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女神の憂鬱  作者: 灯星
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78.意外な化学反応(上)

 話が長くなりそうなので分けます。だから短いです

 瞼が重く感じるほど泣いて、ようやく私は落ち着いた。

 その間中、レイヤは私を優しく包み込んでくれていた。

 私はゆっくりと身体を起こして、レイヤから離れつつお礼を言う。


「ご・・・ごめんなさい。それに、ありがとう。追ってきてくれたのね」

「別に謝る必要なんかないぜ。俺はしたいようにしているだけだ」


 レイヤは口元をすこしあげて楽しそうな表情を私に見せてくれる。彼の優しさに触れて幸せを感じてしまう。だが、それはすぐに悲しみに上書きされる。

 私はこうしてレイヤやゼノン、オリセントに支えられて幸せを感じている。でも、キャシーはもう感じることもできない。あれほど波乱の満ちた人生を送り、ようやく幸せを掴んだところなのに・・・。

 もう枯れたはずの涙が再び込み上げてくる。

 レイヤは小さくため息をついて私に向かって手を伸ばしてくれる。


「泣きたいだけ泣け」


 もう一度抱きしめてくれようとしているのだ。

 それにすがろうとしたとき、すぐそばの空間がゆがむ。


 あれ?


 気が付いたら再び力強い腕に抱きしめられていた。先ほどと違う腕に。


「おや。フウカ。レイヤに虐められましたか?」

「ゼノン!」


 私の背後に現れてゼノンが、私を包み込むように抱きしめている。さきほどのレイヤより若干低いぬくもりが、触れあった肌から伝わってくる。

 目の前にはレイヤが小さく舌打ちをして、伸ばした手をひっこめて手を組んだ。


「んなわけあるか。お前のように加虐趣味はない」

「失礼な。私にもありませんよ」


 レイヤとゼノンが言い合っているが、二人ともお互いの顔を見ずに私の顔を覗き込んでいた。


「何があったか見てもいいですか?」


 ゼノンが優しくそう問いかけてきてくれて無言で頷く。

 レイヤとゼノンだけが出来る記憶を読み取る力を使うと言っている。

 説明するより速いし、私の口から出来事を伝えるのはつらいので了解した。泣き出してしまったので言葉にならないのも理由だ。

 しばらく私の頭に手を当てる。

 それは本当に一瞬だった。

 何があったか悟ったであろうゼノンが、レイヤとよく似た優しい眼差しをこちらに向けてくれる。


「よくがんばりましたね。フウカ」


 そう言うと、おもむろに私の顎に手を当ててくる。


 え?なに?


 気が付いたらゼノンの顔が見えないほど接近しており、ぺろりと舌で唇を舐められた。


「お、おい!」

「まだ傷が残っていますので。血も滲んでいますしね」


 レイヤが慌てて抗議の声をあげるのに、ゼノンは私を抱きかかえたまま平然と答える。

 私は思わず泣くのをやめてゼノンを見上げた。

 その加減で目じりに溜まっていた涙が私の頬をつたる。

 その涙が唇まで到達したとき、信じられない奇跡が起こった。


「え!」


 私の唇から小さな輝きが出てくる。

 その光の珠は私のオーラと同色である。私のオーラが分離したようだ。

 それが何かと探る間もなく輝きがみるみるうちに大きくなり人形ひとなりになっていく。

 そうして私がよく知っている女性の外見を形成していった。


「・・・・キャシー?」


 眼の前の現象が信じられなくて手を口元にあて、おそるおそる名前をよびかける。

 すると、もうすでに光の珠から人形となっている彼女は今まで閉じていた瞳をゆっくりと開ける。

 そうして私のほうを見て目を僅かに見開く。


「フウカさま?あれ?わたくしは死んだはずでは?」


 彼女が私に向かって訊ねてくるがこちらも分かっていないので返答しようがない。

 そんな私の耳にゼノンのつぶやきが入ってくる。


「おどろきましたね、精霊に転生しましたか」


 精霊に転生?


 そう言われて改めて彼女を見直す。

 容姿は亡くなった時より数年ほど若返っており20歳ほどである。生前はほとんどの時間を縛っていた金色の長い髪がいまは波打っている。さらに頑なに治すのを拒んでいたやけどの跡は完全に消滅して、本来の美しい肌となっている。当然つぶされていた切れ長の右目もブルーダイヤのように輝きを見せている。

 そして何よりそのオーラは私のオーラと同じ色をしていて、セレーナやノアと同じ輝き方をしていた。


「あいかわらずフウカは異例づくしだな、おい。癒しの精霊に転生させるか?ふつう」

「おそらく、フウカの血と涙に私たちの力が反応してこうなったようですね。本当に興味深い出来事です」


 レイヤの軽口にゼノンが分析を述べる。


 そういえば私の唇が切れて血が出ていたのを、レイヤとゼノンがキスしてその上に涙が落ちてこうなったっけ? 


「あ・・・あのぉ・・・」


 私以上に困惑している彼女に気がついて、私は気を取り戻して優しく声をかけることにした。

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