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女神の憂鬱  作者: 灯星
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69.神に芝居は必要みたいです

 オリセントの声を聞いて戦場にいた者はしばらく呆然と立ちすくんでいたが、やがて帰り支度を始める。

 よかった。

 その様子を遠くから見守りながら、私は疑問に思ったことを色々とオリセントに聞くことにした。


「ねえ。勝敗ってどうなったの?」

「ああ。先ほど言ったようにレイヤの加護を受けた者の力で、全体数的には圧倒的に劣勢で虐げられていた民族が勝ったぞ」


 なるほど。だから必要な戦いだと言うのか。でも1人の力で戦いを左右する力があるってある意味こわすぎる。


「レイヤだけでなく他の神たちも人間たちに色々な加護を与えているの?」

「ああ。その加護の大きさに違いはあるけどな。俺自身、この前のターチェンなどを加護しているな。そういうフウカも忘れているだろうが、1人加護を与えているだろう?」


 そう言われて最初の戦いで力を与えた者がいたことを思い出す。一番最初に戦いに終止符を打とうとした者だ。自分の事で精一杯で彼に気をかける暇もなかった。せっかくだし会いに行こうかな。


「レイヤが与えた人ってそんなに力があるの?」

「やはり最高神の力だし、光と闇の力は特別に強いと言えるな。だからこそ早くにこの戦地に来たかった。レイヤが与えた者が必要以上に力を出してないか見守るためにも」


 あれ?レイヤが与えたのならレイヤも見に来ないのはなんでだろう?そう思っていると、オリセントはすぐにその疑問を解いてくれた。


「見守るのはレイヤが来る予定だったんだが、急きょ他の仕事が入ったようで元々後から来る予定だった俺が先にここに来ることになったってわけだ」


 なるほど。だから急いでたんだ。

 しかし、神が加護を与えるってそういうものなんだ。そう考えると一つどうしても聞かずにはいられない疑問がわく。


「私のような癒しはともかく、人を傷つけてしまうような力をたった一人に与えることは危険でないの?」


 力を持つと人は野望を抱き、力で支配しようとしたりはしないだろうか?本人がその気でなくても周りがそのように利用したりしないだろうか?


「レイヤもそれなりに人物を見て与えているだろう。実際レイヤが彼に与えてなければ何万人と言う民が餓死で苦しんでいたはずだしな。フウカもこれからは定期的に加護を与えた者を見守ったほうがいい。人間は特に心が弱い。もし、力を自分のエゴの為だけに使うようなら取り上げなければいけない」


 そう言われて与えた者の名前すら知らない事実に、私は気が付いた。いくら癒しであっても他の人にない力を有するのだ。気にかけておくべきだろう。本当にうっかりしていたな。


「ねえ。とっても恥ずかしいんだけど、私与えた者の名前すら知らないの。今からでも会いに行ってもいいかしら?」


 いくら自分の恥ずかしい過ちであってもここで正さないとだめだと思う。だからオリセントに恥を忍んでそう訊ねた。それに対して戦神は笑うことなく真剣に頷きながら同意してくれる。


「ああ。行ってやるがいい。どこにいるかは気を探ればすぐにわかるだろう」


 こうして、もうしばらくここを見守ると言うオリセントと別れて、初めて戦場に立った草原に移動することにした。






「あ、あれ?」


 草原で何一つ建物のなかった大地は、すっかり様変わりをしていて大きな町になっていた。一瞬場所違いかと思ってしまうが、所々残る自分の力のかけらがここだと告げていた。

 町の中央には大きな建物がそびえたつ。まだ新しい建物だ。


 何かな?


 近づいて見てみる。お城にしては城壁が薄いし、どちらかと言えば寺院のように見える。

 気はその中に感じていたので入ってみた。私の姿はだれにも見えていない状態だし、建物の中も簡単に入れる。


 あれは?


 その建物の中に入ると一番大きい部屋の壁一面に美しい絵が描かれていた。

 戦場の絵だ。数々の兵士たちが倒れている。だが彼らはみんな同じ方向をみていた。右上の天空にいる少女の方だ。少女は白い髪をしていて目は金と紫の色違いである。慈悲深い笑みを浮かべながら右手をかざしている。その右手は光り輝くように描かれている。


 もしかしなくてもあれは前の戦いのシーン?

 でもってあれは私かしら?


 自分が描かれているので恥ずかしくなる。なぜか服装が布一枚なので胸のふくらみがよく見えている。


 私、顔しかみせなかったはずなのに・・・。


 その壁のある大部屋の真ん中で1人の男性が跪いて手を組み、目を閉じているのに気が付いた。瞑想をしているようだ。

 彼の姿をみた瞬間に、自分が加護を与えたあの青年であることに気が付いた。

 いや、もうすでに青年と呼ぶより年配の男性と行った方がいいか。戦場で見たときは30代半ばぐらいだったのに、今の彼は50代ぐらいになっているだろう。顔に大きな皺が何本も出来ている。

 私は人間界と神の国の時間の流れの差をここでも強く実感する。おそらく10数年は経っているだろう。

 彼と話するなら今しかないだろう。扉の向こうで数人が立っている。だがこの部屋には今は彼しかいない。

 私は彼に姿を現す覚悟を決めた。瞑想している彼の目の前に立ってから姿を見えるように心で祈った。

 彼はいきなり気配を感じて勢いよく構えながら目をあける。だが、次の瞬間、信じられないという表情を顔中に現してこちらを凝視していた。


「あ・・・・ふ・・・」


 なにかを言おうと音を発するが、それは言葉になっていない。


「陛下!何かありましたか!」


 扉の外から騒々しい声が聞こえてくる。

 こちらの音を聞いて警備の者が慌てているのだろう。

 それに対して年配の男性は一気にきつい表情になって大きな声を張り上げた。


「だれも入ってくるな!私が許可するまでその扉を開けることを禁ずる!」


 そう言うと大きく深呼吸してから膝をついて、頭をさげた状態になる。


「癒しの女神さまのフウカ様でございますね」


 いきなり平伏されてびっくりする。陛下というだけあって立派な身なりをした男性がである。


「頭を下げないでください」


 そう言うと彼は顔だけをこちらに向ける。その表情は興奮を隠しきれない感じで顔中を赤く染まらせている。よくみると目まで潤ませている。


「貴女様に救われてから17年間。まさかこうして再びお目にかかれるとは思いませんでした」


 そう言われて17年も経ってしまったのかと思ってしまう。


「本当はもっと早くに会いにくるべきだったのに、こんなに遅くなってしまいましたね」


 できるだけ優しく話しかける。やはり神として崇められている以上、馴れ馴れしい口調はだめだろう。


「救っていただいたばかりか身に余る加護を私に与えて下さり、本当に光栄でございます」

「貴方はあの時一番最初に戦いに終止符を打とうとしていました。そんな貴方だからこそ、その力を授かることができたのだと思います」


 そう。彼には悪いが、正直癒しの力をみんなに与えたあと気を失ったために、私自身の意志で彼に力を授けたのではないのだ。

 目が覚めてそういう事実を感じ取り、彼なら大丈夫だと思うことができたのでそのままにしていたに過ぎない。

 本当に私は癒しの女神として自覚と責任がたらなかったなと反省する。


「事実貴方は民のことを一番に思い、その力を乱用することもなくこの国を治めていますね。力を与えたことを誇りに思います」


 私ができるだけ重々しくそう告げると目の前に男性は、今まで溜めていた涙を両方の瞳から流す。やはり会いに来てよかったみたいだ。あまり話するとぼろが出てしまいそうだけど。

 とここでまだ彼の名前を知らない事実に気づく。今さらあえて聞くのもどうかと思うし、教えてくださいと言うのも彼に対して失礼だと思う。仕方ないので、一芝居をすることになった。


「貴方はこれからもその力を民の為に活用する事を誓ってくれますか?」

「はい!もちろんです。私、バーンデイン・オルギーナ・クュリエディーガは生涯を民と貴方に捧げます」


 バーンって言うのか。名前を知れてよかった。少しずるいかもしれないけど、これからはきちんと気にかけるから許してね。


「ありがとう。貴方は私が初めて力を授けた者なので、そう言ってくれてうれしいですよ。これからもこの乱世を終わらせるように力を注いでくださいね」


 私は彼に微笑みを見せながらすっと姿を消していった。

 泣いたまま目を閉じて手を握り締め身体を震わせている彼の姿を残しながら、その場を立ち去ることにした。それほど感動してる姿を見続けると、なんか騙しているつもりになってしまうからだ。いや、私は一応きちんとした女神なんだから騙しているわけではない。

 神の仕事って威厳を見せるために、はったりとか芝居も必要なんだなってつい思ってしまった。まあそう感じるのは人間だった私とかハヤトぐらいかもしれないけど。

 とりあえずふた仕事終えて、ハヤトを思い起こしながら瞬間移動することにした。

 名前出すつもりはないと言ってたけど、ここで必要になったので書きました。

 

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