ほんとに、何でもないの……、ほんとに……」
その言葉をきっかけにステラの目から涙が止め処なく流れ出す。
きっと怖かったのだろう、身動きが取れない状態で何をされるかもわからない恐怖、そして殺されるかもしれないという恐怖、ずっと耐えてきた感情が一気にあふれだしてしまったのだった。
「ステラ……」
「うっ……、ああっ……」
触れたステラの身体は小さく震えていた、声を上げて泣くステラを、気付けば景虎は強く抱きしめていた。
「大丈夫だステラ、俺は絶対にお前らを助けてやるからな、だからちっとここで大人しく待ってろ、いいな」
「うっ……、かげ、虎……」
涙の止まらないステラの頭を優しく撫でてやると、床にゆっくりと寝かせ、隣の部屋からシモンを呼び出す。
慌ててやってきたシモンに景虎は強い口調で話しかける。
「俺が今から海賊共をぶっ潰すから、てめーはステラ達を守れ、いいな!」
「で、でも僕にそんな事……」
怯えるシモンの肩に手をかける景虎、それに驚くシモンに景虎は強い口調で語る。
「いいか二度は言わねえ、てめーがステラ達を守るんだ! いいな!」
まっすぐに見つめられたシモンは涙を流し恐怖する、しかし肩に触れた景虎の手の熱を感じ、覚悟を決める。
「わかったよ兄貴、どのくらいできるかわからないけど、僕、守ってみせるよ!」
「助かる、大丈夫だ、絶対に俺が何とかしてやるからよ、てめぇはその間ここにいてるだけでいい」
景虎の言葉に頷くシモン、その後景虎は気絶して倒れている海賊を縛った後、シモン達のいた部屋に放り投げておく。
そして海賊達の持っていた武器をシモン達に渡すと外へと歩き出す。
景虎がいるのは海賊船の最下層だった、今は大体船の外に出ているのか海賊の数は少なかった。
それでも留守番として残っていたであろう海賊が、船の中を堂々と歩いている景虎を見つけ度肝を抜かれていると、慌てて景虎を止めようとする。
「お、おい何だてめぇ、どっから……」
次の瞬間、掴みかかろうとした海賊を問答無用で殴り飛ばす景虎。
「ぐぎゃあ!」
叫び声を上げて吹き飛ぶ海賊は、海賊船の壁に穴を開け、そこから海へとまっさかさまに落ちていく。
突然の出来事に驚くその船の海賊達、何事かと騒ぎ始め船の中へと入ろうとすると、その入り口からゆっくりと景虎が甲板に現れる。
呆然と見つめる海賊達の前で、景虎は背中に背負っていた大きな紅い斧を取り外すと柄を強く握り締めて構える。
「どけや」
威圧感ある声で放たれた言葉に一瞬たじろぐ海賊達だったが、ようやくにして我を取り戻して景虎を包囲する。
「て、てめぇどっから入りやがった!」
「覚悟は出来てんだろうな!」
ガラの悪い大声で景虎を威圧する海賊達、船に残されていた六人の海賊達は景虎の反応を待つも一切動く事のない景虎に焦れ、一人が掴みかかろうとした時。
「ぐぎゃああ!」
目にも留める事ができないほどの速さで振りぬかれた斧で吹き飛ばされる。
さらに残っていた海賊達もまた、いつ振り抜かれたかもわからないうちに叩きのめされ、悲鳴も上げる暇もなく船の外へと放り出されていった。
さらに景虎はその船のマストに斧を構えると、気合とともに振り抜きマストをいとも容易く切断する。
大きな破壊音と共に倒れるマスト、そして船は大きく破損し傾いていく。
「な、なんだ!」
突然の出来事に騒ぎ出す海賊達、その見つめる先にいるのは、破壊された海賊船の船首に立つ黒い服を着た一人の少年。
その手には少年の背ほどもあろうかという大きな紅い斧が持たれていた。
「お、おいこらてめぇ何モンだ! 降りてきやがれ!」
下から罵声を浴びせる海賊達、その数は数百人はいるだろう、だが景虎はそんな海賊達に物怖じする事もなく、鋭い眼光で睨みつける。
「てめーら、よくも俺の仲間泣かせてくれたな」
放たれた言葉には怒りが込められていた、大切な仲間を拉致して傷つけられた怒り、そして震えるステラの流した涙、あらゆるものが景虎の心に火を点ける。
「全殺しだコラ」




