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ドラゴンアックス  作者: kaz
海の章
22/76

第二十一話 仲間


 ――フルネク島――

 

 ステラは目の前に倒れている、8メートルはあろうかという巨獣の死骸を見て呆然としていた。

 一方その巨獣を一撃で倒した人物、紅い斧を持った景虎(かげとら)は一仕事したという感じで斧を布に包み、再び少女の兄を探そうとした時、呆然としていたステラが慌てふためいて景虎に近づいてくる。


「あ、ああああんたドラゴン殺しだったの! ねえねえ! ほ、本物なの!」


 景虎がドラゴンを殺した紅い斧使いだと気付き、詰め寄って問いただしてくる。

 そんなステラを睨む景虎は、その柔らかそうなほっぺを思い切りつねる。


「い、いひゃいいひゃい!(いたいいたい)にゃ()にゃにしゅるのよほお(なにするのよぉ)~」

「いいか一度しか言わねーからよく聞けよコラ! 俺ぁ面倒臭いのと五月蝿い奴が一番嫌いなんだよ! もし次てめーが面倒臭い事聞いてきたりしてきたらてめーのその長い金髪を短髪にしてやっから覚悟しとけやコラ! 返事は!」

ひゃ()ひゃい(はい)ひゃかひまひた(わかりました)


 まさにチンピラと言わんばかりのやり方で言う事を聞かせようとする景虎に、ステラは赤くなった頬をさすりながら涙目で睨みつけていた。


(こ、こいつ最低だ! ドラゴン殺しだか何だか知らないけど、人として最低の奴だ!)


 そんな事を思いながらも、口に出したらまた何かされるんじゃないかと怯えるステラは、身の危険を感じながらも景虎の後にについていく。

 一方の景虎は相変わらず大声で少女の兄を探していた。

  いつまた巨獣が襲ってくるかもしれないという恐怖に怯えるステラ、だが不思議と景虎と一緒にいると何とかなりそうな気がしていた。


(こいつ、巨獣を一撃で倒すなんてどんな鍛え方してんのよ。それにあの斧、凄く重そうなのにあんなに軽々と振るってたし、こいつ一体何者なのよ……)

「おい」

「ご、ごめんなさい! べ、別に悪口じゃないのよ!」

「あ? 何ボケてんだてめ、つまんねー事言ってっと無い乳揉むぞ」

(最低だ、ほんと最低だこいつ)


 景虎のセクハラ発言に改めて最低の烙印を押すステラ、しかし景虎はそんな事おかましなしに話を続ける。


「川もあるしとりあえず俺ぁそこで一旦休んで飯にするつもりだけど、てめーはどうすんだ? 見た所なんも持ってねーみてーだけど」

「え?」


 言われて改めて自分の姿を見るステラは血の気が引く、考えれば彼女は勢いで船に乗ってこの島にやってきたのだ。

 当然旅の用意もしていなければ食糧も持ってはいない、唯一持っているのは武器の短剣のみ。


 「あう……」


 あまりの自分の馬鹿さ加減に項垂(うなだ)れるステラは、その場にへたり込む。


「ほれ、何もねーならこれ食っとけ、余分には持ってきてっから」


 そう言うと景虎は鞄から出した干し肉をステラに渡す、干し肉は冒険者には必須とも言える携帯食だ。

 景虎は川から水を汲むと、それを飲みながら干し肉を食べ始める。

 その様子を見ていたステラは、干し肉を持ちながら恐る恐る景虎に問う。


「な、何でこんな事してくれるの? わ、私の事嫌ってるのに」

「あ? 何言ってんだおめーは、会ったばっかで嫌いも好きもねーだろうが、来ちまったもんはしょーがねーんだし邪魔さえしなきゃ嫌うもクソもねーよ」


 ステラは言葉を失う、この景虎という人物は無茶をしているように見えてちゃんと考えている事は考えているのだと。

 この巨獣のいる島に来たのも無謀な事ではなく、倒せると確信してるから来たのだろう、それに引き換え自分はただ勢いに任せてここに来てしまった。

 恥かしさと情けなさに顔を紅く染めたステラは、ここで負ける訳にはいかないと強気で景虎に言葉をかける。


「あ、ありがと! とりあえずお礼は言っておくわ。 干し肉のお金は帰ったらちゃんと払うから!」

「あ? いるかよんなみみっちい、気にせず食っとけよ」

「それじゃ私の気が収まらないのよ! いい! 帰ったらちゃんと干し肉の分のお金は払うからちゃんと受け取りなさいよ!」

「なんでそんな偉そうなんだよてめー」


 結局景虎が干し肉代を受け取るという事で話は落ち着くと、ステラは勝ち誇った顔で干し肉を美味しそうにほおばった。

 食事を終えた二人は、再び少女の兄を探す為に島の探索を始める。


 その後巨獣が出る事もなく、二人は探索を行ったが結局探している少年は見つからず、気が付けば辺りは暗くなっていた。

 景虎は予め用意していた松明に火を点けると暗い森の中の探索を始める、とステラの長耳がぴくりと動き、何かに気付く。 


「待って、今何か聞こえたわ」

「ん? また化け物か?」

「違う! 何か人の声みたいの! 間違いない、聞こえるわ!」


 景虎は耳をすますも聞こえるのは虫の鳴き声くらい、試しにフライハイトに聞いてみてもわからないと言うのみ、だがステラの必死さに冗談ではなさそうだと思った景虎はステラに問う。


「どっちだ?」

「あ、あっち! 川の上の方! 聞こえるのよ! ほんとに!」

「疑ってねーよ、けど俺にゃわかんねー、案内してくれるか?」


 その言葉にステラは(うなず)くと声が聞こえたという場所へ駆けていく、景虎もステラを追って森の中へと入っていく。

 そして時間にして大体20分ほど行った場所で、木に覆われた場所の根元に小さな穴が開いてるのを見つける。

 入り口は直径60センチほどでその周りは草に覆われてた。

 ステラはその穴に向かって走り出し中に向かって声をかける、すると(かす)かな子供の声が聞こえてきた。


「あ、う……」

「! 待ってて! すぐ助けるから!」


 言うが早いかステラは穴の中に入っていき、その声の主らしき人物を引っ張り出して助け出す。

 年は十三歳くらい、あちこちに傷を負い衰弱しきっていた。


「あの子のにーちゃんか、待ってろ、すぐ薬を」

治癒魔法(ハイレン)!」


 (あたた)かな光りが少年を覆う、景虎はこの魔法を前にも見た事があった。

 怪我を魔法で治すもので、使い手の力量次第では重傷の怪我を負った者でさえ治す事ができるものだ。

 ステラは必死で治癒魔法を使い、衰弱している少年を治していた。

 時間にして30分は行われたそれによって、少年は少なくとも最悪の状態からは脱せたようだった。

 しかしステラは力を使いすぎたのか、その場にどっと倒れこむ。


「おいてめー大丈夫か? ったく無茶しやがって」

「あ、の子……は?」

「おう、おめーのおかげで何とかなりそうだ!」

「そ……」


 ステラは景虎の言葉に微笑むと、そのまま意識を失ってしまう。





 ステラが再び目を覚ましたのは薄暗く、静かに揺れる船室の中だった。

 起き上がろうとしたステラだったが、治癒魔法で力を使いすぎたせいか、身体が重く上手く起きれずもがいていると、ステラに気付いた景虎が声をかけてくる。


「おう起きたか、結構寝てたな。身体大丈夫か?」

「こ、ここ? 船?」

「おう、今港に帰ってる所だ、もう半日もすりゃ着くだろ」

「そう……なんだ」


 確か船が来るのは昼くらい、この島から首都デルフロスの港までは一日はかかるはずなので、ステラは一日近く気を失っていたと計算する。

 朦朧とした意識の中で、ステラは少女の兄の事を思い出す。


「そ、そういえばあの子……、女の子のお兄ちゃんはどうしたの?」

「安心しろ、結構弱ってたけど死んじゃいねえよ、腹減ってたんでパンくれてやってたら美味そうに食ってたわ」


 楽しそうに話す景虎にステラも笑みが浮ぶ、少女の兄が無事だった、それが何より嬉しかった。

 安心して笑みを浮かべていたステラだったが、ふと気になる事があったので景虎に尋ねてみる。

 

「ところで……、聞きたいんだけど、私どうやってこの船に乗せられたの?」

「あ? んなもん俺がおめーをここまで運んでやったに決まってんだろうが。まぁたいして重くもなかったし、礼なんていらねーから……」

「へ、変態ー! ぜ、絶対私に変な事したでしょ! 寝てる間に私の身体を触ったりとか大切な所を覗いたりとかしたんでしょ! こ、この変態ー!」

「するかボケェ!」


 次の瞬間景虎の拳骨がステラの頭に炸裂すると、鈍い音と共にステラは再び眠りに落ち、港に着くまで起きる事はなかった。


 その後港に着いた船は景虎とステラ、そしてまだ歩けない少年を船長のミクラーシュが近くの民家に運んで休ませてやる。

 桟橋にはステラを心配したマリカとシモンが待っており、勝手に一人で無茶して船に乗った事について叱られまくっていた。

 その後景虎と一緒に広場へ向かい、少女を見つけると兄の無事を報告する。

 そして喜ぶ少女を連れ、港の近くの民家で寝かされていた兄と再会する。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」


 抱きつく妹を優しくなでてやる兄を見るステラ達は、その姿を微笑ましく見ていた。

 一方それを見届けた景虎は、特に声をかける事もなくその場を静かに離れ、外に出て行く。

 しかしそれに気付いた景虎に声をかける人物。


「ま、待って君! ちょって待ってよ!」


 自分の事かと思った景虎は声の主の方向を振り向く、そこにいたのはステラの仲間のマリカだった。


「き、君冒険者だよね? どこかのパーティとかに入ってるの?」

「いや別に、ってかそーゆーのめんどいから入ってねーんだよ。ずっと一人でやってきたからな」

「じゃ、じゃあ私達とパーティを組まない!」

「は?」


 マリカの唐突な提案に呆気に取られる景虎、一方のマリカは笑顔で景虎の返事を待っていた。

 とそこにステラが現れ、マリカの袖を引いて強めの声色で耳元で話しかける。


「ちょ、ちょっとちょっとマリカ何考えてるのよ! 何でこんな奴をパーティに誘ったりしてんのよ!」

「ふふん、この子かなりのお金を持っていると思うのよ、上手くいけば良い財布になってくれると思わない?」

「あんたね……、そのうち絶対痛い目にあうわよ……」


 聞こえない所でろくでもない事が話されてるとは露知らず、景虎は段々苛立ちはじめてくる


「おいコラ、人前でコソコソ話してんじゃねーぞ! そーゆーの一番ウゼェんだからよ!」

「ご、ゴメンゴメン! こ、この子も君がパーティに入ってくれればいいのになーって言ってたところなのよ、ね!」

「言ってないし」

「てめ、あんまチョーシこいってと女でも容赦なく殴るぞコラ」


 顔に青筋立てて怒りまくってるのはマリカとステラにもわかった。

 さすがにこのままではヤバいと思ったのか、マリカは深い溜息をつき、それっぽい理由を話し出す。


「ごめんなさい、実は私達今凄い借金を抱えちゃってるのよ、でね、それの返済に大きな仕事をしなきゃとは思ってるんだけど実力不足でね、だから腕の立つ人がパーティに入ってくれればって思ったの」

「んなもんギルドに行きゃいくらでもいるだろ、俺はとりあえずそーゆー面倒臭いのは好きじゃねーのよ、他当たれ」


 話をさっさと切り上げ立ち去ろうとする景虎に、あたふたするマリカ。

 別にマリカが哀れに思った訳ではないが、景虎のその態度が何か気に障ったステラは、挑発するかのように声をかける。


「そーやって逃げるのね」

「あ?」

「なんかさー、そうやって一匹狼気取りで一人でいるのが格好良いとか思ってんでしょ? それとも他人と付き合うのが怖いの?」


 ステラの言葉に怒りを露にした景虎が戻ってくる。


「てめー、わかった風に言ってんじゃねーぞコラ」

「図星突かれたからってからまないでくれる? あんたの事なんて知らないわ! けどね、そうやって自分はずっと一人なんだって思ってる奴に限って、ほんとは誰かと一緒にいたいって思ってるものなのよ!」

「てめ」

「殴るの? 別にいいわよ。けどね、ちゃんと殴るに値する理由で殴ってよね!

じゃないと私はあんたの事ずっとクズって思っててやるから!」

「…………」


 そういうと景虎の前に顔を突き出すステラ、必死で景虎を睨んではいるが、その手は微かに震えていた。

 マリカが慌てて間に割って入ろうとした時、景虎が大声を上げて笑い出す。

 突然の出来事に虚を突かれ、マリカもステラも唖然とする。


「わりぃわりぃ、いやほんとマジ格好悪いな俺、なんかちっと意固地になってたかもしんねーわほんと」

「な、殴らないの?」

「あ? てめーの言ってる事の方が多分正しいのに殴る訳ねーだろが、しかしてめーには参るわ、ほんと言いにくい事ズバッと言いやがって」


 そう言って頭を掻く景虎の顔は、少し優しい感じがした。

 ステラは会った時や、フルネク島での景虎を見て、こいつはきっとロクでもない奴に違いないと思ってただけに、こんな表情をするのが意外だった。


「あ、じゃ、じゃあさっきの話だけど私達とパーティを……」

「ああ、それはなしだ、別に意固地になってる訳でもねーしあんたらをどーこーって訳じゃねーよ。ただちょっと今探しモンやってんだ、かなりヤバいのをな、

そんなもんに関わらせたくねーんだよ」


 そう言って景虎はマリカの誘いを断って去ろうとする、だがそんな景虎を再びステラが呼び止める。


「一人で探せるの?」

「わかんね、けどまあやるよ、じゃねーと死んでった奴等に申し訳ねーしな」


 景虎の探し物というのが何かはわからなかったが、ふと見た景虎の顔が寂しそうだった事に、胸が締め付けられるような想いになったステラはそれに再びイラついてくる。


「馬鹿なのあんたは?」

「あ? んだとてめ」

「その探し物が何だか知らないけど一人で探せないようなもんなら他人を頼りなさいよ!」

「だからヤベーもんだって言って……」

「だから一人でチマチマ探すの? それで結局死ぬまで見つからなかったらどうするの? それでさっき言ってた死んだ人ってのは報われるの!」


 ステラの言葉に何も言えなくなる景虎、しかしステラは話すのをやめない。


「別に全部任せる必要はないじゃない、誰かに助けを求めて少しでも手掛かりになるようなものが見つかるだけでも一人より絶対良い筈でしょ、違う?」

「……、ほんとてめーはズケズケ言いやがる」

「そーゆー性格なのよ、で、どうするの? まだ一人でやるつもり?」


 問い詰めるステラに、景虎は参ったといった感じで嘆息する。


「この辺で一番モノ知ってそうな奴の心当たりあるか?」


 それに即答したのはマリカだった。


「ふふん、それなら私に任せて! 自慢じゃないけど私の情報網はこの国一番のものなんだから! まあ私にもわからない事はあるけどその辺もお金次第で知り合いに色々聞いてみるから安心してよ」

「いや、国一番ってのは流石に言いすぎでしょ」

「まぁ、国で百番くらいか、な」

「微妙すぎてわかんねーよ!」


 呆れる景虎にステラが言葉を続ける。


「けどまぁ、確かにマリカの情報網は凄いわよ、何でそんなくだらない事まで知ってるんだってくらいにね……」

「何がお金になるかわからないでしょ」


 楽しげに話すマリカとステラに景虎は笑みを溢す。

 すると少年の頭の中に話しかけてくるモノがいた。


『中々に楽しそうな人間達ではないか、こやつらとしばらく一緒にいるのも楽しいと私は思うがな』

「相変わらず楽しけりゃ何でもいいのなてめーは、けどまあ俺もこういった奴等は嫌いじゃねーけどな」


 そんな会話をした後景虎は、改めてステラ達の前に立つと頭を下げる。


「力を貸してくれ、ちっと行き詰ってんだ」

「もっちろん、じゃあこれから私達は仲間って事でいいよね!」


 マリカが満面の笑みで答える、だが景虎は一瞬返事ができなかった。

 ”仲間”という言葉にどう反応していいのかわからなかったからだ。


「どうしたの?」

「あ、いや、何でもねー、あんたはOKしたが、そっちのてめーはどうなんだ?」

「ステラよ!」

「あ?」

「名前! てめーとか言われるの私嫌いなのよね、だから二度と言わないで!」

「おう悪かったステラ、で、ステラはいいのかよ、俺が仲間で」

「まぁ別に良いわよもう、私も何か勧誘したようなもんだったし」


 表向きは仕方ない、という感じだったが内心はそうでもない感じのステラ、そこにマリカの弟のシモンもやってきて改めて自己紹介をする。

 

「んじゃ改めて、私はマリカ、マリカ=ドレイシー十九歳、わからない事があったら何でも聞いてね! ただし色々経費は頂くけど」

「ぼ、僕はシモン=ドレイシーです、よ、よろしくお願いいたします」

「ステラ=ブルザーク、変な事したら承知しないからね!」


 三人がそれぞれ挨拶をすると、景虎は頭を掻き少し照れくさそうに挨拶する。


「俺は景虎、出雲景虎(いずもかげとら)だ、よろしく頼むわ」


 こうして、景虎は初めて冒険者のパーティを組むことになった。


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