7.女神一日目の朝。色は大切です。
朝。心地よい日差しが大きな出窓から入ってきてベッドで寝ていた私の頬をやさしくなでる。
いい天気。今日は仕事だっけ?えーと・・・・。
「!!」
がばっと起き上がる。案の定、白い天井に白い壁に白に統一された家具。
やはり夢でなかったんだ・・・。なんか、昨日の話聞いている限り日本に帰れる感じまったくしないよ・・・。と、なるとやはりこのままよくわからない神の世界で女神となってすごさないとだめなのかなあ。そもそも女神って何するかもわからないし・・・。
現実味ないけど、2回も起きるたびに夢でなかったと思ってしまうとすこしづつ、やはりこれは現実なのだろうかと思ってきてしまう。
考えても仕方ないか。どうやって日本に戻れるのかもわからないし、別に命に別状あるわけでもないし・・・。昨日必死に前向きに勉強しようと決意してたんだからがんばるしかないや。
「おはようございます!フウカ様。朝早いですね」
ノアがちょうどいいタイミングで部屋に入ってくる。よくわかるなあ。私が起きたこと。
不思議そうにノアを見ていると、その後ろからセレーナがワゴンを運びながら入ってくる。私の表情を見て考えてることがわかったのか、すぐに回答をくれた。
「昨日お話した神気で眠られているか目覚められているかわかるのですよ。特に今のフウカ様の気はとっても大きいので、精霊にはとても魅力的で感じやすいものになっていますわ」
あー、不安定だとか言われたっけ。それはさっさとセーブできるようならないとだめなんだろうね。
ワゴンを私の前に設置する。
そこにはすこし大き目の洗面器とふわふわそうなタオルが用意されている。洗面器の中にはすこしピンクがかった液体が入っていて花のいい香りがしている。
「これで顔と手を洗ってください」
ほんとうにいい香り。そう言うとローラの花のエキスをたらしているからだと教えてくれる。贅沢な香りだなあ。さすが神の国。
「フウカ様!服も用意してます!」
そういってノアが薄い水色の衣装を広げてこっちに見せる。
何枚も布が重ねられていて胴体部分は身体のラインにフィットしたワンピースだ。とても可愛いとは思うけど自分が着るにはちょっと若すぎるような・・・と思ってしまったがよく考えると今の外見は15歳ほどだった。
フリルがないしロングでよかったと思い直す。
着替えて鏡の前で見てみるとぴったりではあるが、腰でしぼられているためにすこしスイカのような胸が強調されている感じになる。みえているわけではないけどすこし恥ずかしいかも。しかし、こんなにでかければ、どんな服きてもそうなってしまうのだろうから仕方ない。
「まぁ。なんてお似合いなんでしょう。さすがエダ様ですわ」
ノアもセレーナも私の姿を見て感心するように何度もうなずく。
若々しい外見にはなるほど、自分で言うのもどうかもしれないけど似合っている。
「え?なんでエダ?」
エダくんはなんで関係あるのか分からないので素直に聞くと、セレーナが答えてくれる。
「昨日にエダ様がその衣装をフウカ様にと届けてくださったのですわ。まだ衣装はそれほど揃っていませんし素敵な衣装なのでさっそく今日持ってきました」
なんと素早い仕事をするんだ、エダくん。
おとといですよ。私が来たのは。
サイズもぴったりだし。センスはかなりいい。
やはり少年なのは見た目だけかもっと思ってしまう。女性に衣装を贈るなんて少年にはできることでもない。
後でお礼を言わないとね。遠慮したくても自分自身の服はボロボロで何もないのだから好意に甘えるしかない。
「髪の毛もセットいたしますわ。あげられますか?どのような髪型がよろしいですか?」
「こんなに長い髪をあげるのもたいへんだと思うし、くくるだけでいいんだけど・・・・。あ、それより重いし肩ぐらいまでばっさり切ってほしいなあ」
そういうとノアだけでなくセレーナまで一緒に猛反対される。
「こんなに美しいのに鋏を入れるなどわたくしたちにはできませんわ。毎日セットいたしますのでどうかこのままでいて下さい」
結局ふたりに押されて切ることは断念した。セットについては、編みこみをいれたり、飾りをつけたりしないかとだいぶ勧められたけど、それは遠慮させてもらいました。時間かかるし、結婚式みたいにするのもどうかなって思う。
最終的にノアがサイドに一くくりにしてくれた。不本意だったとばかりに数本細い三つ編みにした上でだけど。
髪型も服装もなんとか整えると、そのままテーブルに案内されて席に座る。
「さぁ。朝はお食事どうされます?よろしければ軽い飲み物と果実を用意いたしますが」
セレーナが聞いてきてくれるので少しうーんと考える。
今までだと朝はがっつり食べるほうだったけど、なるほどまったくお腹すいている感じはない。でもやはり習慣としてすこしは食べたいな。
「ありがとう。じゃあ少しだけ。できれば朝はお酒でないものでお願いね」
わかりましたとの声かけと同時に、昨日同様テーブルに一瞬でグラスと果物の大皿が盛られる。
便利だけとどういう仕組みなんだろう。またいつかおしえてもらおっと。
昨日おいしく思った桃の味の果物を取る。たしかセラというんだっけ?
やっぱりおいしー。
「本当にセラがお気に入りみたいですね。今度はセラでデザート作っていただきますわ」
それはうれしい!ノアちゃん。
軽く頭を下げてお礼を言うとまた二人が慌ててこっちをみた。そんなに大層なことかなあ?だって常識で無意識にやってしまう行動だし・・。
「お食事終わりましたら、ゼノン様が部屋に来られるとのことです」
セレーナが食事の後片付けをしながらそう告げる。
え?それなら食事せずにすぐ行ったのに・・・。待たせてしまって申し訳なかったな~。
その気持ちが顔に出てしまったようですぐにセレーナがフォローしてくれる。
「いえ。今、伝言されただけですので大丈夫ですよ。フウカ様」
へ~。テレパシーでお話できるんだ。便利だな、ほんとこの国は。
「そうです。いきなり訪問するとだめだとレイヤに言われてしまったので、セレーナに伝言をおねがいしたのですよ」
いきなり、扉の前からそういう声が聞こえる。
本当に伝達早いなぁ~。
「おはようございます、フウカ。朝早くからの訪問しつれいしますよ」
声のほうを振り返るとゼノンにこやかにこちらに笑いかけている。日変わっても美形は美形だなあ。
昨日いろいろありすぎてそこまで気にかけることができなかったけど、ゼノンの今の服装は長い黒の上着に白のズボンをはいている。ブーツも履いている。詳しくはわからないけど中世のヨーロッパの衣装に同じような衣装があったと思う。
昨日は黒1色のローブだったから感じが全然違う。今日はどこか外出するのかな?
「おや、本日は本当に可愛らしいお姿をされていますね。お似合いですよ」
私がゼノンを見ているように、彼も私の姿を見ていてそう褒めてくれる。
美形に褒められるとうれしいを通り越して恥ずかしく思ってしまう三十路であった。
「ありがとう・・・。え、エダがこの衣装くれたらしくて・・・・」
そういうとゼノンはおもしろそうに眼を輝かせて、私の服装を上から下までみる。
「おやおや、なるほど。だからその色ですか。エダもやりますね。私も自分の色で贈りたいけどさすがに黒は女性には避けられますしね・・」
水色の衣装はやはりエダの色って認識になるんだ。ゼノンは黒で、レイヤは金なのかな?
「そうですか?私、日本人で元々は黒髪黒目だったし、服も好んで黒色着てましたよ?」
黒は女性を美しく見せるって言葉があるぐらいだ。
こちらの世界ではそうではないのかな?
「くっくっ。うれしいことを言ってくれますね、フウカ。そう言われてしまうと何が何でも黒のドレスを贈って着ていただかないとっと思ってしまいますね」
あ・・・・催促する形になってしまった。
「あ、そういうわけでは・・・。ただ、黒もいいって話だけですよ」
どうやったら服装が手に入るのかわからないけど、贈って貰ってばかりでは申し訳ない。しばらくはこの服と昨日きてた白いワンピースでいいぐらいだし・・。
遠慮しますと言おうとすると、先手で遮られる。
「断らないでください。エダからの贈り物は受け取って私のは拒否するのですか?ほら、セレーナが着てほしそうにしていますよ」
「おねがいします。ぜひども黒のドレスを着てみてください。絶対お似合いですわ。ゼノン様ぜひわたくしに手配させてください。評判のいい針子を知ってますのですぐにご用意できますわ」
侍女ふたりの中で冷静なセレーナがすこし興奮気味だ。そんなに黒の服って不人気なのだろうか?
そう思っていたけど、となりでノアが抗議する。
「それはずるい!フウカ様。ぜひぜひ金の入った服も着てください!レイヤ様に言うと絶対贈ってくださいますわ。その姿は・・・」
うっとり。頭で想像しているようで少し頬を染めながら空を見ている。
いやいや、催促なんかしませんよ。でもなんでそんなに色にこだわるんだろう。
「フウカ。精霊にとって、好きな神が自分の系統の色を纏っているのは嬉しいことなんですよ。今、フウカは精霊に大人気だから、おそらくその衣装を見ると水系の精霊が喜ぶでしょうね」
んー。すごいなあ。
嫌われるより好かれる方が良いに決まっているけどここまで好かれるなんて、ちょっと怖い。
だって自分自身を見られているわけでなく、自分の外見とかだけ見られている感じがするから・・・。
仲良くなって自分を知ってもらわないとこの違和感は外れないだろうな。ちょっと私を知られて落胆されたりするかもと思うと怖いけど・・・・。
「だから贈らせてくださいね」
微笑みながらそう言われると断る手段が無い。結局おねがいしますと言ってしまいましたよ。