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漂う白花  作者: 渡部ひのり
第一部 修正版
36/136

33の話~幕引きは王の手で~

 ロッカとランベルトが、ヴィンチェンツォが立ち上がるのを手伝う。明らかにふらついて危なっかしいが、一人で歩ける、とヴィンチェンツォは二人を制した。

「具合が悪いなら大人しくしていればいいものを、こんな騒ぎを起こしてしまって…もしエミーリオが試験に落ちるようなことがあったら、あなたのせいですよ。今も動揺してるに違いありません」

 耐えかねたように、珍しく、ロッカが恨みがましい言葉を吐く。

「お前、飛び級なんて反対してたくせに、今更何を言う。どう考えても俺じゃなくてランベルトのせいだろう。…駄目だったら裏金でも掴ませて合格にすればいいじゃないか。病人を労わる言葉も無く、罵るとは酷い奴だ」

「今日ほど、ヴィンス様が腹黒いと思ったことはない」

 ぼそりとランベルトが言った。

 

 メイフェアは呆れ顔で彼らのやりとりを見ていた。

「今ならとどめを刺せそうだけど。いいの?」

 ヴィンチェンツォに聞こえるような声で、メイフェアはビアンカに向かって物騒な事を言う。ビアンカも、先程とは打って変わり、すっきりしたような口調で言った。

「今日はいいわ。次はないけど」

 自分が弱っているのをいいことに、こちらの二人も言いたい放題である。思いがけない集中砲火を浴び、ああ、どうせ俺が悪者だ、とヴィンチェンツォは自虐的になった。


 ではまたな、とビアンカに向かってヴィンチェンツォはそっけなく言う。ビアンカは、無言で頭を下げ、彼らを見送った。



***



 それから数日、ヴィンチェンツォの熱は下がらなかった、世話を焼きすぎる姉や両親のせいで、治るものも治らない、と朦朧とする意識の中でヴィンチェンツォは思った。

 この大事な時に、ヴィンスの世話をさせるなどとんでもない、とロッカはエミーリオを自宅に滞在させた。

 早く出仕して、処理せねばならないことが山積みなのだが、エドアルドが「他の者に移ると困るので、治るまで王宮には出入り禁止」と言い渡し、代わりに自分が宰相府に通っているようであった。

 

 それにしても、ヴィンチェンツォの執務室は、実に面白かった。あちこちの引き出しを開けたりして、何か日記や恋文など私的な物はないかと、エドアルドは家捜しを楽しんでいた。

 エドアルドが、執務室を陣取っていると聞き、半ば予想していただけに、ヴィンチェンツォは今更驚きはしなかったが、何か嫌な予感がしていた。


 久しぶりに出仕したヴィンチェンツォに会うなり、ヴィンチェンツォが書き散らしたメモをひらひらさせると、開口一番、エドアルドは言った。

「秘密主義は大概に、と言ったはずだが。私の知らないところで、随分みな楽しそうではないか。ところどころに出てくる、白い花とは何のことか」

 ごみ箱の中まで漁ったのだろうか、とヴィンチェンツォはぼんやり思った。すぐに燃やして捨てておけばよかった、と後悔する。普段であれば、証拠を残すような事をしないはずなのだが、あの日の自分は注意力がなさすぎたし、限界値を超えていた。

 ロッカはヴィンチェンツォと目を合わせず、何か忙しそうにしている。自分の不在時に、何かフォローしてくれればよいものを、敢えて放置していたに違いない。逃げられそうにないな、とヴィンチェンツォは苦々しく思った。


「楽しい話なら、私も混ぜてくれないか。それでなければ、お前は首だ」

「首でも結構ですが、今はまだ駄目です。その件が解決しないことには、王宮を去ることは出来ないのです。…ですが、陛下」

 まだ本調子ではないのか、ヴィンチェンツォの言葉も歯切れが悪かった。

「ならば、俺を使えばいいだろう。利用できるものは、なんでも利用するのだろうから、お前は」

 はあ、と気乗りしない様子で、ヴィンチェンツォが返答する。単純に、自分も仲間に入りたいだけなんだろうな、この方も暇そうだし、とヴィンチェンツォは思った。

 それにしてもこんな形で、ビアンカの事を報告するのは、予定にはなかった。


 今後の方針も変わらざるを得ないが、それも仕方の無いことかもしれない、とヴィンチェンツォは、にやにやしているエドアルドの顔を見て、諦めにも似た気持ちになった。


 とりあえずお茶を淹れましょう、話は長くなりますから、とロッカが立ち上がり、急いで執務室を出て行った。

 

 


 



~第一部終了~




ひとまず、お疲れ様でした。読んでくださった皆様に、感謝いたします。

続きも引き続きご支援いただけると嬉しいです。





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