72.三神での初陣を終えて
本当に大したことないけれど、もしかしたらR15かもしれません。
ハヤトがこちらに来てから3週間があっと言う間に経った。
部屋も結局、私の部屋の近くで空いていたところをハヤトの部屋として充てられることになった。本当に私自身が例の最上階に引越しさせられなくてよかった。
ハヤト自身もだいぶここの環境になじんできたようで、空を飛ぶこと、瞬間移動に心声、そして守護の神としての力も簡単に取得していた。もともと器用なので、もうすでに私以上に力の制御を習得しているのかもしれない。
お披露目もウリュウと一緒に近々する予定とレイヤから教えてもらった。このごろは別行動することも増えて、ハヤトのほうはエダやウリュウなどと一緒にいるところを見かけるようになった。そして私のほうは、あれから何度か人間界に降りている。
徐々に自分を求める声と言うものがきこえるようになってきた。半数はオリセントと一緒に戦場にたつことになるのだが、もう半分はその声に呼ばれて降り立つようにしている。
ようやく癒しの女神としての役割がどういうものなのか把握できてきた。
正直まだまだ戦場は怖い。夢で何度も戦場の悪夢を見てしまう。だが、私が降り立つことで少しでも傷を癒すことができるとあれば、勇気をふりしぼって行くしかないと思えるものだ。
でも・・・。それをハヤトにも経験させるのはちょっととまどってしまう。たとえそれが私と同じで宿命であったとしても。
そう。とうとうハヤトにも戦場を体験させるということになったのだ。オリセントとハヤトと私で話し合ってそろそろ3人で一緒に行こうと言う話になった。
そのときのハヤトはすこし緊張した感じではあったが、表情に強い決意が見られていた。
「フウカもがんばって行っているんだろ?元々俺は男だった訳だし、俺も覚悟決めないといけないだろう。ようやくバリアも簡単に張れるようになったしな」
心配そうに見る私に対して、ハヤトはすこし苦笑するように口元を軽く吊り上げながらそう言った。
「見慣れている俺ですら、時々寒気が走る戦場もある。だから強がらなくていい。もし、見るに耐えられないのであればすぐに言ってくれ。これはフウカにも言っていることだ」
大柄な戦神であるオリセントが、外見は高校生ぐらいの少女であるハヤトの頭を軽く撫でながら忠告をした。
オリセントは私の頭もよく頭を撫でるが、ハヤトも会う度に一回は撫でている。やはり内面はどうであれ娘なのだから可愛くて仕方ないのだろう。ハヤトを見る表情も本当に優しげだ。
それに対してやられるハヤトはいつもくすぐったいような居たたまれないような感じで恥ずかしそうにうつむいていながらも、されるがままになっている。
言うと嫌がるだろうけど、その姿は本当に可愛らしい。写真に収めたいほどだ。
しばらくしてハヤトが無言で頷く。
「じゃあ行くぞ」
オリセントは私とハヤトにそう声を掛けながら二人の腕をつかんでくる。するともう慣れた現象がおこった。つまりは瞬間移動のときに起こる周辺の景色が一転したのである。
ハヤトは初めての戦場で顔を青ざめながらも気丈に振る舞い、必要な者に守護を与え立派に守護の神として務めた。私も必要な癒しを与えることができたし、オリセントも戦の行く末を導くことができた。戦・守護・癒しの神が初めて揃って立つことのできた戦場は、今までに比べて格段に被害を減らすことができたのを感じる。
オリセントが待ち望んでいたというのをここでより強く実感することとなった。戦乱の人間社会をもっともっと秩序のある社会に変えていくことが、私たち3人の当分の役目である。
ハヤトの初陣を終えてまずハヤトの部屋に跳んだ。ハヤトは部屋に戻るとすぐに安堵のため息をつきながらベッドに腰掛けた。やはりかなり緊張しただろうし疲れたのだろう。私とオリセントはハヤトに労いとゆっくり休むようにと声をかけてから、ハヤトの部屋を後にした。
オリセントは次に私を部屋に送ってくれる。部屋でふたりっきりになってから私はオリセントに呟いた。
「オリセント。私、うれしいの。ハヤトにとっては過酷かもしれないけれど、こうして3人で使命を果たすことができることが本当にうれしい」
私の言葉を聞いてオリセントは強面の顔に優しい笑みをうかべながら、私の背中に腕を回してきた。
軽く抱きしめられて私の頬に触れる広い胸板から温かい熱が伝わってくる。
「それを一番噛み締めているのは俺のほうだ。予想以上にハヤトはよくやってくれたな。やはりフウカと同じで、守護の神になるべく誕生したんだと実感させてくれたぞ」
私の耳元で低いオリセントの声が聞えてくる。その声は本当に嬉しそうだ。
「ありがとう。ハヤトも私もそんな風に認めてくれて。これからも3人で力合わせて人間界の戦争を減らそうね」
私がそういうとごく自然にオリセントの顔が近づいてきて、そっと触れるだけの口付けをしてきた。
いったん近づいた彼の顔が少し離れる。熱に浮かされたような眼の輝きをみせている。
「フウカ。このまま抱いてもいいか?」
オリセントは私の顔を大きな手で包み込み、彼の視線と私の視線を交差させるように顔を近づけながら聞いてきた。床を共にするのはこれで4回目だがその度に私の気持ちを確認してくれる。
私は無言で頷く。すると本当にうれしそうで、彼にしたらめずらしく無邪気な笑みを浮かべながら、私の身体をそっと抱き上げてベッドに下ろしてきた。続けて、私に重みを感じさせないようにしながらも、ゆっくりと身体を私に覆いかぶせる。
私も近づいてくる大柄な恋人の背中にそっと腕を回して抱きついた。
次回はオリセント視点です。