第十八話 また一緒に
謁見を終わらせ王室から出た景虎をヴィルヘルミナ、クリスタ、シャルロッテの三人の姫が迎える。
「景虎、食事まだですわよね、一緒に如何です?」
「景虎一緒に食べよう!」
「今日はお父様は母様と食事をすると言っていましたので」
三人の言葉に景虎は素直に頷き一緒に食堂へと向かう。
食事を終わらせ、食後のお茶を飲んでいた時に話を切り出したのはヴィルヘルミナだった。
「景虎はあのフルヒトという人物の居所を知っているのですわよね」
「おう」
素っ気無く返事した景虎に、クリスタとシャルロッテも二人の話に注視する。
「教えてはいただけませんのよね、その場所は」
「おう、悪ぃがな」
答えた景虎に溜息をつくヴィルヘルミナ、その中にクリスタが割って入る。
「何故! ねえ何故教えてくれないの景虎! 私はあいつを絶対許さない! ディアーナ姉様を殺したあいつを! だから私も一緒に……」
「おめーに何ができんのよ? ねーちゃんがヤバいって時でも何もできなかったくせによ」
景虎の辛辣な言葉にクリスタは言葉を失う、手を震わせ反論しようとするも言葉が出てこなかった。
事実、クリスタはあのフルヒトが現れた時に何もできなかった。
悔しがるクリスタを見ながら、ヴィルヘルミナは再び景虎に話を始める。
「景虎が教えないというのであればもう聞きはしませんわ、ですが私達は私達で調べてあのフルヒトを探し出して殺す、それはよろしいですわよね景虎?」
「おう、別にあの野郎を独り占めしようなんて思っちゃいねーよ、殺せる奴がいたら殺しゃいい、けどあの野郎はそう簡単にゃ死なねーからな、その辺は覚悟しとけよ」
「わかっていますわ」
そう言うとヴィルヘルミナはお茶を飲み干し退席していく、景虎も残りを飲み干し、食堂から出て行こうとするのをクリスタが止める。
「景虎、この後私と勝負して! 本気の勝負!」
「おう、準備したら行くから先に城の外で待ってろや、全力で相手してやっからよ」
そう言い残して立ち去る景虎に、悔しさを滲ませるクリスタ、彼女は自分に失望していた。
景虎は自分を必要としていない、強ければきっと一緒に連れて行ってくれるはずだと思っていたからだ。
だがそんなクリスタにシャルロッテが言葉をかける。
「クリスタ姉様、景虎さんは決してクリスタ姉様の事を必要ないとは思ってはいませんよ、むしろその逆です、だから自信を持ってください」
「今の私じゃ絶対に景虎に勝てないわ」
「勝ち負けじゃありませんよ、景虎さんがクリスタ姉様に望んでいるものはそんなものじゃありません、それはこの後戦えばきっとわかりますよ」
にっこりと微笑むシャルロッテの言葉に、クリスタはこの時その言葉の意味がまだわからなかった。
景虎に置いていかれたくない、今はその想いしかなかったから。
時間にして一時間ほど経って、景虎とクリスタは王城から少し離れた草原にいた。
立会人もいない完全に二人だけだった。
「んじゃいくからな」
「うん」
弱弱しく答えるクリスタ、景虎は紅い斧を、そしてクリスタは炎剣フランメを持ち相対する。
思えば初めて会った時以来の本気の戦いだった。
それまでは素手での組み手や、模擬戦用の剣などでの戦いだったからだ。
クリスタは手が震えているのを感じた、何かが違う感じがした。
「うらあっ!」
ぼんやりしていたクリスタは景虎の言葉で我を取り戻す、そして二人の戦いが始まった。
景虎は最初から本気だった、ドラゴンさえ殺す斧でクリスタを吹き飛ばす。
何とか堪えたものの次から次へと重い打撃が加えられ、クリスタは防ぐのでめいいっぱいだった。
地面が砕かれ、土煙が舞い、何度も吹き飛ばされるクリスタ、ずっと願っていた戦いのはずだった。
景虎が本気で相手してくれる事をずっと願ってようやく叶った。
なのにクリスタは涙が零れ、そして心の言葉が出てしまう。
「楽しくない……」
景虎の重い一撃がクリーンヒットし、クリスタは大きく吹き飛ばされ地面に叩きつけられると、そのまま気を失ってしまう。
目を覚ました時にはもう陽は高く、二時間は寝ていたようだった。
「大丈夫か?」
「やっぱり……、勝てなかった」
ぼそりと呟いた言葉に景虎から重い拳骨が浴びせられる。
「い、痛ぁ!」
「勝てる訳ねーだろがアホ! 試合中ずっとボケーっとしやがって! てめ俺をナメてんのかコラ!」
「ち、違う私は……」
クリスタは言葉が出てこなかった、景虎の言う通りクリスタは試合に集中できていなかった。
ずっと違う事を考えていた気がした、その事を思い出しまた涙が溢れてきた。
「ご、ごめんね景虎、わ、私……」
「なーんかてめ、柄にも無く難しい事考えてたんだろ? やめとけやめとけ
てめぇにゃ似合わねーから」
「私、このままじゃ景虎にどんどん置いていかれる」
「だったら追いついてこい、少しくらいなら待っててやるからよ」
その言葉にクリスタは景虎を見つめる、景虎はいつも通りだった。
クリスタを卑下する事もなければ、失望もしていない、そういつも通り、景虎はクリスタをいつも通りに扱ってくれていた。
組み手や試合で一度も勝てなかったけど楽しかった、フリートラント王国で辛い想いをしても景虎がいてくれれば安心だった。
気付けば自分はいつの間にか、景虎に頼るだけの存在になっていたかもしれないと気付いた。
”勝ち負けじゃありませんよ、景虎さんがクリスタ姉様に望んでいるものはそんなものじゃありません、それはこの後戦えばきっとわかりますよ”
この戦いの前にシャルロッテの言った言葉を思い出す、きっと、景虎が望んでいるのは頼っているだけの自分じゃないはずなのだと。
景虎はよく言っていた、自分は逃げるのが嫌いだと。
今の自分はずっと逃げていたのかもしれない、景虎に嫌われたくないという想いが強すぎて、ずっと自分を縋っていたのかもしれないと。
クリスタは拳を握り締め、決意を込めて景虎を見つめる。
「景虎、私もっと強くなる! 今よりもっともっと鍛えて強くなる!」
「筋肉付きまくってマッチョになってもしんねーぞ」
「うっ……」
決意したすぐ直後にいきなり挫けそうになるクリスタ。
しかしすぐに頑張って景虎を見つめ一言言い放つ。
「とにかく強くなるわ! だからその時は私も景虎と一緒に戦わせて!」
「おう」
その時見せた景虎の笑顔に、クリスタは満面の笑みで返した。
その夜、景虎の部屋にはシャルロッテが訪れていた――。
景虎はこの世界の事がまったくわからないので、フルヒトが示した場所に関する資料をシャルロッテに調べてもらっており、その資料を引き渡しに来たのだ。
「あのフルヒトの言った場所についての資料です、できるだけ小さく纏めはしましたが、わからない事などがあれば私の所に手紙か、もしくは冒険者ギルドの連絡網に伝えてくだされば、早めに連絡して送れるようには致しますので」
「助かる」
そう言って、シャルロッテが持ってきた漫画雑誌一冊くらいに纏められた資料を受け取る。
綺麗に清書された文面はこの世界のもので、景虎にはまったく読めなかったのだが、フライハイトが人間の文字を解読できるのでそこは問題無かった。
「あー、けど返事っても俺こっちの字書けねーんよな、どうすべぇか」
景虎はこちらの世界に来てからこちらの文字を書いた事がなかった。
元々勉強などほとんどできない事に加え、新しい文字を覚えるとなるとかなり難易度の高い事でもあった。
「大丈夫ですよ、この前景虎さんから教えていただいた”ひらがな”という文字と、いくらかの単語と文章からある程度言語の文法は解読できましたので、その文字で手紙を送ってきて頂ければ、その文字で返す事もできますので」
「マジでか!」
さすがは天才と感心するしかなかった。
この時代手紙というものは貴重で、届く可能性も30%ほどという危ういものではあったのだが、ヴァイデンの王族が扱うものであればその届く確立も多少は上がると思われる。
「なんかほんとおめーには色々世話になりっぱなしだな」
「そんな……、景虎さんに助けられた事に比べればこの程度どうという事はありませんよ。私も色々助けられましたし、知らない事を勉強できて楽しかったですよ」
シャルロッテが景虎に感謝を述べ、さらに言葉を続ける
「ですから、これだけは約束していただけませんでしょうか」
「ん? 何よ」
「死なないでください、それだけです」
まっすぐ見つめるシャルロッテに景虎は頭を掻きながら答える。
「そらあ約束できねーな。死ぬ気はねーよ、けどな、俺だって不死身って訳じゃねー、だから死ぬなって約束にハイとは言えねーのよ」
「正直ですね」
「嘘が下手なだけだよ、死なねーように頑張る! なんてのは俺には似合わねーしな、そんで死んだら嘘つきになっちまうだろ」
その言葉にシャルロッテはクスクスと楽しそうに笑う。
様々な取り決めを決め、部屋を出て行こうとするシャルロッテに景虎が声をかける。
「ああそうだ言い忘れてたけど、おめーもあんま大人ぶる必要はねーと思うぜ、
年相応にねーちゃんに甘えたり、我侭言言ってもいいんじゃねーの?」
その言葉にシャルロッテが立ち止まる、驚いたという感じで景虎を見ると震える声で答える。
「わ、私はこの国の姫ですし、姉様達を支えるのが役目で……」
「それがめんどくせー考えだってぇの! 甘えりゃいいんだよもっとよ、そんな事ができんのは親切な親兄弟がいる奴だけの特権なんだぜ、んでよ……」
景虎は頭をボリボリと掻き、ひと呼吸置いてから言葉を続ける。
「いなくなったらよ、もう甘える事もできなくなるんだぜ」
景虎の言葉にシャルロッテの心は締め付けられる思いだった。
そして涙が溢れ、もういない姉の事を思い浮かべて呟いてしまう。
「ディアーナ姉様……」
ずっと無理をして我慢してきた事を、こうもあっさり言われてしまうとどう反応していいのかわからなかった。
でもそれをわかってくれている人がいる事に、シャルロッテは嬉しさを隠せなかった。
「はい、今のうちに甘えておきます」
シャルロッテはそう小さく答えた。
翌日、景虎が旅立つ事を決める、そしてそれは唐突に告げられた――。
「あ、今日俺ここ出て行くから、今までありがとうな」
いつも通りヴィルヘルミナ、クリスタ、シャルロッテと朝食を食べていた時にそれは告げられた。
もちろん三姉妹も、景虎がいつかあのフルヒトを追ってここを旅立つとは思ってはいたのだが、まさか今日突然旅立つとは思ってはいなかったのだ。
「ま、待って! そんな急すぎる!」
「そうですわよ景虎、せめて言うのであれば事前に言っておきなさい! 唐突過ぎて何の準備もできてはいませんわよ!」
「そ、そうですよ景虎さん、もう少し後でも……」
「んーにゃ、もう決めた、朝飯食ったらもう出てくわ」
「「「朝食後!」」」
混乱する三姉妹をよそに、景虎は口にパンをほおばりながら、朝食を食べ終わったら出て行く旨を伝える。
完全に止まってしまった三人をよそに、景虎は残りの朝食を平らげると手を合わせ一言。
「ごちそーさん、さて行くか」
完食して席を立つ、ようやく動き出したのはヴィルヘルミナ、すぐさま景虎を呼び止める。
「お、お待ちなさい景虎! す、少しだけそ……、そうですわ! 景虎、私と勝負をなさい!」
「は?」
その言葉に立ち止まる景虎、一方咄嗟に出た言葉ではあったが、ヴィルヘルミナはしてやったりという感じで小さく拳を握る。
「よくよく考えてみれば、私は景虎と一度も手合わせした事がありませんでしたわよね? 今まではクリスタに遠慮して言いませんでしたが、実は私も景虎と戦ってはみたいとずっと思っていたんですわ」
「あー、そういやねーちゃんとはやってなかったな」
「ですわよね!」
一際大きな声で返事するヴィルヘルミナ。
「ですのでこの私と一度くらい戦ってから出発してもよろしいのではなくて? まぁ餞別代わりと思って手合わせしてくださいな」
「んー、もう出る準備してたんだがまぁいいか、んじゃ先に外で待っててくれ、
場所は前クリスタとやった所で頼むわ、クリスタ、ヴィルヘルミナのねーちゃん案内してやってくれや!」
「う、うん!」
そう言って出て行った景虎を愕然としながら見送る三人、ようやく我を取り戻すと改めて混乱し始める。
「ど、どどどどどうしたら! か、景虎が行っちゃう!」
「お。おおおおお落ち着いてくださいクリスタ姉様、と、とにかく今は国を挙げて送別会の準備を!」
「落ち着きなさい二人とも!」
珍しくパニックになるシャルロッテとクリスタをヴィルヘルミナが一喝する。
「景虎があのような性格だというのはわかってはいた事でしょう! まぁさすがに唐突すぎるとは思いますが、ですが景虎が決めた以上はもう止めるのは無理でしょう、私が相対で引き止めるまでの時間、貴方達も何をすべきかは貴方達で考えますのよ」
そう言ってヴィルヘルミナは唐突な相対の為の準備をしに部屋へ戻る。
一方取り残された二人は疲れきった感じで席に座ると、いつかはくるかと思っていた景虎との別れを想う。
わかってはいたが、その日が来るなと心の中で思って知らない振りをしていたかもしれない、それが恨めしかった。
「ちゃんと向き合うべきでしたね、景虎さんが出て行くという事に」
「…………」
「クリスタ姉様、私は私で景虎さんの為になる事をしようと思います、クリスタ姉様はどうなされるおつもりですか?」
「私は……」
クリスタは何をすればいいのかわからなかった、景虎の言葉にまだ頭の整理ができなかったのだ。
一人で考えさせようと思ったシャルロッテはクリスタを置き、自分の部屋へ戻っていく、残されたクリスタはただただ項垂れるだけだった。
それから一時間後、景虎は先日クリスタと相対した場所でヴィルヘルミナと対峙する。
ヴィルヘルミナは戦場で愛用している銀色の甲冑を着込み、氷槍グレッチャーを構えていた。
「本気でお願いしますわね、手加減などされては後悔しか残りませんもの」
「わーってるよ、俺も後腐れなく出て行きてーしな」
見守るのはクリスタとシャルロッテのみ、二人はこの相対ができるだけ長く続けと思っていた。
そして景虎が負ける事も、そうすればすくなくとも景虎といる時間があると思っていたから。
「んじゃいくぜ!」
「来なさい」
景虎の言葉で戦いは始まる、相変わらず景虎の振るう斧は尋常ではない速さと破壊力だった。
一方のヴィルヘルミナも優雅にかわし戦ういつものスタイルだった。
いつもは優雅でおちゃらけた感じのなヴィルヘルミナではあるが、こと戦闘力と言うものに関してはクリスタより上だった。
さらに氷槍グレッチャーは、あらゆるものを凍りつかせる魔力を帯びた槍。
その槍から発せられる氷河は、全てのものを凍てつかせる強力なもの、普通の相手ならばその氷河を使って瞬時に凍りつかせ、戦いをすぐに終わらせる事ができるであろう、だがその戦い方は景虎には通じなかった。
「やはり通じませんわね」
グレッチャーから発せられた氷河は、景虎の持つ紅い斧の前では全て無効化されてしまうのだ。
一体あの斧は何なのよ! と考える間もなく景虎の反撃が襲う。
槍で間合いを取らせるまいとするヴィルヘルミナだったが、景虎はそんなものを無視して突っ込んでくる。
その動きに一瞬躊躇してしまったヴィルヘルミナに重い一撃が襲う。
かわしたと思った次の瞬間、地面が割れ爆煙が巻き起こる。
叩き付けられた斧の威力に怯んだ瞬間、ヴィルヘルミナに予想してなかった蹴りが叩き込まれる。
「ぐっ!」
「肉弾戦もありだよな」
ヴィルヘルミナの耳元でそう呟いた景虎の声に反応するも、遅かった。
片腕で軽々と持った大きな紅い斧の柄が、バランスを崩したヴィルヘルミナに直撃する。
時間にして五分ほどで勝敗は決した、倒れこんだヴィルヘルミナをシャルロッテが治癒魔法で治す、一方の景虎は息を切らして汗を流してはいるものの、まったっくの無傷だった。
気がついたヴィルヘルミナは景虎を見て一言。
「ほんとに景虎は強いですわね」
「俺はインチキやってるみてぇなもんなんでな、なんか申し訳ねーけど」
その言葉の意味はわからなかったが、ヴィルヘルミナはあえてそれには追求しなかった。
そして景虎の元まで進むと笑顔で見送りの言葉を送る。
「道中気をつけるのよ景虎」
「おう、ねーちゃんも元気でな」
ヴィルヘルミナはそう言ったあと、胸をはだけ、その中から小さな袋を取り出し景虎に渡す。
唐突の事に赤面する景虎をからかう様に、ヴィルヘルミナはその袋の中身について説明する。
「それは宝石よ、小さいけれど換金すれば一個で金貨百枚はするんじゃないかしらね、まぁかさばらないから持っておいきなさいな」
「いいのかよ、そんな高価なもん」
「景虎がしてくれた事に比べればこんなものでも全然足りませんわよ、まぁお金はいくらあっても困るものでもないでしょうし、使わないなら私に返しに来なさい、いいわね」
「わかったよ」
そう言って景虎はその宝石の入った袋をしまう、その二人の中にシャルロッテが入ってくる。
「景虎さんほんとにお世話になりました、私は昨夜お渡しした以外のものはありませんが旅の無事をお祈りしています!」
「おう、まぁ死なねーように頑張るわ、シャルロッテも元気でな」
「はい!」
元気に答える景虎にシャルロッテは笑みを溢す、そして最後にクリスタなのだが、彼女はまだ俯き固まっていた。
「クリスタいい加減シャンとなさい! 景虎が行ってしまいますわよ!」
ヴィルヘルミナのその言葉に、ようやく正気に戻ったクリスタは景虎を見つめる。
何も言えず、何もできないクリスタの前に景虎は歩んでいき、ガラでもないといった感じで頭を掻いた後、別れの言葉を告げる。
「んじゃ、元気でなクリスタ」
そっけないものではあったが、それはクリスタの心に大きく響いた。
クリスタは心の中で叫ぶ、行かないで! しかし言葉は出せなかった。
このままでは景虎は行ってしまうのに、自分は何もできない、そんなのは嫌だった。
そして、気付けばクリスタの身体は自然に動いていた。
「ん!」
唐突な事にさすがの景虎も回避できなかった。
クリスタは景虎に抱きつき、そして、ぎこちなくキスをした。
クリスタの肌のぬくもりと鼓動、そして甘い香りが景虎を優しく包み込む、わずかな時間の後二人は離れ見つめ合う。
頬を染めたクリスタは弱々しく震え、勇気を振り絞って精一杯の言葉を景虎に伝える。
「か、必ず一緒に!」
それが別れの言葉なのかどうかはわからなかったが、クリスタの言葉に景虎は笑みが零れる。
そしてそれに答えるように景虎もクリスタに伝えた。
「おう、また一緒にな!」
ヴィルヘルミナとシャルロッテはその二人の姿を微笑ましく見つめていた。
そして景虎は馬に乗り、最後に一度振り返り手を振った後、馬を駆って走っていった。
こうして、景虎は再び旅を始める――。
青の章完
次回は来週辺りに投稿予定です
毎日投稿できる人は凄いなあ・・




