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女神の憂鬱  作者: 灯星
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70.闇神とのお茶会

 あら?


 景色が変わると8つもの眼がこちらを見ていた。

 移動の対象物であったハヤトに加えてエダにゼノンにその部下であるワトンだ。

 周りと見渡してみるとそこはゼノンの執務室だった。てっきり私たちの部屋にいるだろうと思っていたからハヤトにしたんだけど検討が外れてしまったようだ。


「え~と、ただいま。ごめんなさい、ハヤト目指して跳んだらここに来ちゃった」


 私はとりあえずなんで来てしまったのか理由を告げる。すると事情をいち早く把握したようで、ゼノンの顔に笑みが浮かぶ。


「あいかわらず瞬間移動が苦手らしいですね、フウカ。レイヤも言っていましたし、やっぱりこの階に引っ越ししてきますか?」


 すると隣のゼノンの精霊であるワトンが真剣に真面目な顔をしてその提案に乗ってくる。


「いいですね。ゼノン様。ちょうどハヤト様も誕生されたのでフウカ様の部屋をそのままハヤト様に譲られて、こちらの階に部屋を設けられてはいかがですか?」


 最上階は嫌です。

 部屋なんかどこでも構わないといえば構わないのだけれど、この最上階はレイヤとゼノンしかいないわけだしなんだかやばい感じがする。

 その申し出は丁重にお断りさせてもらった。


「えーと、しばらくはハヤトと同じ部屋でお願いします」

「それは残念。ではハヤトがここに慣れてきたら考えておいてくださいね」


 ゼノンは私の近くまで歩み寄ってその整いすぎの顔を近づけてそう言ってくる。

 久々に真正面から見るその魅惑的な表情に顔が熱くなるのを止められない。

 だいぶ、慣れてきたと思ってたのに・・・。


「あー・・・。とりあえず俺はまだ神殿内を案内してもらう予定なので失礼します」


 余裕が無くなった私に、ハヤトの間の延びた声が聞こえてくる。その方向を見ると、すこし呆れたような表情をした中性的な少女がこちらを見ている。


「そうですか。ハヤト。いつでも歓迎なので遊びに来てくださいね」


 ゼノンはハヤトに笑顔で手を振っている。ハヤトとエダは出ていくために私たちに背を向けて扉のほうに歩いて行く。


「あ、じゃあ私も・・・」


 もともとハヤトを目指して来たのだから、ハヤトが行くなら私も一緒に行こうと後に続こうとしたのだが、がしっとゼノンに腕を掴まれたために動くことができなかった。


「え?ゼノン?」

「せっかく来てくれたのにすぐにいなくなってしまうなんて薄情ですよ。せめて一緒にお茶でもしてくれませんか?」


 言葉は優しげだけど、掴んでいる腕からは絶対離さないという強い意志を感じる。


「ゼノン。じゃあ僕らは行くね。・・・ほどほどにね」

「フウカ。俺のことは気にしなくていいから。いまテレポート教えてもらっている最中だし。じゃあ失礼します」


 扉から出ていく直前にエダとハヤトがそう言い残して、結局私を置いてきぼりにして部屋からいなくなってしまった。

 これでも心配していたのだけれど、ハヤトとエダは予想以上に仲良くなれているようだ。恋愛感情でないことは確かだけど。と言うか、正直ハヤトが誰であれ男と恋愛関係になることはまだ私にも想像つかないし、見たくもない。

 かといって私とだけ親密になるわけにもいかないし、それなりに色々な神と仲良くなる必要があるだろう。そういう意味ではエダと一番最初に接点を持つことはよかったんだなって思う。


「よかった。エダとそれなりに仲良くなれてそうで・・・」

「そうですね。ハヤトは中々前向きな考えをしているようですし、エダとは気が合っているようですよ」


 思わず考えが口に出たことに横から返事が返ってきた。その間も私の腕を掴んだままだ。もうすでに二人はこの場から姿を消している。

 私は小さくため息をつきながら諦めることにした。


「ゼノン・・・。もうしばらくこちらにいるから腕を離しても大丈夫よ?」


 私がそう言うと本当にうれしそうに微笑みながら腕を外してくれた。


 や、やられた!


 その笑顔を見て先ほどの比でないほどの衝撃を覚えて、思わず顔に手を当ててしまう。

 今までは楽しんでいる感じの微笑みで本人も分かっていて作られた表情だったが、おそらくこの笑顔は彼にとって感情のまま出た無防備なものである。どちらかといえばレイヤの笑みに似ている。しかし、今まで見たこともないゼノンのものであるからこそ数倍の威力があった。


「ワトンもいなくなりましたし、しばらくは休憩時間となりますのでゆっくりして行ってくださいね」


 そう言われて、ゼノンの側近であったワトンがこの部屋からいなくなっていることに初めて気が付いた。

 いつのまに・・・。


「・・・ゼノンにしたら強引ね。お茶だけは一緒に頂くわ」


 心のどこかでゼノンが強引に引き止めてくれたことを嬉しいと喜んでいる自分がいる。

 だが、お茶だけだからと強く言い訳しながら結局ゼノンと時間を過ごすことにした。






「そう言えば、ゼノンも人間に加護を与えたりしているの?」


 せっかくなのでお茶をしながら質問してみる。オリセントの口調からいって闇の加護もだれかが授かっていそうな様子だったからだ。


「ええ。2人ほどいますよ。どうしてですか?」


 逆に聞かれて先ほどの出来事をかいつまんで説明すると、納得したようにうなづきながら彼の考えを教えてくれた。


「そうですね。たしかに人を傷つけてしまうほどの力を与えるのは私としてもどうかと思います。だがそれが必要な場合もあります。私の場合、1人は攻撃的な闇の力を与えていますが、もう一人は本人も気が付いてないですが安らぎの力を与えていますよ」


 なるほど。与えるにしてもそういう分け方もあるんだ。


「たとえ攻撃的なモノでなくても本人が気が付くと周りもそれを知り、その者の人生を大きく狂わせる場合がありますからね。フウカもこれは気を付けてください。特に癒しの力は誰もが欲する物です。その者の力を求めて多くの人が群がります。だから授ける場合は、その背景も考慮した上ですることをお勧めしますよ」


 たしかにその通りだ。

 だれだって身内に病人やけが人がいて、それを治すことができるという話を聞けば治してもらいたいと思うだろう。そう考えると癒しの女神としてもし力を授けるならほとんど授けないか、人生を狂わせない程度の小さい力をそれなりの人数に与えるかだ。

 大変そうだけど数多くの人に癒しの加護が必要ね。

 先ほど会ったバーンはその国の王であることもあってたとえ治癒の力を持っていても人が群がることはなかったし、バーン自身も力を受け取ったことを大っぴらにしてない様子だった。やはり彼だけっていうのは拙かろう。


「たしかにそうね。私は癒しの加護を数多くの人に持ってもらったほうがいいのかなって思っているわ。それほど強力なモノでなくすこし癒す程度ならいいと思うの」


 私が持っているような瀕死の状態から一発で健康に治してしまうほどのモノを人間が持つべきではない。だが、戦や事故で傷ついた身体の治癒の能力を少し高める程度のモノであれば数多くの者にもってもらいたい。


「そうなると、フウカが大変ですよ?力を授けるってことはすなわち自分自身の神気を分け与えるに等しいのですから」


 ゼノンが心配そうにこちらを窺うように見てくれていた。

 そういう仕組みなんだ。たしかにそうなると無数の人に力を与えることは難しそうだ。

 いいアイデアだと思ったんだけどな。

 もうすこし私は人間界のことやこの神の仕組みについて知る必要があるなと改めて実感した。


「そういえば、レイヤが諦めない宣言をしたそうですね」


 いろいろと思考を巡らしていると隣からゼノンが聞いてきた。

 私は真面目な事を考えていただけに一瞬反応に戸惑う。


「もちろんですけど、私も諦めてませんよ。というより、無事ハヤトも誕生したことですしこれからは本腰入れて貴女を口説こうと思っています」


 そういうゼノンの背後には真っ黒のオーラが漂っている。

 口説きモードにスイッチが入っている・・・。


「もう充分わかっているでしょうけどオリセントがいるとかハヤトがいるとかいうことでは、一切歯止めになりませんのであしからず」


 そう言って私を見る眼は嫌味なほど輝いている。獲物を狙う獣のようだ。


 ひ、人妻口説くの反対!


 思わずそう言いたくなる。だがさっきのゼノンのセリフではないけど、そう言ったところでここの常識的には通用しないだろう。


「貴方のその可愛らしい口から直接に『嫌い』だとか『寄るな』とかいう言葉を頂かないと私は貴女を諦めることができそうにありません」


 ゼノンはそう言いながら固まっている私の頭をすっと撫でたかと思うと、そのまま私の髪を一筋掬い取って座ったまま髪の端に唇を寄せる。


「そ、そんなこと言えるわけないじゃないの・・・」


 あれほど世話になっていてそれなりに好意を持っている人にたとえ嘘でも言えない。


「それなら私に口説かれるのは諦めてください。なに、これから長い時を一緒に過ごすのです。オリセントだけにフウカを独占させておくわけにはいきませんからね。できれば次は私の子を産んでくださいね」


 ゼノンはそれだけ言うとようやく私の髪を離してくれた。

 オリセントと結ばれてからしばらくはレイヤにしてもゼノンにしても口説こうとしなかっただけに、今回の攻撃はいつも以上に威力があった。

 守護神が生むという使命を終えたからという考えなのを理解した。


 つまりはこれからは2人ともそのつもりってことよね・・・。


 正直気持ちが全くないわけでないだけに、このことについて考えることを避けたいというのが私の中の本音だった。あまり深く考えすぎると私にとってはとんでもない結論を出してしまいそうだからだ。

 こうなったら癒しの女神としての仕事とハヤトだけに気持ちを集中しよう。

 二人には悪いけど、私的にはすくなくてもしばらくはこのままでいたいのだから。

 ゼノンがこちらをじっと見ているのを分かっていながら、私は視線を下に向けたままお茶を飲むこと集中した。

 だからゼノンが少しいつもと違うさびしそうな笑みを浮かべたことを、私はまったく気付かなかった。

 

 久々にゼノンさん、口説きモードです。

 

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