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ドラゴンアックス  作者: kaz
地の章
2/76

第一話 出会い

異世界モノが好きです。

【ドラゴンアックス】


 「くそったれ!」


 降り注ぐ雨の中で悪態をつく少年、その身体は傷だらけで着ていた学生服もあちこちが破れ血が(にじ)んでいた。

 その少年の周りには数十人の同年代の学生が、(うめ)きながら倒れていた。


 事の起こりは数時間前、いかにも悪そうな不良学生のグループが一人の少年から金を巻き上げようとしていた。偶然それを目撃した少年は躊躇する事なく不良共に殴りかかり、(またた)く間に叩きのめしてしまう。

その場を去った少年ではあったが、倒れていた不良が仲間を呼んで数十人で少年を取り囲む。そんな不良達に少年は臆する事無く挑発する。


「めんどくせーからまとめて来いや!」


 その言葉にブチ切れた不良達は言われた通り全員で殴りかかる。しかし少年はそれを待ってたかの如く迎撃し、一人また一人と叩きのめしていった。

 血まみれになりながら雄叫びを上げ殴り続ける少年。ふらつくその身体で最後の一人を倒すと、少年はその場に倒れ、心と身体の痛みに打ち震える。


 ――いつもの事だった――


 少年は子供の頃から他人に好意を受ける事がなかった。それは肉親も同じで生まれた時から愛情を受ける事無く育てられた。

 酒を飲み当り散らす父、愚痴ばかり言う母、その二人からの暴力に少年はただひたすらに耐え生き延びていた。

 五歳になり転機が訪れる。両親が離婚し、少年は母と共に小さなアパートへ暮らす事になったのだ。少年は子供ながらに安堵し、少なくとも父の暴力から逃れられた思ったのも束の間、母が少年を置いて蒸発した。


 ――少年は捨てられたのだ――


 食べ物も飲み物もない中、少年は餓死する寸前で保護され施設に預けられた。だが何も変わる事はなかった。年上からのいじめ、それを形だけで叱り付ける職員、少年はここでも一人だった。

 小学校に行っても少年はその境遇からイジメられた。だが少年はそこでついに反撃をする。イジメを行っていた同級生を殴り大怪我をさせたのだ。だが当然叱られるのは少年だけ、そして少年は気付いてしまった。


 ――誰も自分を守ってはくれない――


 それからの少年はただひたすら自分を鍛え、攻撃してくる者は容赦なく攻撃した。全ては自分を護る為に。

 中学に上がる頃にはもう誰も少年を攻撃する者はいなくなっていた。同時に、近づいて来る者もいなくなっていた。

 しかし、少年はそれでも良いと思っていた。その方が楽だからと――。

 中学時代も少年は荒れずっと喧嘩ばかりしては何度も警察の世話になった。そして今日もまた少年は人を殴り続けていた。

 だがその度に少年は心と身体に痛みを感じ続けていた――。


 少年の顔に冷たい雨が強く当たる。ボロボロになった学生服をどうしたものかと考えるがもうどうでもよかった。何も良い事がなく、ずっと苦痛な日々、だから想う、何度も想う――。


「こんなくそったれな世界から絶対抜け出してやる」


 次の瞬間、少年の視界が暗闇に包まれた。何も見えない完全な暗闇に――。


「んだよコレ、なんも見えねーぞ……」


 手探りで周りを確かめようとするも何にも触れる事ができない。大きな溜息を吐いて座り込む少年。地面を確認すると寝っころがって吐き捨てるように言った。


「もう好きにしやがれ」


 そして少年はそのまま眠りについた――。


 どのくらい時間が経ったろうか、疲れきって眠っていた少年は暖かな光が降り注ぐ事に気づく。もう朝かと思い眠い目を擦りながら目を覚ます少年、欠伸(あくび)をしながら周りを見た少年はその光景に愕然とする。

 少年が目を覚ましたその場所は鬱蒼(うっそう)と茂った森の中で、少年が今まで見た事もない光景だった。ずっと都会暮らしで見るものはすべて灰色か黒の世界、そんな少年の目に映る深緑の森はとても美しかった。しばし見入った少年ではあったが、ようやくにして現状の異常さに気づく。


「ここどこだよ…」


 さっきまでは確かに少年の言う糞ったれな町並みだった。灰色と黒の世界、考え抜いた末少年はこう結論を出した。

 不良共と大喧嘩をした後、そのまま寝むりこけ、拉致られ森に捨てられてしまったのだろうと。


「捨てるにしてももうちっとマシな所に捨てやがれ!」


 そう吐き捨てる少年ではあったが顔には笑みがこぼれていた。どうせ死ぬにしても糞みたいなあんな町よりはここのが良いと思ったからだ。ただ少年はまだ死ぬつもりはなかった。くたびれた服を叩き埃を払うと道を探すために歩き出す。

 森はどこまでも続いていた。人がいたような形跡はまったくなく、それどころか動物さえ見当たらなかった。スマホでも持っていれば時間もわかったろうが、少年は当然そんなものは持ってはいなかった。

 「まぁ大体二時間くらいか」、自分の感覚でおおよその時間を割り出す少年。水なり食べ物なりがないかを探すが、それっぽいものは何も見つけられなかった。


「マジでなんもないな」


 やっぱり自分はもうここで死ぬしかないのかと半分諦めかけたその時、初めて歩く音と風以外の音を聞く。それは低く何かの唸り声のようなケモノのような声だった。

 本来なら近づく事を避けるのが当然ではあるが、少年はあえてその声の聞こえた方向へと向かって走り出す。林を駆け抜け声の聞こえた方向に走った時、それは少年の耳ではなく、頭の中に直接響くように聞こえてきた。


『お前は誰だ?』


 低く、そしてとても響く声だった。自分の知ってる”言葉”というものは全て悪辣(あくらつ)で自分を卑下し見下すような汚い言葉ばかりだった。

 少年は答える事なく”ソレ”がいるであろう場所に足を向かわせる。と、ソレが見えた時少年は生唾を飲み、目を凝視してしまう。

 少年の目に映ったソレは、顔だけでも自動車くらいの大きさのある――。


 ――巨大なドラゴン()だった――


 少年はTVや漫画のようなものはよく見ていた。一人でいる時はそういったものを見て現実逃避をしていたからだ。しかし、そんなものが現実に存在しない事も知っていた。TVや夢物語だけの生物、だが少年の目の前に存在するものは確かに”ドラゴン”だった。


『人間か』


 再び頭の中に響いてきたその言葉に少年はようやく正気に戻る。現実離れしたこの状況にどうしたものかと戸惑(とまど)っていると――。


『別に取って食うつもりはない、安心しろ人間』


 優しく諭すように頭の中に響いてくる。その言葉に自分が情けなくなったのか、少年はドラゴンに向かい強気で()えた。


「別にビビってる訳じゃねーよ! ただちっとばかし驚いただけだ!」


 自分でも言ってる事に矛盾を感じながらも強気で反論する少年。一方ドラゴンはそんな少年を優しく見つめながら言葉を響かせてきた。


『人間が何故こんな所にいる、ここは人間が簡単に立ち入る事ができぬ場所のはずだぞ』


 問うドラゴンに少年は言った。


「あ? 知らねーよ、俺だって気づいたらここにいたんだよ、ってかここどこだよ? 俺ぁさっきまで街で喧嘩してたはずなんだがよ」

『ほう』


 少年の言葉に何か気づいたドラゴンはさらに言葉を続ける。


『人間よ、お前の事を話してはくれんだろうか? そうすればお前が何者でどこから来たかがわかるかもしれん』

「マジかよ?」

『聞いてみなければわからんがな』


 その言葉に少年は何故か嫌な気分にならなかった。今までも自分の事を聞いてくる奴はいたが、興味本位で聞くだけで何を助言するでもなく、決まって言う言葉は仲良くしなさいだった。

 何度もふざけるなと少年は思った。一方的に悪意を向けてくる者にどうやって仲良くしろというのだと。だから自分の事を聞いてくる者はずっと無視してきた。だがこのドラゴンには話してもいいのかもしれないと思った。


 少年は話す、自分の今までの生い立ちを。まだ十五年しか生きていないくせに何をと言う奴もいるかもしれない、それでも全てを話した。自分が何をされて何をしてきたのかを――。

 こんなに話したのは初めてだったのかもしれない、子供の頃は助けを求める為必死で「助けて」だけしか言わなかった。どのくらい喋ったのかわからず、ようやく話し終え声が枯れ果てた少年にドラゴンは言った。


『お前は強いな』

「別に強くなんかねーよ、ずっとボコボコにされまくってたんだぜ」

『そうでもないだろう、お前はどんなに辛い事があっても前に進む事を諦めなかった。何があっても生きようとした。それは生物にとっては何にもまして大切な事ではないか、だからお前は強いのだ』


 少年は言葉が出なかった。多分これは”褒められている”のだと、こんな無様な自分を褒めてくれるものがいるとは思わなかった。しかもこんなドラゴンに――。

 誰もが自分をゴミのように扱い、聞く耳を持ってくれなかったのに――。

 少年の目から熱いものがこみ上げてくる。目の前が霞む、情けないと思いつつ何度も目を拭うも涙が止まらない。こんな姿を見られるのは嫌だと少年は立ち上がり、その場を立ち去ろうとした時ドラゴンが呼び止める。


『待ってくれ人間、お前に頼みたい事がある』

「あん? 頼み?」


 ドラゴンの言葉に少年は聞き返す。涙はまだ拭いきれてはいないものの判断力はしっかりしていた。だから次に発せられた言葉の意味が一瞬わからなかった。


『私を殺してほしい』


 言葉の意味を精査する少年はドラゴンの言った意味を何度も繰り返す。そして湧き上がる感情、手を握り締め、先ほどまでとはまったく違う怒気をはらませた声で少年は叫んだ。


「ふざけんなてめぇ! さっきまで俺の事を強いだの生きようとしただのと言ってただろうがっ! それがなんだ殺せだ? てめぇやっぱ俺をおちょくってんのかよ!」


 もしも相手が人間だったなら大人だとしても少年は殴りかかっていただろう。こいつも結局今までの奴らと同じで、俺をおちょくって楽しんでいるんだと。だがドラゴンはそんな少年に優しく言葉を続けた。


『すまん人間、気を悪くしたのならば謝ろう、だが決してお前を馬鹿にした訳ではないのだ』

「じゃあなんだよ! 何で殺せとか言いやがった!」

『私がもうすぐ死ぬからだ、もうすぐ……、そうだな、お前が一眠りするくらいの時間で……」


 その言葉に少年は声を詰まらせた。ドラゴンが死ぬと言ったからだ。少年が一眠りするくらいの時間というと、大体三時間ほどくらいでこいつは死ぬと言ったのだと。


「マジかよ……」

『ああ、今の私を見るといい、私の身体にはもう力がない、動くことすらもうままならんのだ』


 ドラゴンの言われた通りしっかり見てみると、確かにドラゴンの身体にはあちこち傷があり、しかも身体の鱗はボロボロに剥がれ落ちていた。

 さらに出会った時はその大きさにばかり気を取られてはいたが、身体の下半身は腐り、今にも崩れ落ちそうな状態になっていた。


『このままではただ朽ち果てていくだけだ、だがお前が殺してくれれば……』

「だから何でそうなんだよ! 俺は確かに今まで喧嘩ばっかしてきたが殺しはやった事ねぇぞ! それをてめぇ死ぬから殺せって! んな事できっかよ!」

『最後まで話を聞いてくれ』


 遮るドラゴンの言葉に少年は歯を食いしばりながら続く言葉を待つ、それを確かめたドラゴンは静かに言葉を続けた。


『このまま死ねば私はただ土に帰るだけとなってしまう、だがお前に殺しもらえれば、私は再び生き続ける事ができるのだ。そうだな、お前たち人間の言葉で言う所の転生というやつだ』

「転生?」

『そうだ、お前が私を殺してくれれば、私はその魂をお前に預ける事ができる、そうして私は生き延びるのだ』

「てめぇ、俺を殺して乗っ取る気か?」

『できるならそれもありかもしれんが安心しろ、それほどの力はもうない』

「信用できるかよ」

『そうか……、ならばこの話はもうおしまいだ、すまないな人間よ』


 寂しそうなその言葉、少年は心が締め付けられるような気分になってしまう。ずっと人を信じず、人を疑う事しか知らないのだからそれも仕方がないと少年は自分で自分を慰めた。

 このドラゴンがどこまで真実を語っているのかも怪しいものだし、言われた通り殺せばどうなってしまうのだろうかと。このドラゴンはもうすぐ死ぬかもしれない、それはそれで嫌だ、何故かそう思ってしまった少年は問う事にした。


「おい、もし俺がてめぇを殺したとして、てめぇが俺に危害を加えないって約束できんのか? 殺した時は大人しくしてても、力つけたら取って食おうってすんじゃねーのか?」

『ふむ、なるほど、お前は中々用心深い奴だな』

「茶化すな!」

『すまん、だがそうだな、信じる事ができぬというのも無理からぬ事か、ではこうしよう、私は別のものに魂を封じよう、そしてそれをお前が持つといい。もし私が不穏な事をしようとしたら、それを破壊すればいい、どうだ?』

「ちゃんと壊せるんだろうな」

『壊せないと思えばどこぞに捨てるも埋めるもよかろう、そうだな、破壊の言葉も教えてやろう』

「至れり尽くせりで逆に胡散臭ぇな」

『ほんとに用心深い奴だなお前は』

「そういう世界で生きてきたからな、だがまあてめぇの言葉に乗ってやるよ、お望みどおり殺してやんよ」


 その言葉に今度はドラゴンがパチクリと(まばた)きをする。


「なんだよ?」

『いや、お前は先ほど殺しをした事がないと言っていたからな、どういう心変わりかと思ってな』

「あ?お前さっき転生して生きるって言ったじゃねーか、じゃあこれは殺しじゃねーだろが!  転生ってのがどーゆーもんかはわからねーが生まれ変われるんなら生き続けるって事だろ!」


 少年の言葉にドラゴンが楽しげに笑う。とは言っても大きさが大きさだけに、その笑い声は森に響きわたり、少年からすればかなり五月蝿(うるさ)いものだった。その事に声を荒げ文句を言う少年に対し、ドラゴンは申し訳なさそうに答える。


『すまんすまん、いやこんなに楽しいのは久しぶりだ、人間よ礼を言うぞ』

「そう思うんなら厄介な事すんじゃねーぞ」


 そして少年はドラゴンを殺す為の準備をはじめる。とはいってもこれだけの大きさのドラゴンをどう殺したらいいのかまったくわからなかった。そんな少年にドラゴンは近くに落ちている古く錆付いた武器の中から好きなものを使えと教える。ドラゴンに聞くとこの場所は古戦場だったらしく、見れば古い武器や甲冑が山のように捨てられてあった。

 錆付いたり欠損した武器の中からまだマシなものを探すと、柄の長さが一メートル、刃の大きさは四十センチはある戦斧と言われるものを見つけ出す。少年はソレを手に取り振ってみるとずしりと重みが残り、まだ全然使えそうだと確認してドラゴンの元に戻っていく。


「よっしゃ、これでいいか? つってもこんなもんじゃてめぇは殺せねーかな」

『問題ない、ソレを私の頭に突き立てれば私は死ぬだろう、すでにドラゴンの鱗は剥がれ落ちておるから、人間の武器でも突き刺す事は容易であろうて』

「マジかよ! あ、言っておくが失敗しても俺を呪い殺すんじゃねーぞ!」

『約束しよう』


 これから殺されるというのに楽しげに語るドラゴンに、少年もつられて笑ってしまう。そしてドラゴンの言われるがまま頭の所に向かい、眉間の辺りに狙いを定めて戦斧を大きく振り上げる。


「じゃあな、ちゃんと殺すからちゃんと生き返れよ!」

『頼む』


 力いっぱい振り下ろされた戦斧はドラゴンの眉間に見事に突き刺さる。硬そうな鱗のないドラゴンの肌は、戦斧を弾く事もなく血も出る事もなかった。

 ドラゴンは呻き声すら出さず、あまりの反応の無さに少年は失敗かなと思い、もう一度戦斧を抜こうとした次の瞬間、ドラゴンの身体が光り輝いた。

 次々と光となって消えていき、それはついに頭の部分までも消え去っていく。少年はそのあまりの眩しさに目を瞑り、咄嗟に逃げる事を忘れた事を後悔していた。


 しばらく辺りを静寂が包み込む。少年が目をすこしづつ開くとそこには先ほどまであった巨大なドラゴンの姿は影も形も残っていなかった。

 まるで夢かと思うような事にしばらく立ち尽くしていた少年の頭に、直接声が響いてくる。


『ふう、上手くいったようだな』


 声のしたものを探す少年、しかし周りにはドラゴンどころか生き物の姿すら見えなかった。ただ少年は先ほどドラゴンのいた場所に一本の紅い大きな斧が地面に突き刺さっているのを見つける。

 少年はその紅い斧に惹かれるように近づいていった。柄の長さは少年の背と同じくらいあり、一メートルはあるとても堅くて大きな刃を持っている片刃の斧だった。恐る恐るそれに触れると、再び先ほどの声が頭の中に響いてくる。


『そう恐れるな人間、この斧は私だよ、先ほどいたドラゴンだ』

「マジかよ!」

『ああ、私は今この斧の中に転生し、生きている事ができているのだ』

「すげぇ、マジそんな事できたのかよ」

『お前のおかげだ』


 礼を言う斧というのがかなりシュールな光景ではあったが、少年はまぁいいかと納得をする。とりあえずドラゴンが無事だった事に安堵してしまう少年。と、斧となったドラゴンが何かを思い出したらしく景虎に話しかけてくる。


『そういえば、まだお互い名を名乗ってはいなかったな』

「ああ、そういやすっかり忘れてたわ、何もかんもいきなりだったしな」

『では改めて名乗ろう、我が名はフライハイト、我が願いを聞き届け、転生を手助けしてくれた恩に報いるべく、これからはお前の力となってやろう』

「なんか気持ち悪いな、まあいいや、とりあえず悪さだけはすんじゃねーぞ!

 俺の名前は出雲景虎(いずもかげとら)だ、よろしく頼むわ」

『イズモカゲトラ? うむう、呼びずらいな……』

「景虎でいいよ、景虎で」

『カゲトラ、景虎か、うむ、よろしく頼む景虎』


 挨拶を済ませた景虎は斧となったフライハイトを試しに持ってみる。と、その斧は軽々と持ち上げる事ができた。先程落ちていた戦斧はずっしりと重く、振り回すだけでも結構大変だったのだが、それよりも大きいこの紅い斧はまるで竹刀くらいの重さにしか感じず、振り回すこともまったく苦ではなかった。


「なんだこりゃ? 中身空気のパチモンか?」

『パチモン? 意味はわからぬが、我が身がお前の身体の一部のようなものだと思えば良い』

「身体の一部? どういう事だそりゃ?」

『お前に我が力の一部を預けたのだ、多少ではあるが、お前の身体能力が向上しているだろう、そのせいで多少の重さは苦にもならぬのだ』

「てめ、勝手に人の身体をいじくってんじゃねーよ!」

『すまん、礼のつもりではあったのだが……』

「ちっ、まあいいわ、とりあえずてめーのその力のせいで俺ぁ力持ちにでもなったって事か?」

『それだけでもないがな、動く速さも耐久力も、回復能力も全て普通の人間よりは強くなっているであろう』


 はぁと深い溜息を吐く景虎。勝手にやられた事に納得はしてなかったが、今更済んだ事をどうこう言っても始まらないと思った。何よりフライハイトとしては景虎の為に善意で行った事のようであったろうし。

 景虎は紅い斧を再び振り回してみる。しっくりくる、そう感じずにはいられなかった。さらに二度三度と振り回してみると、自分の手足の延長戦のような感覚に景虎は顔をほころばせる。


「さっきは悪かったな、これすげぇ良い感じだわ、けど俺を無視して勝手に俺の身体に何かすんのはこれでやめろよ」

『了解した景虎、ところで景虎はこれからどうするのだ?』


 そう語ったフライハイトに、景虎は周りを見回すとしばらく硬直する。


『どうした?』

「あ、えーっとだな……」


 汗をだらだらと流した景虎はポツリとつぶやく。


「そもそもここ、どこだよ……」


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