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漂う白花  作者: 渡部ひのり
第一部 修正版
18/136

15の話~犬と女官~

 パネトーネをほおばりながら、エミーリオはロッカの後ろを数歩下がって歩いていた。

 後宮側にある、警備兵の詰所前までやって来ると、珍しく騎士団の正装をした、

ランベルトに出会った。

 濃紺のダブルブレストのジャケットと象牙色のシャツの間から、光沢のある濃鼠色のスカーフがのぞいている。ランベルトの部下達が、ロッカに向かって敬礼した。


「ランベルト様、とてもお似合いです」

 エミーリオが嬉しそうにランベルトに駆け寄った。

「そうだろう。エミーリオもヴィンス様の所にいるより、俺達と毎日楽しく遊ぼうぜ。綺麗な女の人もいるからな!」

 と、ランベルトはご機嫌でエミーリオの頭を撫で回すと、ふと二人が手にしているパネトーネを見つけた。

「あの、赤毛の女官にもらった」

 何かと問われる前に、ロッカは答えた。

 ランベルトは、何故自分だけ仲間はずれなのか、と理不尽な事を半ば本気で言った。


「運がよければ、まだ会えるかもしれないな。秘密基地で、会った」

 俺は少し持ち場を離れる、と言い残すと、ランベルトは脱兎のごとく駆け出した。



「おなか、空いてらしたんでしょうか…」

 ロッカは何も答えず、再び歩き出す。

「そういえば、秘密基地って何ですか。先程の、あの幽霊庭園の事でしょう」

 エミーリオは不思議そうに訊ねた。

 百年ほど前に自殺した女官の幽霊が出る、と王宮勤めの者達は聞かされていた。

「子どもの頃、陛下やヴィンス達が、あの庭園で、隠れて基地ごっこをして遊んでいた。俺は、幽霊は一度も見た事ないが、ランベルトは見たと言い張っていたな」



***



 ランベルトが死にそうな顔をして、二人の目の前にいる。

「ロッカが、君達がここに居ると教えてくれて…間に合って、よかった」

 荒い息を吐きながら、喘ぐ様にランベルトが言った。

 そんなランベルトの姿に、若干面食らったように、メイフェアが答えた。

「…ああ、パネトーネの事でしょうか。貰いすぎたので、よろしかったらサンティ様も是非…そのご様子では、飲み物がないと辛いと思いますが…」

 ちょっと待って、とランベルトは腰に掛けた皮製の水筒の蓋を開け、勢いよく中身を飲んだ。

「いつもと違って、何もかもが重たいから、走るのも一苦労なんだ…」

 蓋を閉じるのも慌しく、早速残りの切れ端を貰って噛り付く。


「…美味い!」

 そんな大げさな、とメイフェアは思ったが

「偉い人や後宮の女官達は、こんな美味い物を毎日食ってるのか。騎士団とか近衛用の食堂は、こんな繊細な食い物は出ないんだよ…」

 と感動しながら、ランベルトはおかわりを貰っている。

 餌付け、とメイフェアは心の中で呟いた。



***



 すっかり腹も心も満たされ、ランベルトは上機嫌この上ない。満足げに、先程までビアンカが腰掛けていた、石造りの椅子に女性二人を座らせると、ランベルトは二人と向かい合い、石畳の上に直に座り込む。


「こんな所で、会えるとは思ってなかったから、今日は本当によかった」

 メイフェアには、自ら獲物が罠の中に飛び込んできたように思えた。パネトーネの件は、全くの偶然であったが。

「…申し訳ありませんが、差し支えなければ、所属をお聞かせいただけますでしょうか。宰相府の方ではないようにお見受け致しますが」

 イザベラの侍女っぽく、少し高飛車な調子で訊ねてみる。


「失礼しました。俺は王宮騎士団のランベルト・サンティです。この前まではヴィンス様に駆り出されてたんだけど、騎士団に戻ったばかりなんです」

 気を悪くした様子も無く、嬉しそうにランベルトが答えた。

「先程お会いした大きい方は」

 メイフェアは、真意を悟られないように、そのまま尋問を続けた。

「えーと、あいつはヴィンス様の秘書官の、ロッカ・アクイラ。さっきの小さいのがヴィンス様の小姓のエミーリオです」

 メイフェアは、まあ、そうですの、と適当に相槌を打つ。

 

「すみません、私、そろそろ戻らないと…お先に失礼いたします」

 ビアンカは部屋に帰りたかった。根掘り葉掘りメイフェアが聞いているが、何処の誰だろうが正直どうでもよかった。…基本、自分とは接点のない人々のはずなのだから。

 確かに、こうも度々宴などに出席させられては、多少の情報を仕入れておかないとまずいのだが、痛い目を見ているせいかビアンカは、今後人前に出るのはお断りさせてもらうことにしよう、と珍しく決心していたのである。 





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