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女神の憂鬱  作者: 灯星
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79.意外な化学反応(下)

「キャシー。貴女は癒しの精霊になったみたいね」

「え?まことですか?」


 私が彼女に今の状況を伝えると、信じられないとばかりに目を見開いて自分の姿を見まわしている。

 私としてもこんな事態になるなんて見当もつかなかっただけに、本当かと聞かれても答えにくい。


「ゼノンが言うように色々な偶然が重なって、力が凝縮されて誕生したようだな」

「そうですね。わずかですが私とレイヤの気も感じますしね」


 私の唇に二人が舐めただけでそうなるなんて。

 今さらながらその感触を思い出して私は思わず顔に手を当てる。見えないけど間違いなく頬は赤くなっているだろう。

 幸いそんな私に気づくこともなく、キャシーは慌てて頭を大きく下げるばかりか、土下座をする。そして興奮気味に少し上ずった声をあげた。


「し、失礼いたしました。光神レイヤさまと闇神ゼノンさま」


 あ~そう言えばキャシーにとってはまさしく顔を見ることもできないほどの神か。私はもともとこの世界の者ではなかったのでそれほどレイヤやゼノンの存在を崇高のモノとは認識できなかったけど、ギリシャ神話で言えばゼウスとかみたいなものだからいきなり会ったら土下座しちゃうわね。


「堅苦しいことはいらね~よ。まあフウカ、よかったな。これでもう泣かなくても済むだろう」


 レイヤの言葉でたとえ精霊となったとしても、キャシーが復活してくれたことがじわじわと実感できてきた。

 もっと確かめたくてゼノンの傍から離れて、未だに土下座をしている精霊の許に近づく。

 地に付けている両手を包み込むように握って、ゆっくりと彼女を引き上げた。


「キャシー。ごめんなさいね。私が加護をしたせいであなたはこんなに早く命を落としてしまった」


 生まれたばかりの精霊はおそるおそるという様子で私の顔を見上げてくる。その眼はかすかに潤んでいる。


「フウカさま。謝らないでくださいまし。今のわたくしがあるのはほかでもない、貴女さまに癒しの加護を頂いたおかげです。それに短くても十分に幸せでした」


 微笑みながらそう言う精霊が愛おしくて思わず私は抱きつく。


「ありがとう、キャシー。本当にうれしい」


 抱きつかれたキャシーはすこし虚をつかれたように身体を硬直させていたが、すぐに力をぬく。


「こら、フウカ。神の威厳もあったもんじゃ~ないだろ?」


 レイヤが私にそう突っ込んでくる。しかし、そんなレイヤに対してゼノンが反撃をしてくれた。


「レイヤがそれを言いますか?最高神でそんなに口悪いのはいかがなものでしょうね」


 それ、同感だわ。最初、どこかのヤンキーかと思った。


「いつでもどこでも、その座を譲るぞ、ゼノン。俺はなりたくてやっているわけじゃあね~よ」


 レイヤがえらく真剣にゼノンにそう詰め寄ると、ゼノンは呆れた口調で言い返す。


「闇が最高神になれるわけないでしょう」   


 闇神が最高神ってなんだか暗黒の時代みたいになるわね。それは確かにまずい。


「えっと・・・」


 完全に存在を無視された腕の中の精霊がとまどいの呟きをあげる。

 そうなっても無理ないだろう。何といっても神の№1と2が軽口をたたき合っているのだから。


「これからはいろいろな神と会うことになるけど、たぶんイメージが崩れる神も多いと思うから覚悟しておいてね」


 私はキャシーにフォローの言葉をかける。


「いや、フウカも十分イメージとちがうとおもうぜ?」

「そうですね。料理までしている女神などフウカぐらいですからね。まあおいしいですけどね」


 後ろでいままで言いあいしていたくせに、双子がそろって私をけなしている。


「キャシーと言ったか?人間から精霊になったことで不安も多いだろうが、ここにもっと規格外なやつがいるから安心しろよな」


 異例ってもしかしなくても私のこと?


 レイヤがそう言うとキャシーは驚いたように私の顔を見上げてくる。


「あのね。私も人間から女神になったんだ。それもまったく違う世界の人間だったんだよね」

「まぁ・・!」


 理由を告げるとキャシーはますます眼を大きくし、口に手を当てたままこちらを見てくる。顔に傷があった時より表情が豊かになっている。


「そんなわけで、イメージと違うだろうけどこれからよろしくね」

「わたくしのほうこそ、こうして絶えるはずだった命を救ってくださりありがとうございました。フウカさまのお傍で仕えさせていただけるなんて、僥倖ぎょうこうの極みでございます」


 キャシーはそう言うと改めて深々と頭を下げる。


 そんなに畏まらなくてもいいんだけどなぁ。まあ付き合っていくうちになんとかなるでしょ。


 こうして私は癒しの精霊を手に入れた。

 羨ましがったハヤトと記憶の神のビルパケに、その手段をあれこれ詮索される羽目になる。 






「キャシー。ちょっといい?」  


 転生してから癒しの精霊として、常にそばにいてくれようとしてる彼女に声をかけた。

 その表情は時々切なく儚いものになるのを私は気が付いていた。と同時にその理由も悟る。

 自分の子供や主人である王や国のことだ。

 志半ばで引き離されたのだ。心残りがないわけがない。

 私だっていきなりこちらに連れてこられて隼人や両親のことを思いだすことは多かった。必死に考えないようにしていたし、私の存在があちらで消滅していたことで踏ん切りがついた。さらにはハヤトが来たのでこれが定めだったんだと割り切れるようになった。

 だが、キャシーの場合すぐそばに彼らがいる。だが精霊になった以上会うことも自分の無事を知らせることすらできない。それに精霊になったと言うことは寿命がなくなったに等しい。愛おしい主人である王はおろか、息子やまだ生まれていないが孫が亡くなっても存在しつづけなくてはいけなくなったのだ。

 蘇ったのは決して良いことばかりではない。

 そう思った私は、一代決心をして彼女に提案をした。


「あなたは癒しの加護者としてやり残したことがたくさんあるわ。だから今から人間界に降りてある王国の助けをしてほしいの」


 そう言うとキャシーは驚愕し慌てて辞退してくる。ある王国が自分の国であることを理解しているようだ。


「で、ですがフウカ様のおそばに・・・」

「私は大丈夫よ。あなたが満足するまで見守ってあげて。あまり姿を見せたりしたらだめだけど、王族の一部ぐらいならたまに見せてもいいから。力はあなたを信用しているから自分の判断で使用したらいいよ」

「・・・お心遣いありがとうございます。ですが、わたくしの私情だけでそのようなことするのは・・・」


 私の提案に対して喜びを隠しきれない表情をしていながら、それでも断ろうとする彼女にすこしきつめに命令することにした。


「キャシー。これは私からの指示よ。あなたの私情ではない」


 そう言うとキャシーの眼から一筋の涙がこぼれた。


「これからね。おそらくほとんど永遠に近い時間を私たちは過ごさなくてはいけないの。今、彼らのそばにいないと絶対後悔すると思う。本当は人間に戻してあげたらいいのかもしれないけど、やり方もわからないしできれば精霊としてそばにいてほしいし。だから何年どころか何百年でもいいから気が済むまでいってらっしゃい。あ、声かけた時はもちろん、月に何回かは帰ってきてね。そして人間界の様子とか教えて頂戴」


 私の言葉を聞いて、今まで見た中で一番美しい笑顔を私に見せたかと思うと、ゆっくりと頭をさげてこう言う。


「はい。その使命ありがたくお受けいたします」  


 キャシーはその姿のまま私の目の前から姿を消した。

 次回は人間側です

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