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女神の憂鬱  作者: 灯星
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83.自意識過剰でした

 ようやく、フウカ視点です。

 

「で?そろそろ教えてくれよ」


 私の右前で腕を組んだまま黒髪の少女が口を開いた。逃がさないとばかりにスミレ色の瞳を光らせて私を睨んでいる。

 服装が首の詰まった白い上着と黒いズボンなので中性的に感じる。


「そうじゃ、そうじゃ。観念して教えるのじゃ」


 私の左前・・・つまり少女の隣のいる小さな老人がそれに同調する。その老人は彼女の胸あたりまでしか背がない。


「ハヤト・・・ビルパケさん・・・」


 私は詰め寄る二人の名前を呼ぶ。

 少女は元弟で現娘である守護の女神ハヤトである。神に転生して性別が男から女になったために、かなりの戸惑いとショックを受けていた。それに追い打ちをかけるように求愛者が次から次へと現れた為に、一時期文字通り私の部屋に引きこもりになっていた。それも私と数人以外侵入できないように鉄壁のバリアを張ってだ。

 2年経った今では引きこもりから脱出しているものの、求愛者に対してはかなり冷たい態度で切り捨てている。


 まあ無理もないけど。


 元々男だったのだ。男の求愛など冗談ではないという心情だろう。

 キャシーが癒しの精霊となった事を知ったハヤトは、ここ数日会うたびにこんな調子である。


 そして、もう一人。


「ほれ、ちゃっちゃと吐いてしまうのじゃ。癒しの精霊の誕生の流れをな」


 この世界ではめずらしいと言うか、神で唯一だろう年老いた姿の記憶の神、ビルパケ。その皺だらけの顔にもっと皺を作りながら聞いてくる。初めて会ったときからこんな調子だった。


『おもしろい。異世界の人間がこの世界の神になるなど。ふむふむ。記憶の神としてその事実の解明をしなくてはな。何事も正確に記憶せねばならんのじゃからな』


 そして人間界に飛ばされてから再び帰ってきた時も、ハヤトを産んだ時も興味津々に説明を求められた。


『フウカは本当に異例尽くしで面白いな。記憶を残しているがいつもいつも驚かされることばかりじゃ』


 そんな事を言う研究オタクな彼が、こんな初めての現象を見逃せてくれるはずもない。

 しかし・・・。

 私は詰問者を眼の前に、思わず言葉を詰まらせてしまう。


 い、言えるわけないじゃない!レイヤとゼノンにキスをされた上に、私が泣いたからだなんて・・・。


 ビルパケはともかくさすがにハヤトに、こんなことを言うのは恥ずかしすぎる。


 聞いてもハヤトには無理なんだから聞かないでよ。


 ついそんなことを思ってしまう。


「た、ただの偶然よ。いろんな現象が重なり合ってそうなったみたいなの」


 嘘は言っていない。それがどういう内容なのか言ってないだけだ。


「そうか。そうか。じゃあ一からその時の行動、状態を隈なく教えるのじゃ」


 なんとなく子泣き爺を思い起こさせるような容姿のビルパケが、逃がさないとばかりに私から視線を外さずに近寄ってくる。思わず私は後ずさってしまうが、下げた足が壁にぶつかってしまい追いつめられたことに気がついた。


「フウカ。往生際わるいぞ。そんなに変なことをしたのか?フウカがどうしても言えないってならその場にいたレイヤかゼノンに聞こっかな?」


 ハヤトが前に進み出たビルパケの後ろで、腕を組んだまま楽しそうな表情を浮かべてそう言う。


 どっちにしても知られてしまうのか・・・。


 私は観念して端的にその時のことを伝える羽目になった。






「なんじゃ、それだけか。つまんないの~。口付けだけとは・・・。だが、その組み合わせで精霊ができたってことはもしかすると、研究によっては自然以外の精霊も、神と精霊の子以外でもできるやもしれん。こうしてはおれん。わしはこれで失礼する」


 そう言うだけ言うと、子泣き爺もとい、オタク気質な記憶の神はとっとと姿を消した。


「えっ。ちょっ」


 私は思わず消えてしまった空間に手をのばしてしまった。


 こら、まってよ。自分勝手なじいちゃん。ハヤトとこの場に残されるなんて気まずすぎる~!


 同じく日本人の考え方を持っているハヤトである。私がオリセント以外の者、それも二人も口付けされるなんて軽蔑されてもおかしくない。


「えっと・・・ハヤト?」


 私から話を聞いて眼の前の少女は固まったように考え込んでいる。


 や、やっぱり軽蔑されちゃった?


 私はそう思ったけれど、言い訳を口にすることはなかった。

 あれはただのスキンシップであるとか、行き過ぎた慰めだとか言い訳はいくらでもできる。

 だが、私はこれ以上彼らへの気持ちを誤魔化したくなかった。

 ゆっくりと息を吐いて、意を決してハヤトに慎重に言葉を選びながら今の心情を話した。


「聞いて。ハヤト。私はやっぱりレイヤとゼノンのことも好きなの。だからこういう結果になったんだと思う。ハヤトは軽蔑するかもしれないけど」

「は?軽蔑?なんで?」


 ものすごく勇気を出して言った言葉なのに、ハヤトは虚を突かれたような表情でこちらを見ていた。


「だってオリセントだけでなく、レイヤとゼノンのこともって言っているんだよ。日本ではありえない話でしょ?」

「あー。もしかしてそれで教えようとしなかったのかよ。フウカは気にしすぎ。俺は別に気にしないぜ?だってここ、そういうところじゃん。ビュアスにしてもそうだし」


 思いもしなかった反応に、私が逆にびっくりしてハヤトを見つめてしまった。呆れたとばかりに小さなため息をこちらに吐いているが、嫌悪感など微塵にもない表情。


「え?」

「それにフウカがあの双子のこと好きなのなんか、見てりゃあ分かるし。なんで頑なに拒んでいるのかなって不思議に思っていたけど、もしかして俺のこと思ってとか?」


 図星を刺されて、うっと言葉が詰まってしまう。

 意識はしてなかったが、確かにハヤトに軽蔑されたくなくて気持ちに歯止めを効かせていたところは確かにある。


「ばっかだなあ。俺にしたら、逆にありがたいんだけど。1人でも多く女神を産んで、この男女比をどうにかしてほしいし。そしたら少しでも寄ってくる奴へるし」

「そうなの?」


 思わず聞き返してしまう。それに対して、ハヤトは腕を組んだまま何度も頷いてきた。


「ああ。もう遠慮せずにボンボン女神を作ってくれ。あ、男の神はだめだぞ?これ以上男はいらん。郷に入らば郷に従えっていうのあったじゃん?だから恋人が増えても気にすることないとおもう。オリセントも許してるんだし」


 そう言えば、はーくんっていつもこんな性格だっけ?


 人間であったときからこちらが爽快に思ってしまうほど前向きな弟だった。ここに来た時も女であること以外はすんなり受け入れていたっけ。

 私は今まで悩んでいたことがあほらしいとすら感じてしまった。


 こんなことならハヤトに素直に気持ちを話すなり相談すればよかった。


 そう思っていると、ハヤトは自分の頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜながら少し眉間に皺を寄せる。


「あ~それより、んなミックス現象なら俺にはぜったい無理じゃあねえか!ちっくしょう。俺も守護の精霊とかほしいのによ~」


 どうやら、さきほど考え込んでいたのは精霊の作り方についてだった。

 私は思わず吹き出してしまう。

 これは自意識過剰だった自分に対してだ。

 だが、ハヤトは勘違いしてむっとしたようにこちらを一睨みし、昔と同じように私を呼ぶ。


「んだよ。アネキ」

「ごめん、ごめん。たしかにハヤトには難しそうね。でも、ビルパケさんが調べてくれるみたいだし諦めることはないんじゃない?」

「ビルじぃを当てにしても意味ないっての。あのじいさん、いろんな事に興味がありすぎて一つのことをじっくり研究するタイプでないし。『神は寿命ないからあせる必要ないのじゃ』とか豪語してたんだ」


 そうなんだ。たしかに寿命はない。


「あーこうなったら俺が研究しよう。うんうん。それがいい」

「がんばってね」


 私が、いつになくやる気になっているハヤトに言えることはそれだけだった。


「フウカこそがんばって、レイヤとゼノンに気持ち伝えろよな。元男としていつまでもお預け食らわされているのは、不憫だって思ってたんよ」


 ハヤトはいたずらっぽくそう言うと軽く手を振って部屋から姿を消した。


 お、お預けって・・・。


 ハヤトの言葉を聞いて、私は誰もいない自室で頭を抱えこんでしまった。


 

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