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女神の憂鬱  作者: 灯星
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60.いまさらながらの告白

 さて。どうしようかな・・・。


 まだ夕食には時間あるし、でも今までのように教師してくれていた人のところに顔を出すこともできないし、ご飯作りする気にもなれないし・・・。


 あ、そうだ。


 一つ思いついたことがあって、ノアとセレーナに声をかけて要望を言うと驚きはしたけれどすぐに用意してくれた。

 それは色々な種類の糸と珠石である。

 今は力を使わないほうがいいと言われたのですぐには作れないけれど、自分の身を犠牲にして人間界を守っているオリセントと、生まれてくる子のために癒しをこめた何かのお守りをあげたいと思ったのだ。

 匂い袋にすると男性が持つにはどうかと思うし、どうせなら小さな珠のようなものに力をこめてそれをペンダントにしてもらえばいいかなって思う。出来合いのペンダントでもいいんだけどどうせ時間が有り余っているのだから、その珠を結ぶ紐ぐらいは作成しようと思ったのだ。

 ねじり編みぐらいならできそうだ。


「何を作られるんですか?」


 ノアが興味津々に聞いてくる。


「ペンダントだよ。せっかくだし、紐ぐらいは編もうかと思ってね」


 私はセレーナがたくさんの種類の珠が入った箱を広げてくれているのを見ながらそう答えた。

 本当に色々な種類があるんだな。すごくきれいだし。

 まずは、小さめの透明がかった赤と青の珠石を選ぶ。せっかくだしオリセントの色違いの瞳に合わせて作ろうと思うのだ。

 次に細長い金平糖色の物を選ぶ。これは子供にだ。気の色で選んだ。

 様々なきれいな石があるので、思っていたようなものを選べて満足する。聞くとそれなりの価値のある石だけど、目が飛び出るほど高価なものと言うわけでもないようだ。


「あのう・・・。もしお邪魔でなければご一緒に作らせて頂いてもいいですか?」


 ノアがおそるおそると言う感じで聞いてくる。勇気を振り絞って言ったようだ。どうやら紐作りに興味があるようだ。

 了承するとセレーナもということになり、急遽紐作り教室を開催することになった。

 私はかなり昔に作った記憶をなんとか思い出しながら、黒色の糸を選んで編む。最初を教えてあげるとあとは繰り返しなので3人とも黙々と作業をする。

 二人のようすをみると、器用に編んでいるノアに対して意外にもセレーナは苦戦しているようだ。それでもそれなりに形になってきた。

 しばらくしてそれなりの長さを編めたので、私の分は珠石を二つをさくらんぼのような形で付けた。穴があいている形なので簡単にできる。どんどん編んでいくと腕ぐらいの長さまで編むことができた。最後のしあげにできた紐の端を結びながらその出来ばえを見つめる。

 出来上がりをみせると二人とも口々に褒めてくれた。


 うん。これならなんとか渡せるレベルになったかな?


 あとは気を送るだけだ。送ってしまいたいけれど、今は力を使わないほうがいいと言われているので完成は生まれてからになる。

 子供の分として同じく黒色の色を編む。男か女かわからないし、無難な色がいいので同じ色にした。

 私が二つ目を半分ぐらい作成している間に2人もできたようだ。

 初めての割には二人ともきれいに編めている。特にノアのは均一な網目で何度も編んだことのある私と同レベルなのには感心させられた。


「二人とも良い感じにできたね。あ、そうだ。しばらくの間それを預からせてもらってもいいかな?10日ぐらいで返すことができるとおもうから」


 せっかくだし、日ごろのお礼もこめて癒しの気を込めてあげたいと思ったのだ。そう言うと遠慮するかもしれないのであえて口にださない。サプライズにするつもりだ。

 二人は素直に了承してくれて、自分が作ったものとあわせて3つを小さな箱にいれて引き出しにしまった。

 私は二人が退出した後も子供の分の紐をせっせと編む。

 橘風香の時は仕事が忙しくなって出来なくなっていたけれど、こういう細かい作業は好きだったのでまったく苦痛に感じられない。


 うん。たまにはこういう時間もいいな。


 しばらく紐作りに没頭していると心声が頭に響く。


『今からそっちに向かってもいいか?』


 オリセントだ。仕事が終わったのかな?

 とりあえず、道具を隠しながら了承する。せっかくだし、彼にもサプライズであげたいからだ。返事するとしばらくして彼が姿を現した。


「おかえりなさい。今日は大丈夫だった?」


 私は彼の姿を注意深く観察しながらそう聞いた。彼の仕事は大部分が人間界の戦場に行くことだし、昨日の一件もあるので怪我してないか気になるのだ。


 力が使えるなら一緒に行きたい。行けば癒すことができるのに・・・。


 つい無理だと分かっていながらそう思ってしまう。


「ああ。今日はレイヤが手助けしてくれたから特に問題ないぞ」


 そう言われて安心して胸をなでおろした。


「よかった!早く産んで手助けしたいな。力使わないほうがいいと言われると、すごくもどかしいって感じてしまうわ」


 私がそう言うとオリセントはそっと包み込むように手を私の腰にまわす。彼の表情を見ようと顔をあげると本当にうれしそうにこちらを見ていた。


「やはり力使わないほうがいいのか。今日ダリヤのところで話聞けてよかったな。だが、無理はしないでくれ。いままで長い間お前と守護神を待っていたことを考えると、1週間など一瞬でしかない」


 たしかに100年以上も癒しと守護の神を待望していた彼にはそう感じるのだろう。でも、だからこそ今後はそんな目にあわせたくないのだ。戦神という名を持つには優しすぎる彼が身を犠牲にしながら、なんとか人間界の争いを食い止めようとしていたのを私はつい先ほど知ったから。

 そんな私の気持ちを軽くするために、彼はそっと触れるだけの優しい口づけをしてきた。


「それに不謹慎だがフウカをこうして独り占めにできるのは、俺として役得だと思っているから悪いけど付き合ってくれ。たとえフウカの気持ちがそれほど俺に向いてなくてもな」


 オリセントの思いがけない言葉に一瞬、頭が真っ白になる。


 え?私の気持ちが向いていない?

 なんでそんなふうに思っているの?


 私はショックを受けて思わず、彼の腕の中から抜け出る。


「フウカ?どうしたのだ?」


 いきなり態度を変えた私を心配そうに彼が見下ろしてくる。


 もしかして、オリセントは同情とか使命のためだけで抱かれたと思っているのだろうか?

 ひどい!


 と彼を責める言葉が頭に浮かぶが、同時に私が彼に対して何一つ言葉にしていないことを今更ながら思いだした。

 彼が悪いわけじゃない。私が何も口に出してないからだ。誤解しても仕方ない。

 私は意を決して気持ちを伝えることにした。


「あのね・・・。私、きちんとオリセントのこと好きだから。今まで言えてなくてごめんなさい」


 自分から告白するのは初めてなので恥ずかしいが、言葉に出すことが大切だと思って勇気をふりしぼってそう言う。その言葉にオリセントはまったく予想してなかったようで、見たこともないほど目を見開いてこちらを凝視しながら固まっていた。


「えっと、オリセント?」


 なんの反応も返してくれない戦神の態度に不安になりながらも彼の腕をつかむ。それと同時ぐらいに、オリセントは一気に私の身体を自分に引き寄せる。さらにさきほどと比べ物にならないほど強く抱きしめて、むさぼるような深く長い口づけを私に施してきた。 


「ありがとう。まさかフウカからそういう言葉をもらえると思わなかった。分かっていると思うが、俺もフウカのことをきちんと思っているぞ」


 そう言うと再び、唇とふさがれた。

 その後二人は抱き合ったまま甘い恋人としての時間をしばらくの間、過ごしていった。 

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