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ドラゴンアックス  作者: kaz
青の章
13/76

第十二話 デート

 ――ヴァイデン王城――


 元第一王女のディアーナが、ヴァイデン王国に来て二日が過ぎた。


 その日はディアーナに朝食に誘われた景虎(かげとら)が、ヴィルヘルミナ、クリスタ、シャルロッテに加え、王妃でもあるヴィクトリア=リュトヴィッツという、この国の美女五人と共に食事をとるという栄誉に甘えていた。

 ちなみにこの朝食の場には国王アダム=リュトヴィッツの姿はなかった、理由はわからなかったが、全身打撲の重傷だという話だった。


 「何で俺はここにいるんだよ……」


 明らかに場違いというこの現状に、景虎はただただ項垂(うなだ)れるばかりだった。そんな景虎を楽しげに見つめる四人の姫様、そして皆が食事を終わった時、ディアーナが景虎に言葉をかける。


「景虎君、この後何か用事はあるかしら?」

「え、この後っすか? いえ別に何もないっすけど」

「では私とデートをしましょう」


 その言葉に場が一瞬凍りつく、笑顔で微笑んでいるのはディアーナと王妃ヴィクトリアだけだった。しばらくの後、最初に動いたのはシャルロッテ。


「ディ、ディアーナ姉様、きゅ、急に何を言うんですか!」

「あら、何か変な事を言ったかしら?」

「だ、だってお姉様はもうご結婚なされてて、お子様もいて! で、ですのでその、そ、そのような事はどうかと思いますが!」

「大丈夫よう、レオポルドはそういった事には寛容ですし、それにこんな事で私もレオポルドへの愛は微塵も崩れないから」


 レオポルドというのはフリートラント王国の現国王で、ディアーナの夫でもある人物だった。シャルロッテの追求にのらりくらりとかわすディアーナに、景虎がボソリと呟く。


「え、えと、俺に拒否権とかいうのはあります……かね」

「ありません」

「ですか……」


 景虎はどうもディアーナが苦手だった、本来なら嫌な事には嫌ときっぱり否定をするのだが、何故かディアーナに言われると従わなければいけない気がしてしまうのだ。次に動いたのはクリスタ、お茶を溢したりと混乱していたが、深呼吸をした後、慌てた様子でディアーナに話しかける。

 

「ね、姉様! か、景虎とデートだなんて、そんなの駄目!」

「あら? 私が景虎君とデートするのに何か不都合でもあるのかしら?」

「そ、それは……、不都合はない、けど……」

「なら何も問題はありませんね」

「あ、うう……」


 悪戯っぽく答えるディアーナに、涙目のクリスタは何も言えず。


「景虎ぁ……」

「俺に振るなよ……」


 結局デートは決まり、朝食の後、ディアーナは支度を整えるからと景虎を王城の外で待つように伝える。ちなみに尾行を予期したディアーナが、圧倒的な威圧感で三人の姫に尾行禁止を命令すると、三人の姫は青ざめそれにただ頷くしかなかった。それから時間にして30分ほどだろうか、景虎の前に黒髪の美人がやってくる。


「お待たせ景虎君」

「は? えと、どちらさん?」

「やあねえ私よ、ディアーナさん」


 その言葉に景虎は目を凝らす、黒髪に眼鏡をかけ、庶民が着るような服を着ていたが、良く見ると確かにディアーナだった。恐るべきはあれだけかもし出していた高貴な姫様オーラや、戦乙女(ヴァルキュリア)オーラを完全に消していた事だった。


「へ、変装っすか?」

「ええ、こうでもしないとすぐバレちゃうしね、どう、わからないでしょ」

「は、はい、マジパネェっすわ」

「よし!」


 してやったりというディアーナは、笑顔で景虎を見つめる。その顔は変装はしていても眩しく、景虎でさえ見惚れるほどだった。


「さ、じゃあ行きましょうか」

「え、えとどこに行くんすか?」

「デートって言ったでしょ、さ、行きましょ」


 ディアーナに引っ張られ、景虎は城下町へと消えていく。

 まず城下町の市場のような場所にやってきた二人は、買い物などをし、さらに屋台で売られている串焼きのようなものをほおばる。


「うん、やっぱ美味しいわねえ」

「そうっすね」

「あ、今度はあれ食べましょう、で、次はあれね」

「あんたさっき朝飯食ったばっかでしょ、どんな胃袋してんすか!」

「お城の食事と屋台の食べ物は別腹って言うでしょ」

「言わねーよ」


 次々と屋台の食べ物を食べるディアーナに付き合わされる景虎は、すでに腹一杯だった。さらに装飾店で品物を買ったり、出会う街の人達と談笑したりと、ディアーナはこのヴァイデンの下町を満喫していた。


「ああ、やっぱ楽しいなここ、それに変わらないわぁ」

「結構何度も変装して抜け出してたんすか?」

「ええ、だって城の中なんてつまらないんですもの、貴族達の腹芸になんて付き合ってたらストレスでハゲちゃうわ」


 時折みせるディアーナの笑顔は子供っぽく、景虎はたまに年上だというのを忘れるほどだった。その後も様々な場所を巡り楽しむディアーナ、一方景虎も最初は乗り気ではなかったものの、段々楽しくなってきていた。


「そういやディアーナさんのいるフリなんとかって国は、どんな感じの所なんっすか?」

「フリートラント王国ね、良い所よ、って言いたいけど私が行く前までは結構酷かったのよね、そんなに裕福でもなかった上に権力争いとかも酷かったし、民を蔑ろにして私服を肥やす貴族達とかね、けど今はその辺をなんとかしたわ」

「さすがっす!」


 素直に褒める景虎、ディアーナはそれに気を良くしたのか話を続ける。


「今は皆幸せに暮らしてくれてると思うわ、夫のレオポルドも頑張ってるしね、

景虎君も一度フリートラントにいらっしゃいな、盛大に祝ってあげるから」

「いや、ほんとそーゆーの勘弁してください」

「あははは、ほんと景虎君は可愛いわねえ」


 そう言うとディアーナは景虎に抱きつく、景虎は思う、やっぱこのディアーナと言う人物は苦手だと。その後も景虎はディアーナに連れられ、ヴァイデン王都の街を走りまわされる事になる。しかしそれは嫌という事もなく、景虎自身も楽しんでいた。


「景虎君早く早く」

「ディアーナさんもうちょっと落ち着きましょうよ、いい年なんだし」


「あ?」


「すんません、ほんとすんません!」


 やはりこの人は最強の戦乙女だなと思う景虎だった。


 気付けばすでに夕方になろうとしていた――。


「そろそろ帰りましょうか」

「そっすね、しかし何かあっと言う間でしたね」

「ふふ、この国の事を少しはわかってくれたかしら?」

「え? はぁまあ、何か活気ある所だなあと思いました」


 その言葉に笑みをこぼしたディアーナ。


「よかった、私の生まれた国だもんね、これからもずっと好きでいてね」

「え? はあ」

「じゃあ、帰りましょうか、あんまり私が景虎君を独り占めしていちゃうとクリスタが泣いちゃうかもしれないしね」

「何すかそれ? 大体あいつがそう簡単に泣くとは……、あ、そういや泣いたっけな」

「あら、景虎君はクリスタを泣かせたの? あらあら、これは責任を取らせないといけないわねえ」

「なんか酔ってないすかディアーナさん?」


 楽しげに会話しつつ、ディアーナと景虎は王城へと戻っていく。




 ――再びヴァイデン王城――


 翌日、王城では再び宴席が設けられる。ディアーナが帰還した事で、ヴァイデンの四人の姫が全て揃った事を祝うものだ。ディアーナは最初この宴には反対だったものの、母である王妃ヴィクトリア=リュトヴィッツが説き伏せた為、ディアーナもそれを渋々承諾する。


「お母様だけには敵わないのよね……」


 とはディアーナの言葉、景虎はディアーナにも敵わないものがあるのに驚くのと同時に、王妃ヴィクトリアがこの国の実質の支配者なんではと考えていた。

 その夜行われた宴は盛大なものとなった。ヴィルヘルミナ達三人が帰還した時も凄かったが、今回は伝説の戦乙女ディアーナも現れるという事もあって、急遽参加した者も多数居たのだ。


 客の前に現れた四人の姫は、皆溜息を飲むほどのの美しさだった。

 前回嫌がって顔を曇らせていたクリスタも、今回は尊敬するディアーナと一緒だという事もあってか、満面の笑みで登場する。


「本日はお忙しい中私の為に宴を開いて頂いた事を心より感謝いたします、私はすでにこの国の人間ではありませんが、敬愛する父と母、そして愛する妹達と故郷であるヴァイデンの末永い幸せを願うものであります」


 ディアーナの言葉に集まった客が大喝采を送る。

 その後四人の姫達は、前回同様貴族達に取り囲まれる事となる。前回何も出来なかったクリスタは「まずは私と戦いなさい!」宣言をした為、求婚をするような者は現れなかったが、それでもその美貌からダンスなどを申し込む者達は後を絶えなかった。そんな貴族や王族ばかりの宴席で一人場違いな人物がいた。似合わない礼服を着せられ、ブツブツ文句を言いながら大広間の端っこの方で、ジュースを飲んでいる景虎だった。


「なんで俺がこんなめんどくせーもんに出なきゃいけねーんだ」

『おお、これが人間の宴というものか、面白い、実に面白いぞ!』

「お前は相変わらず楽しそうで羨ましいわ」


 景虎の頭にだけ響いてくるフライハイトの声に、景虎は頭を抱える。

 ちなみにフライハイトは装飾物という名目で、大広間の端のオブジェに飾られていた。本来宴の場に武器など持ち込むなどご法度なのではあるのだが、フライハイトがどうしても人間の宴というものを見たいと懇願した為、宴の主賓であるディアーナに、飾りでいいんで端っこにでも置かせてもらえないかと頼んでみたのだ。本来なら何故そんな怪しげな事をと訝しげに捉えるものなのだが、ディアーナはそれを快く承知し、何一つ聞く事もなく、フライハイトを大広間に飾ってくれたのだった。


 しかしその対価として、景虎にこの宴への出席をすることを承諾させる。

 景虎は拒否するつもりだったが時すでに遅し、にっこりと微笑むディアーナの前ではすべての提案が却下されてしまうのだった。やはりこの人は只者じゃないと改めて思う景虎。


「なぁ、俺もうここから出て行ってもいいよな」

『ん? いやそれはやめといた方がいいのではないかな』

「何でよ」

『あのディアーナとかいう人間がお前を監視しているようだからな』


 ばっ!と辺りを見回すものの、景虎の位置からはディアーナはまったく見えなかった。だが確かに何か視線のようなものを感じる景虎は、冷や汗のようなものを流してここから出て行くのを諦める。


「ほんと何者なんだよあのねーちゃん……」


 荘厳な大広間での華やかな宴、貴族や王族が踊りを披露し楽団による美しい音楽が流れる世界、景虎は改めてここが今まで自分がいた世界とはまったくの別物だと認識する。気づけば杯に入ったジュースを飲み干していた。豪華な料理があるものの何故か食欲が沸かなかった。溜息をつき、もう一杯飲み物でも飲もうと取りに行こうとした時。


「景虎見ーつけた!」


 目の前にクリスタがいた。彼女は一通りの形式ばった挨拶をすませ、貴族達に囲まれつまらない話を聞かされている時に、ディアーナから景虎がこの宴に参加している事を教えられたのだ。すぐさま野生の獣のように目を凝らすと、端っこの方で一人飲み物を飲んでいる景虎を見つけ出す。人垣をかきわけまっすぐ景虎の元にまで来たクリスタは、満面の笑みで景虎を見つめていた。

 景虎は嫌な予感がしたので軽く会釈した後、その場を立ち去ろうとしたものの、クリスタに手をがっちり捕まれてしまう。


「こっちよ!」


 そのままひっぱられていく景虎、本気を出せば手を振り払うことなど容易ではあったが、さすがにこんな場所で一騒動起こす訳にもいかなかった。今までどんな貴族や騎士からの誘いも断ってきたクリスタが、自ら手をひいている男性に場内はざわめく。


(ああ、めっちゃ見られてるわ)


 景虎を奇異な目で見る貴族達、冴えない姿に陰口を叩いたりと好き放題だ。

 晒し者という言葉がまさに似合う状況の中、引っ張られた景虎が辿り着いた先にはディアーナ、ヴィルヘルミナ、シャルロッテの三人の姫が待ち構えていた。


「景虎君、宴楽しんでいまして?」

「景虎にその服に合いませんわねぇ、もう少し派手なのが良かったかしら」

「そんな事はありませんよ姉様、私はよく似合ってると思いますよ」


 景虎を囲んで楽しげに話す三人の姫、そして――。


「景虎、食べたい物はある?」


 クリスタは甲斐甲斐しく景虎の世話をしていた。

 この会場の全ての視線を釘付けにしてしまった景虎は、今すぐにでもここを離れたい気持ちで一杯だった。


『おお、凄い、成る程、アレはそういう事に使うものなのか』


 あと頭の中でフライハイトの声がやたら響くものウザかった。




 宴から数日後、ディアーナがフリートラント王国へ戻る事になった。

 もう少しと引き止める妹達を優しく諭すと、ディアーナは景虎の元にやってくる。


「色々お世話になりましたね景虎君」

「いや、どっちかってーっと俺の方が世話になったって思うんすけど」

「いえいえ、景虎君との勝負、久々に血が沸き立って面白かったですよ」

「面白い、っすか、ほんとすげーっすね」


 ディアーナと景虎が楽しげに話してるのを、クリスタは仲間に入りたくてうずうずしているようだった。そんな姿が微笑ましく映ったのか、ディアーナがクリスタを呼ぶ。


「な、何ですか姉様!」


 まるで犬のようにディアーナに懐いてやってきたクリスタを、引き寄せ耳元でひそひそと何かを語る。と、次の瞬間クリスタの顔が見る見る赤くなり、声すらも出ない状態になってしまう。そして恐る恐るといった感じで景虎を見て、目が点になると声にもならない悲鳴を上げ、その場を全力で走っていく。


「何言ったんすか?」

「さぁ、何でしょう」


 優しく微笑むディアーナに不安しか覚えない景虎。

 その後ろでは何を言ったかがわかったヴィルヘルミナが笑みを浮かべ、シャルロッテが頬を染めて俯いていた。ディアーナは再び景虎に向き合うと、荷物の中から何かを取り出す。


「景虎君、これを受け取って」

「何すかこれ?」

「私が嫁ぐ時に父上から頂いた指輪よ」

「いや、受け取れませんよそんな凄そうなもん! ってかほんと確実に俺あの親父さんに殺されちまいますし!」


 さすがにこれは貰えないと断固拒否する景虎ではあったが、ディアーナは景虎の手を取り、その指輪を優しく握らせる。


「貴方にこれを持っていてほしいの、お願い景虎君」

「いや、俺性格雑なんで、それ失くしちまうかもしれませんし」

「まぁそれならそれで構わないわ」

「いいんすかそんなんで!」


 何か結構いわくありげな指輪にも見えたのだが、失くしても構わないとか言われるとどうしたものかと考える景虎、結局ディアーナに押し切られその指輪を貰う事になる。その後顔を真っ赤にしたまま、景虎をまっすぐ見れないクリスタが戻ってくると、ディアーナは皆に別れの挨拶をする。


「じゃあ皆元気でね」

「「「はい!」」」

「うす」


 元気に答えた三人の姫と景虎に見送られながら、ディアーナは笑顔でフリートラント王国へと帰っていった。


「今度はいつ会えるかな」

「そう遠くはないんですしいつでも会えましてよ、なんなら私達がフリートラントに行ってもいいんだし」


 寂しそうなシャルロッテにヴィルヘルミナが優しく答える。

 さらにクリスタを見ながらこれみよがしに。


「まぁ、結婚式でもあればすぐにでも会えるかもしれないかしら~」


 その言葉にクリスタが再び顔を真っ赤に染め、その場から逃げるように去っていく。


「んだありゃ?」


 ただ一人訳がわからない景虎だった。



 その後、景虎はフルヒトの情報収集をしながらヴァイデンで暮らす事になる。

 ディアーナの言った通り、クリスタと組み手などをしてコテンパンに()しても国王に殺されるような事もなく、平和に、そして楽しく暮らしていた。だが一ヵ月後、ヴァイデン王都に急報が告げられ事態は一変する。


 急報が伝えた内容とは――。


 ――フリートラント王国にて叛乱――


副題を逢引にするか迷った

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