9.先生交代
部屋に戻ると、レイヤが腕を組んで仁王立ちしていた。彼は昨日と同じような衣装で、白い長めの上着に黒いズボンだ。上着にはほどよく金の刺繍が施されている。同じ顔の作りでも色が違うし性格も違うので全然印象がちがう。
「こら!いつまでくっ付いてんだよ。まったく」
舌打ちしながら、こっちに近寄ってくる。
そう言われてまだ私がゼノンに抱きしめられたままでいることに気がついた。
放してもらおうと声をかける前にゼノンが手を緩めてくれた。
「天空の案内のために、ずっとひっついてもらってたから・・・」
照れ隠しにそう言い訳すると、レイヤが呆れたようにため息混じりにこう言う。
「手に触れているだけで大丈夫だろうが・・・。ゼノン、お前黙っていたな」
ゼノンはレイヤを無視して私を見ながら謝る。
「役得だったよ。ごめんね、フウカ。怖がってたのでつい、言いそびれました」
言いそびれたのではなく確信犯でしょ。やはりセクハラですか?兄さん。
「まったく・・。ゼノン。ワトンたちが今か今かと待っているぜ。さっさと行ってやれよ」
レイヤはゼノンに向かって手を追い払うように振る。い、犬じゃあないんだから・・・。
「しかたないですね。じゃあフウカ。夕食のご招待ありがとう。セレーナに言ってくれたらすぐ伺いますよ」
しかしそんなレイヤの行動に何も感じないようで、気にせずに私に微笑みながらこう言って瞬間移動した。彼がいた場所をつい見てしまう。
となりのレイヤから出る不穏な気配が怖いからだ。
「今日は夕食、ゼノンと食うのかよ」
どうやら今日も一緒に食べるつもりだったようだ。
「さっき誘ってくれたんだよ。あ、せっかくだし3人で食べよう。人数多いほうがいいもんね」
そういうとますますため息をつかれる。
「遠慮しとくよ。ゼノンと仕事以外で一緒にいるのは苦痛だ。それより、その服エダからの贈り物だって?」
本当に情報が早い。ノア経由かな?
嘘つくわけにもいかずにうなづくと、レイヤはもっと大きなため息をつく。同時に部屋の雰囲気も重くなる。
「まったく・・・。どいつもこいつも油断も隙もない」
やっぱり他の奴ら出入り禁止しといて正解だな。
ぶつぶつつぶやいている。
「フウカ。お前、二人から恋愛の話は聞いているか?」
多夫多婦制で、女が少ないってことかな?
そういうとレイヤは大きく頷く。
「お前はどういう考えをもっているんだ?」
恋愛についてだよね。うーんと考えながら答える。
「私のところでは一対一が当たり前だったので、今のところそういう関係しか考えられないよ。どんどん恋愛して子供産んだほうがこの国にはいいのかもしれないけど、来たばかりだから恋愛すらまだ考えられないなあ」
まだ、自分自身の存在を認識することもできてないのだから。
そういうと、不機嫌だったレイヤの表情も徐々に元に戻る。私のほうに近寄り、頭の上に手をぽんっと置かれる。
160cmはあったのにおそらく数センチは減っている感じだ。レイヤもゼノンも軽く180cmは越えている感じなので身長差がかなりあるので頭をなでやすいのだろうか?
「そうだな。とりあえず恋愛に否定的でないのだけ分かってよかった。管理者の立場からはどんどん産んでくれと思うが、個人的にはゆっくり相手を分かってから恋人なり夫婦になってもらいたい」
レイヤは口は悪いけど、やはりやさしい。
うれしくてつい口元が緩んでしまう。
「ありがとう。そう言ってもらえると助かるわ」
さっさと記憶消したほうが楽だろうに、そうしないでこうやって気にかけてくれているのだ。
「べつに礼言われるようなこと言ってねえよ。あ、そうだ。ノアに言われて服贈っといたから、またそれ着てこいよな」
え!今朝のやり取りレイヤに言っちゃったんだ。
「ごめんね。催促しちゃう感じになっちゃって」
ノアには言っとかないと。まだ働いてもないんだから贅沢もいけないんだから。
「いや、その服ばかり着られるのも胸くそ悪いからな。ノア以外の精霊からもぶーぶー言われるだろうし・・。どうせ贈る形になっていたと思うから気にするな」
すこし照れながらそう呟く。そういえば、精霊にとってその色の服を着ると喜ばれるって言ってたか。じゃあありがたく受け取るしかないね。
「ありがとう。楽しみにしてるね」
心を込めてそういうと「おうっ」とだけ短く言う。
本当に最古の最高神だというのに人間臭い。ゼノンもエダもそうだが。逆に威厳いっぱいの神様だったらこうして気安く話しできないのでよかったけど。
少な目の文章ですが次回とのバランスでここで区切らせてもらいました。ごめんね。