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漂う白花  作者: 渡部ひのり
第一部 修正版
20/136

17の話~分岐~

 誰にも気取られてはいけない、と二人は目立たぬように、イザベラの寝室を確かめに行った。確かに、人の気配はない。お忍びに必ず同行している、侍女のサビーネの姿も当然なかった。寝台は、使われた形跡もなかった。という事は、宵闇に紛れて忍んで行ったのだろうか。


 押し殺した声で、メイフェアが言った。

「お気に入りの衣装はほとんど消えていて…ほら!」

 衣裳部屋から、大量のドレスが消えていた。ドレスだけではなく、靴や宝石など、普段使いの物が綺麗に無くなっていたのである。

「どうしよう、イザベラ様らしくない趣味の良いドレスばかり残っていて、これでは、変身しようにも不自然すぎるわ!」

 すっかり半狂乱になって、メイフェアは頭を抱えた。ビアンカは呆然としたまま、残されたドレスを眺めていた。いったい、何故こんなことに…。


「…お手紙を残されていると言っていたわね。見せてもらえるかしら」

 ビアンカは、比較的メイフェアよりは落ち着いていた。目の前でこうも取り乱されてしまっては、自分は冷静になるしかない、と少しだけ状況整理することができているようだった。

 無言で突き出された手紙には、短く『しばらく戻らないので、いつもどおりうまくやってくれ』と書かれていた。しばらくとは、いったい、どのくらいの期間をさしているのだろうか、とビアンカは目の前が真っ暗になる気がした。



「もうこれは、私達だけで隠しきれるものではないわ」

 観念したように、青ざめた顔を上げると、メイフェアは扉に向かっていった。

「どうするの」

「女官長様に報告するのよ。お叱りを受けても、仕方ないわ。こうなったら、王宮中の兵士を借り出して、あの女を捕まえるのよ。…この際だから、いっそ表舞台から永遠に消えてもらったほうが、世の為人の為なのよ!」

 錯乱したように、メイフェアが喚き散らす。ビアンカは慌てて、メイフェアを引き止める。

「そんな事できるわけないじゃない。聖誕祭も近いのに、そんな騒ぎを起こすような事をしては、大問題よ。私達だって無事じゃ済まないわ」

 大声をあげたメイフェアをたしなめるように、ビアンカは小声だが力強い声で言った。

「もういいのよ!どうせ処罰されるなら、あの女も道連れにしてやるわ!死なばもろともよ!!」

 落ち着いて、とビアンカの繰り返す言葉も届いていないようであった。


「何を騒いでいるのでしょう。扉も開けたままになっていましたよ」

 音も立てずに、女官長が二人の後ろに佇んでいた。

「こ、こんな朝早くにご苦労様でございます」

 先程まで、報告すると息巻いていたにも拘わらず、マルタを目の前にして、メイフェアは完全に言葉を失っていた。

「あれだけ昨日は人の出入りも激しかったですからね、異常はないか確認していたのですが…イザベラ様はどちらにおいでなの」

 もう終わりだ、と二人はひし、と抱き合った。



***


 

 一通り二人から、申し訳ありませんとの謝罪と、今までの経緯の説明を交互に受けながら手紙に目を通すと、女官長は無言で手紙をテーブルの上に置き、静かに言った。

「問題は…今後どういった理由をつけて、公式行事を避けてゆくか…」

 ビアンカは、自分の耳を疑った。まさか、女官長様まで、このまま身代わりを続けろとおっしゃるのか。

「イザベラ様の行方は、極秘に探らせていただくとして、お戻りになる予定がある以上は、このまま不在を取り繕わねばなりません」

 マルタは、きっぱりと言い切った。しかし、「どうして」と、メイフェアが憤る。

「じゃあ、あなたが報告してくれるの。私は、嫌です」

 完全に、女官長様ですら、自分の保身に走っている…とメイフェアは愕然とした。


 ビアンカは、両手を握り締め、黙りこくっていた。そんなビアンカの拳に自分の手のひらをそっと重ね、マルタは囁いた。

「私に出来る事と言えば、あなた達の共犯者にしていただく事かしら」

 驚いたように、二人はマルタを見た。

「最終的な責任は、私にあります。ですから、もう少し、力を貸して下さいな」

 やたらと声が弾んでいるような気がしないでもない。女官長様は、何やら面白がっておられる。

「では、決まりですね。…早速作戦に移りましょう」

 作戦、とか言っている。もはや、完全に遊んでいるようにしか見えない。ビアンカは、前よりいっそう、自分の自由が遠のいていくのが分かった。

 

 



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