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ドラゴンアックス  作者: kaz
海の章
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第二十五話 拉致

 景虎(かげとら)の活躍で海賊からの略奪を免れた貨物船「月の明かり号」の面々は、去っていくファイサルの海賊船に歓声を上げつつ、それを成した景虎を囲んで海賊を撃退してくれた事を感謝する。


「有難う、君のおかげで荷物は無事に届けられそうだ、ほんとに有難う!」

「まぁ、仕事っすから」


 船員達に感謝されまくる景虎は、柄にも無く照れていた。

 少し疲れたからという理由を申し出て、ようやく解放された景虎はステラ達の下に帰ってくる。


「とりあえず仕事はしたぞ」

「ほんと、あんた無茶苦茶よね、けどおかげで荷物も無事だったし怪我人もあれ以上出なかったし、お疲れ様」

「景虎君! ほんっとーにお疲れ様! これで護衛の料金満額貰えるわ! ほんとにほんとに有難うね!」

「兄貴さすがっす、僕一生兄貴についていきます!」


 三人に褒められて再び照れてしまう景虎だった。


 その後船は再び海賊に襲われる事も無く無事にダンガスト島に辿り着く。

 船長からはこのままデルフロスへの帰路も護衛を続けて欲しいと懇願されるものの、マリカが丁寧にそれを断り、護衛の料金だけを受け取り別れる。

 さらにラドミラ達もやって来ると景虎にスカウトの声をかける。


「あんた凄いわね、どう、私達とこない? 私達ならあんたをサポートしてあげられると思うんだけど」

「悪ぃけど俺ぁもうこいつらと組んでるんだ、もしこいつらと別れてどっかで会うような事になったら、その時にまた頼むわ」 


 景虎の言葉に残念がりながらも、ラドミラは景虎達に別れに挨拶をするとダンガストの町へと消えていく。


「さって、お金も入ったし、これからどうしましょうかね」

「とりあえずまずは宿探しね、拠点を先に作っておかないと何をするにも不便だし」

「じゃ、じゃあ僕が探してきますよ! 兄貴、待っててくださいね!」

「だからその兄貴っての……、ったく、とりあえずギルドに近い所を頼むな」


 その言葉に元気よく答えるとシモンは近所の店に入って聞き込みを始める。


「手掛かりがあればいいわね」

「ああ、でねーとここまで来た意味ねーしな」


 ステラと景虎が気合を再び入れ始めてるその横では。


「うはっ! 護衛の仕事って中々見入りがいいわねえ、またやろうかな」


 お金の計算に余念のないマリカがいた。





――ダンガスト島――


 クローナハの南に位置するこの島は、南北20キロメートル、東西60キロメートルという大きさの島で、古くから漁業を生業としていた。

 さらにその環境の良さから行楽地としても古くから人気のある島でもある。

 しかし数年前より海賊がこの島に現れ始め、度々ダンガスト島に駐屯する騎士団との交戦などもあって、その客足は年々伸びなくなっていた。


「参ったわね……」


 ダンガスト島で一番大きな街、ファーレルの宿屋の一室でマリカは頭を抱えていた。


「何があったんだよ?」


 珍しく悩んでいるマリカに何事があったのかと声をかける景虎。

 尋ねられたマリカは再び大きな溜息を吐くと、テーブルで同じく心配そうにしているステラとシモンにも説明をし始める。


「実はさっきギルドとか酒場とかで情報収集してきたんだけどさ、どうも今この島はえらい事になってるらしいのよ」

「えらい事って?」

「なんかね、近々海賊達がここに集まってくるらしいんだって」

「は? 何で?」


 マリカの話に驚いたステラが声色を上げて聞き返す、その疑問にマリカは再び大きな溜息を吐くと、ギルドから貰ってきた注意書きのようなものを机に広げて丁寧に説明していく。


「どうもね、海賊達が自分達の略奪した品物の物々交換みたいなものをやるそうなのよ、それも結構な規模で、十隻くらいは集まるんじゃないかって言われてるのよ。

「十隻! そ、そんなに!」

「去年までもそういった事はこの島で行われてたらしいんだけど、数は数隻とかの単位だったんで、ここの駐屯騎士団だけでもなんとかなったらしいんだけど、どうも今騎士団の交代時期で半分ほどが本国に帰還途中らしいのよ」

「じゃ、じゃあ今この街の警備は!」


 不安げなシモンの問いにマリカは少し待てという仕草をした後、葡萄酒を飲んで口を(うるお)してから、話を続けた。


「とりあえずこの街には警備の騎士団もまだいるし、冒険者を雇ったりもして海賊が去るまでは守るつもりらしいけど、それでも変装とかして入ってこられたらわからないかもしれないしね、正直しばらくはこの街も安全って訳にはいかないかも」

「いっそ海賊纏めて潰しゃいいじゃねーか?」

「まあ景虎君ならそう言うかもとは思ってた。けど今回は数が多すぎるのよ、多分全部合わせれば四百人くらいの海賊が集まるって言われてるの」

「四百! すげぇな、そんないんのかよ海賊」


 目を輝かせる景虎に呆れるステラとマリカ、とりあえずこの世界の一般常識がなさそうな景虎は置いておいて、マリカは顔を引き締め三人に伝える。


「とりあえずこういう状況だからくれぐれも街の外には出ないように、二日もすれば本島から交代の騎士団も到着するらしいから、それまではこの街で情報収集だけをするって事でいいよね」

「賛成」


 マリカの提案にすぐさま賛同するステラとシモン、だが景虎だけは腕を組み不満げな表情だった。


「俺だけでも外に行っちゃだめか?」

「だーめ! 景虎君が強いのはわかるけど、できればあまり問題を起こさないで欲しいのよ、何かあって逆恨みでもされてこの島の人達を巻き込んだりする訳にはいかないでしょ?」

「そうよ、こういったのは騎士団に任せておけばいいの、いい、余計な事はしちゃ駄目だからね! わかった馬鹿虎!」


 景虎の提案をマリカもステラもきっぱりと否定する。

 正直今は一刻も早く探しているフルヒトの手掛かりを探したいとの気持ちはあったのだが、マリカの言う通り、下手に騒動を起こしてこの島の人達まで巻き添えにするような事は、すべきではないとの判断を理解した。


「わかったよ、んじゃしばらくはこの街で情報収集だけしとくわ」

「ええ、とはいってもくれぐれも気をつけるようにね」

「わかった」


 こうして一応の取り決めをした四人はこの街でも情報収集を始める。

 景虎はマリカと、ステラはシモンと組んで情報集めを始める。

 まずドラゴンについて調べると、やはり二十年は見た事がないという話はここでも一緒だった。

 次に銀髪のフルヒトという人物について、しかしこちらもやはり情報はまったくなかった。


「くっそ、なんもねーな」

「慌てない慌てない、こういった聞き込みってのは焦ったら欲しい情報を取りこぼしたりしちゃうものなのよ、あちこちから聞こえる情報を聞き漏らさないようにして、そこから必要なものだけをかき集めていくの」

「で、何か情報になりそうなのはあったか?」

「とりあえずここの領主は鶏肉好きだっていうのはわかったわ」

「どうでもえーわ」


 マリカのどうでもいい情報に景虎は呆れるしかなかった。


 一方こちらはステラとシモン組、景虎達と同じように色々情報を探したものの、やはりドラゴンや銀髪のフルヒトという人物の情報は得る事ができなかった。


「ど、どうしよう、こんなんじゃ兄貴に怒られちゃう……」

「こんなんで一々怒ったりはしないでしょ、ってか何でシモンはそんなにあいつの事を尊敬してんのよ」

「だ、だって兄貴はドラゴン殺しなんですよ! い、今まで誰も殺せなかったドラゴンを唯一殺した人間! そんなの誰だって尊敬するじゃないですか!」

「そういうもんなのかなあ、私にはよくわからないわ、とりあえず景虎は馬鹿でスケベで馬鹿強いってのはわかるけど」

「兄貴の事を悪く言わないでくださいよお!」


 そんな感じでステラとシモン組は、和気藹々という感じで情報収集を行っていた。

 そして市場から少し離れた場所に来た時に、シモンが何かを見つける。


「あれ? ねえステラさん、裏道にも店があるみたいですよ」

「え? ああ、あーゆーのはやめといた方がいいわね、何か胡散臭いし」


 シモンが見つけたのは裏道にひっそりと構えられた店、店前にも人はまったくおらず、そもそも何屋かすらわからないといった感じだった。


「でも、もうこの辺りの店は大体聞き込みをしましたし、ああいう所なら何か裏の情報のようなものを聞けたりするかもしれませんし」

「そういうのにはお金がいるのよ、シモン持ってるの?」


 その言葉にシモンは懐を改め落ち込む、基本お金は姉のマリカが全て管理しているので、シモンには銀貨が一枚二枚が全財産という感じだった。


「さ、行きましょ、あんまり危ない事に関わったりすると痛い目を見るわよ」

「はいです……」


 後ろ髪引かれる思いでその場を立ち去るシモン、しかしこれが後に大変な騒動の元になるとはこの時ステラは思いもしなかった――。





――宿屋――


 その夜、宿に戻ってきた四人は情報の整理をする、しかしやはり手掛かりになるようなものは何もなかった。

 翌日また情報を集める事に決め、その日は寝る事にする。


「いやああああああああああああああ」


 翌日、マリカの悲鳴で寝ていた景虎とステラが叩き起こされる。

 何事かと部屋に入ってきた景虎が見たのは、茫然自失となったマリカとそれを必死で慰めているステラだった。


「何があったんよ?」

「う、うん、それがね、どうも泥棒に入られたらしくて、マリカの財布からお金が盗まれたんだって」

「マジか」


 驚く景虎、一方ステラは不思議そうな顔をしていた。


「どうしたよステラ?」

「うん、確かにお金は無くなってはいるんだけどね、それ以外はまったく手をつけられてないのよねー、あといくら私でも怪しい奴が入ってきたら気付くと思うんだけど、それもまったくなくてさ、何でかなーって思って」


 ステラの疑問に景虎は元ドラゴンで今は紅い斧に変じているフライハイトに聞いてみる、この元ドラゴンは気配のようなものを感じる事ができ、怪しい者がいればすぐに教えてはくれるはずだからだ。


「おい糞ドラゴン、昨日の夜って怪しい奴はいたか?」

『いや、少なくとも私の感じる範囲では何も怪しい者はおらなかったが』

「だよなあ、俺やマリカならともかく、同じ部屋で寝ているステラが気付かないって事もないと思うしなあ」

『そう言えば、お前と同じ部屋で寝ていた何と言ったか』

「シモンか?」

『そうそうそいつだ、そいつが夜起きて隣の嬢ちゃんたちの部屋に行ったが、何か関係あるかのう』


「シモンが!」


 景虎の突然の大声にステラが驚く、そして景虎は隣の部屋にシモンがいない事に気付くと。


「犯人はシモンの奴かもしんねーな、どうも夜お前らの部屋に忍び込んだらしいぞ」

「シモンが! そういえば、確かに誰か入ってきた気がしたけど、見知った気配だったから気にはならなかった、そうか、シモンが……」


 ステラが自分の落ち度と言わんばかりの溜息を漏らしているその横で、何やら闘気のようなものを放出するマリカが震える声で。


「シモン、やってくれるわね~、まさかこの私のお金を盗むなんてね~、ふふふふふ、どうしてやろうかしら~」

「けどシモンの奴何でそんな事したんだ? 何か欲しいものでもあったのか?」


 景虎は何故シモンがそんな無謀な事をしたのかがイマイチわからなかった。

 金の亡者マリカからお金を盗むような事をすれば、どうなるかなど長年一緒にいる弟ならわかろうはずだと思ったからだ。

 その言葉に何か気付いたのはステラだった。


「まさか!」

「何か心当たりでもあんのか?」

「え、ええ、昨日シモンと市場から少し外れた所に行った時に怪しい店を見つけたの、怪しいから近づくなって言ったのに、まさかあそこに!」


 言うが早いかステラは上着を羽織り、武器の短剣を持つと外へと駆け出していった。

 

「おい待てよステラ! 俺も行くから!」

「シモン~、どうなるかわかってんでしょうねえ~」

「……、こいつは置いていってもいいか」


 景虎はそう言うと自分の部屋に行き、着替えた後布に包んだ紅い斧を背負ってステラの後を追っていった。





――市場のはずれ――


 ステラは昨日の場所に辿り着く、裏道を見渡すもののやはりシモンの姿は見つける事はできなかった。


「シモン! いるの!」


 裏道に向かい声をかけるものの返事はない、怪しげな雰囲気のその場所に正直行きたくはなかったが、ステラは勇気を振り絞ってそこへ足を運ぶ。

 めい一杯注意力を働かせ、いつでも逃げれるようにしながらその店の前までやってくる、店は一見どこにでもあるような雑貨屋のような感じだった。

 深呼吸をして、取っ手に手をかけゆっくりとその店の扉を開ける。


 中はあちこちに品物が置かれ雑然とした感じだった。

 人はおらず、ステラも少しほっと吐息を漏らす、そしてシモンを確認できなかったので扉を閉めようとした時、店の中から煙草を吸うキセルを持った老人が現れ声をかけてくる。


「何か入用でしょうかいな?」

「あ、いえ、ちょっと人を探してて、けどいないようなので失礼します」

「シモンとかいう少年かいね?」


 シモンという言葉にステラは動きを止める。


「シモン、やっぱりここに来たんですか!」

「ああ、朝早くに来よったよ、何事かと思ったわいな」

「い、今シモンはどこに?」

「ここにいるわいな」

「?」


 老人の言葉にステラは一瞬なんの事か意味がわからなかった。

 だが、その一瞬の隙がステラの注意を鈍らせてしまった。


「!」


 気付けば、ステラの身体に針のようなものが刺さっていた。

 老人の手に持ったキセルは本来の目的をするものではなく、針を打ち出す吹き矢の筒だった。


「くっ、こ、これ!」

「あんまり動かないほうがいいわいな、その針には強い麻痺毒が塗りこんであるわいな、下手に動こうとすると怪我をして価値が下がってしまうわいな」

「価値って……、! あんた、まさか奴隷商人!」

「あんまり大きな声では言わないでほしいわいな、ここでは一応雑貨屋で通っているわいね」


 飄々と語るその老人は別のキセルを持ち出し火をつける、こちらは本来の目的でもある普通のキセルのようだった。

 キセルを吹かしながらその老人はステラを値踏みするように見ながら。


「あんたは高く売れそうだわいね、いや、ほんと私幸運ね」

「誰がっ! むざむざ売られるものですかっ!」


 言ってステラは街へと走ろうとする、だが麻痺毒が効いてきたのか足が(もつ)れ倒れてしまう。

 必死で身体を動かそうとするも、自分の意思ではもう何もできなかった。

 意識が薄れ、(まぶた)が重くなっていく、助けを呼ぼうとする声も出せない、ステラは必死で叫ぶ、きっと助けてくれるだろうと信じて――。


「かげ……とら」


 そしてステラの意識は無くなった――。


明日はちょっと休みます

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