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ドラゴンアックス  作者: kaz
海の章
21/76

第二十話 巨獣 

――僕はクローナハにいるからね――



 景虎(かげとら)が目を覚ますと薄汚れた部屋の天井が見えた。

 ここはクローナハ共和国の首都デルフロスの古宿、景虎はある人物の言葉を手がかりにこの地までやってきていた。


『やっと起きたか景虎』

「ああ、またあの野郎の夢見ちまったわ、クッソ胸糞悪ぃ!」


 景虎の怒りの原因は先程の言葉を発したフルヒトという人物。

 その人物はリンディッヒでアースドラゴン(地竜)を操り騎士団の人々を殺し、フリートラント王国ではブルードラゴン(青竜)をラザファムという人物に与えて叛乱を起こさせ、結果として多くの国民を殺した。

 さらに誰からも愛されていた、ヴァイデン王国元第一王女にしてフリートラント王国王妃ディアーナをその手で殺した。

 憎んでも憎みきれないほどの人物、景虎は今、そのフルヒトなる人物を殺す為の旅をしていた。


「あの野郎クローナハにいるって言ったがよ、よく考えたらクローナハっても結構でかい国だから、クローナハのどこにいるかわかんねーっての!」

『まぁ焦らずじっくり探すしかあるまいて』


 元ドラゴンにして現在紅い斧となっているフライハイトは、そう冷静にアドバイスをする。

 景虎も色々なツテなどを頼って調べてはいたが、手がかりになるようなものはまったくなかったのだった。

 とにかく何かしらの手がかりを掴むべく、景虎は着替えを済ますと紅い斧を布に巻き背中に担ぐ


『できれば布を巻くのは簡便してほしいものなのだが』

「しゃーねーだろ、何か知らんが紅い斧持ってるとやたらめんどくせーのが寄って来るんだからよ、ったく、何がドラゴン殺しだ」


 現在クローナハでは、リンディッヒやフリートラントでドラゴンが倒された事が話題になっており、それを成した者が紅い斧を持った人物だという話が伝わっていた。

 その為、紅い斧を持っているだけで様々な人間が寄ってきて、根掘り葉掘り聞いてきたり触ってきたりするのだ。

 そういう事をされるのが滅茶苦茶嫌いな景虎、最低限の防衛として紅い斧に布を被せてわからないようにしていたのだ。


 一方フライハイトは斧目線で世界を見て回る事が楽しみだっただけに、布で隠されるとちゃんと見れなくなってしまうので不満だった。

 一応少しだけ隙間を開け、見れるようにしてやってはいるのだが。


「さて、んじゃ行くぞ、とりあえず冒険者ギルドに寄ってそれっぽい奴がいねーか聞いてくるからよ、てめーも気配みたいのは感じとけよ」

『わかっている』


 こうして景虎ははクローナハの首都、デルフロスの街へと繰り出す。

 活気のあるこの街には、人間以外にもエルフやドワーフといった珍しい人種の者達もいて、景虎は改めて自分のいた世界とは別の世界に来たのだと言うのを肌で感じていた。


「おお、何かほんとアニメの中に入った見てーだぜ、すげぇすげぇ」

『アニメとは何だ?』

「動く絵の事だよ、俺のいた世界じゃ普通にやってた娯楽だな」

『ほお。是非見たいものだ、景虎には作れんのか?』

「無理に決まってんだろーが、俺にゃあ絵心なんてねーしな」


 そんな感じで景虎がフライハイトと話しながら、街の広場らしき場所に出ると、幼い少女が何か必死に頼んでいるのを見かける。

 景虎はその少女があまりにも必死に頼んでいるのが気になったので、その少女に近づき尋ねてみた。


「どした? 何かあったんか?」

「お、お兄ちゃんを助けてください!」


 そしてこの子の兄がフルネク島という所に取り残され、危険な状態だと言うのを聞いた景虎は、その少女の目元まで座ると頭を撫でながらこう言った。


「よっしゃ、んじゃちょっとその何とか島まで行って兄貴探してきてやんよ」

「あ、ありがとうございます! じゃあこ、これお金」

「あ? いるかよんなもん、それはお前が持っとけ」

「だ、駄目です! お、お金ははけいやくとかいうのに必要なんだって、お兄ちゃんが言ってました! だ、だからこれは受け取ってください」


 まっすぐ見つめるその少女の言葉に笑みを見せる景虎は、とりあえず預かるという事で少女からお金を受け取った。


「んじゃ早めに戻るようにはすっけど、その間ちゃんと留守番してられんな」

「うん!」

「おう、いい返事だ、んじゃいい子で待ってろよ」

「ありがとう、お兄ちゃん!」


 元気に手を振る少女を後にして、景虎はフルネク島へ行く為に船を捜している時に――。


「ちょったあんた待ちなさいよ!」


 エルフと人間のハーフのステラと出会ったのだった。





 フルネク島へ向かう船上――


 フルネク島への航海は順調そのものだった。

 中でも景虎は初めての船旅とあってか、子供のようにはしゃいでいた。


「おっほ、すげーすげー、マジ海パネェな!」

「船旅は初めてか少年」


 聞いてきたのは船長のミクラーシュ、五十歳くらいの体格の良い男性だ。

 まさに海の漢という感じのこの男性は、気さくで皆からも好かれ、見ず知らずの景虎にも色々良くしてくれる人物だった。


「船どころか海に来んのも初めてなんすよ、何ですげー楽しいっすわ」

「はっはっは、中々見所があるな少年! いっそこのまま漁師にならんか?」

「そっすね、それもいいかも、けどまだちょっとやんないといけない事があるんで、今は保留って事で」

「そうか、まあやる気になったらワシの所に来い、色々相談に乗ってやる」

「ありがとうです」


 そんな感じで景虎は船員達と和気藹々(わきあいあい)とやっている頃、もう一人、招かれざる客人のハーフエルフのステラはというと……。


「うー、ぐるじいよー」


 船酔いでグロッキー状態だった。

 ステラは船に乗るのが初めてだった。

 始めはこのくらい大した事はないわ! という感じで乗っていたのだが、しばらくして気分が悪くなり、あっという間に船酔いになってしまう。

 その後ステラはそのまま船室に直行し、ずっと毛布に包まって苦しみ続けていた。

 そんなステラの様子を見に来た景虎は、呆れた様子でステラに声をかける。


「だから邪魔だっつったのに、ほんと馬鹿だろてめーはよ」

「…………」

「とりあえずてめーは島についたらそのまま帰れよ」

「やだ」

「あ?」

「私も島に行くし!」


 毛布に顔まで隠してくるまりながら、ステラは景虎にきっぱりといい放つ。

 その言葉に呆れる景虎は深い溜息を吐くと、ステラの近くに水の入った水筒を置いて船室から出て行く。


「うう……、負けないもん」


 強がったステラだったが、結局まともに寝る事もできず、フルネク島に着くまでずっと船室で苦しんでいたという。

 一方景虎は船長や船員達と意気投合し、船旅を満喫していた。


 そして船はほぼ予定通りの時間でフルネク島に辿り着く、海岸の近くに接岸すると、景虎とステラを岩肌の比較的無難そうな場所に降ろす。

 仕事なのでここまで連れて来たものの、やはり島にいる巨獣の存在が気になったのか、船長は心配しながら景虎達に問うた。


「改めて聞くが、ほんとにこの島の残るのか? ここには凶暴な巨獣がおるで、正直命の保障はできんぞ」

「まぁなんとかなるっしょ、残された人見つけたらすぐ帰るっすから」

「そうか……、ステラもいいのか?」

「も、もちろん! 大丈夫よ!」


 あきらかに無理しているのはわかったが、ミクラーシュはそれ以上追求する事はなかった。


「わかった、じゃあワシら少し離れた小島で待っとるで、明日の今頃くらいにここで待っててくれ」

「ありがとです、もしここにいなかったら帰ってくれていいっすから」

「え!」


 景虎の言葉にステラは驚く、もし一日で探しだせなかったらここに置いていかれると思ったからだ。

 それに気付いたのか、ミクラーシュが笑顔を見せるとステラに説明する。


「心配すんなステラ、別に置いていったりはせんよ、結構な金も貰ってるしな、

とはいえわしらも仕事をせにゃならんで、明日おらんかったら一度港に戻って色々やらんといかんってだけだ、また二~三日したらここにくるでよ」

「あ、そ、そうですね、は、はは……」

「だから邪魔だっつったろーが、ビビってんならてめーはもう帰れよ」


 ステラの不安げな様子に、少年は呆れた様子で声をかける。


「ば、馬鹿にしないでよ! ここまで来て帰れる訳ないでしょ! おじさん達どうもありがとうございます! 私は大丈夫ですから!」


 その言葉を言った後ステラは一人先に島の奥へと進んでいく、それを見たミクラーシュは景虎に近づき小声で(つぶや)く。


「少年よ、ステラの事助けてやってくれ、あの子はどうも無茶するんでな」

「まぁ見捨てるような事はしねーけど、ほんとめんどくせー奴だなあ」

「はっは、根は良い奴なんだ、頼むぞ少年」

「おう、任された!」


 その言葉を聞いたミクラーシュは顔を緩め、景虎と握手をした後船を出航させて島から離れていった。


「さって、行くか」


 島は人があまり立ち入らない場所もあってか、道らしい道もなく長く伸びた雑草や足場の悪い場所が行く手を遮っていた。

 しかし景虎はそんな事もおかまいなしに先へ先へと進んでいく。

 そして、気付けば先に島に入っていったステラを追い越していた。


「な、何なのよあいつ!」


 ステラはこういった山道などは慣れてはいたものの、それでも景虎に追いつくので精一杯だった。

 時間にして一時間ほどで景虎は島の中で一番小高い丘に辿り着く、そこで地図のようなものを見ながら持ってきた水を飲んでいた。


「はぁ、はぁ、あ、あんた何者なのよ、こ、こんな……」

「とりあえず北の方にもうちっと行ってみっか、足場悪そうだし、でかいのはこれないだろーから子供とか隠れてられるかもしんねーし」

「だから人の話聞きなさいよ!」


 ステラが必死で話しかけるも景虎はマイペースで少女の兄を探す、それがステラには益々気に入らなかった。

 自分だってあの女の子の兄を探したいと思っていたのにそれが出来なかった。

 なのにこの少年は迷う事無くあの女の子の兄を探す事を決め、危険なこの島に行く事を決めた。

 ステラは何が違うと言うのだろうと、ずっと自分に問い続けていた。

 しばらくして少年は北に向かって歩き出す、岩場がむき出しの場所までやってきた時、少年は思いもよらぬ行動をとった。


「おいこらガキ! 助けに来てやったぞ! いたら返事しやがれ!」

「なぁっ! あ、あんた何やってんのよ!」

「急いで出てこねーと行っちまうぞ おい! いんだろガキィ!」


 なんと景虎は大声で女の子のお兄ちゃんを探し出したのだ。

 声は反響して静かだった島には景虎の大声が響き渡る。

 ステラは恐怖した、この少年はこの島には巨獣がいるといのを知らないんじゃないかと、もし奴等に気付かれたら命の保障などないというのにと。


「あ、あんた正気なの! そんな大声出したら巨獣が来ちゃうでしょ!」

「ああ? 声出さねーと見つけらんねーだろうが、てめーも探せよ」

「出せる訳ないでしょ! ねぇあんた馬鹿でしょ! 馬鹿なんでしょ!」


 そんな言い合いをしているとステラの恐れている事が起こってしまう、大きな地響きが聞こえ、それは確かにこちらに向かってくるのがわかった。

 そして、森がざわめき始めそれが姿を現す。


「きょ、巨獣……」


 現れたのは身長が8メートルはあろうかという黒い人間のようなもの、口とおぼしき場所からは白い息が見て取れた。

 巨獣は景虎とステラを見つけると、息を荒げてゆっくりと近づいてくる。


「に、逃げないと、早く逃げないと!」


 必死にこの場を去ろうとするステラではあったが、景虎は動かず巨獣をじっと睨み続けていた。


「あんた、何やってんのよ早くっ……」

「ちっと黙ってろや、さっきからピーピーうるせえんだよ!」


 威圧感ある景虎の言葉に黙ってしまうステラ。

 この少年は何がしたいんだろうと疑問に思っていると、巨獣は狙いを定めたかのようにその巨体を揺らし走って近づいてきた。

 地面が揺れ、その黒くて大きな腕がステラと景虎に襲い掛かる。

 ステラはその恐怖に耐えられず、その場に座り込んでしまった。


「もう、だめっ!」


 覚悟を決めた次の瞬間響き渡る轟音とけたたましい叫び声、目を(つむ)ったステラは自分が巨獣に食べられる事を予想していたが、何秒たっても自分に巨獣が襲い掛かる様子はなかった。

 恐る恐る瞑っていた目を開いていくと、そこには信じられない光景が目に映る。


「グオオオオ!」


 巨獣が苦しみの叫び声を上げていた。

 見れば、自分達を捕らえようとしていた巨獣の右手がなかった。

 切れた右腕からは大量の血が噴出し、左手で必死で血を抑えようとしていた。

 ステラには意味がわからなかった、何故そんな事になっているのかが、だが、ふと見ると先程の少年がいなかった。

 どこにいるのかと探すと。

 

「吹き飛べこんボケがああああああああああ!」


 いつの間にそこにいたのかと思った。

 その少年は8メートルはあろうかという巨獣の肩に乗っていた。

 そして、持っていたその大型の斧をめいいっぱい巨獣に向けて振りぬくと、まるで薪を割るかのように綺麗に首が切断された。

 切断された首は遠く離れた場所に大きな音と共に墜落する。

 一方切断された巨躯の身体は、首から大量の血を噴出し、ゆっくりと崩れ落ちていく。

 地響きと共に地面に倒れこんだ巨獣、何が起こったかわからないステラは呆然とただ見つめる事しかできなかった。

 

 そして唯一動く少年が持っているものが目に映ると驚愕の表情をする。

 少年が持っていた大型の斧の色は紅だった。


 ステラは知っていた、紅い斧を持つ人物の事を、そしてその人物がこう呼ばれていた事を。


――ドラゴン殺し――


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