59.一つの想いの終焉(下)
エダ視点です。
それなりに好意を持っていた彼女が妊娠したと分かってエダは愕然とした。
周りの精霊たちが騒がしく耳元でそれを告げてくる。
『癒しの女神さまが戦神さまと御子を作られたそうです。なんでも御子様は守護の神さまであられるとか・・・』
今まで誰に対しても恋愛感情を持っていなかったはずの彼女。というより女神であるということを自覚することで精いっぱいで、恋愛まで気持ちが着いていっていない感じだった。
だから自分は好意を押し付けるのを遠慮していた。
それなのにしばらく目を離した隙に急展開でオリセントとフウカが結ばれていた。
確かめたくてレイヤとゼノンの様子を見に行く。
まずレイヤに会いに行く。しかし光神は心ここにあらずと言う感じで考え事をしていたかと思うと、それに気付いてあわてて書類を持ち上げて仕事に没頭としたりと挙動不審だ。これではなかなか聞き出せないだろう。
だからとなりの部屋の闇神に質問することにした。
部屋に入るとゼノンはレイヤと対照的に無表情で机に向かって仕事をしていた。自分が来ることを了承してくれたのでそのまま入ってきたのだが、こちらを向こうとせずに書類と格闘している。
声をかけてフウカのことを聞くと、持っていた書類を置いてこちらを見る。口元は笑っているが目が笑っていない。
そこでひとつ衝撃の事実を告げられる。
彼女が記憶を無くした際に『守護神を産むために癒しの女神と戦神が結ばれる定めがある』と。
そんな事件が起こっていたことにも驚かされる。しかしそれなら納得できる。変に生真面目で一直線な彼女が、オリセントだけを見ようとするのは当然だ。堅物として知られる戦神のほうはもうすでに彼女に心を奪われている様子だったし、それを告げられると彼女の心が大きく動くのも安易に想像できる。
その相手が自分だったらよかったのにと、どうすることもできないことを望んでしまう自分の愚かさに失笑してしまう。
笑った理由を聞かれて正直にそう言うと、同じように苦笑いをしながらゼノンは同調してくれた。
「なにもエダだけではないですよ。私もそう思ってしまいましたから。でも、逆にこうして早めにその定めを終えてくれたことはよかったと開き直ることにしました」
ゼノンは話を続ける。
「生まれてしまえばオリセントだけという縛りがなくなりますから。彼女の心に割り込むのは大変でしょうが、永遠と続く神としての生です。気長に口説こうと思っていますよ?」
そう言われてゼノンがフウカをまったく諦める気がないことをエダは思い知る。となると、おそらくさっきの様子からいって、レイヤも悩んではいるがそうなる可能性が高いだろう。
ここまで知ってエダはとりあえずフウカに会いに行って自分がどうするか決めようと決意した。諦めれるものなら諦めたほうが、自分にとっても彼女にとってもいいだろうと思いながら。
フウカが一人で部屋にいると知って、決意を固めて会いに行く。
彼女の気と表情を見た瞬間、何か重たいモノが頭の上に振ってきたような錯覚に陥った。
クリーム色のうつくしいフウカの気に、金平糖のような透明の黄色の気が混ざっている。今まで見ていた彼女の気も素晴らしいモノではあったけれど、これほどうつくしい色彩をした気を見たことがない。
そして彼女の表情。今までももちろん美しいと感じていたけど、今日見る彼女はまるで一皮むけたかのように艶が出ており色気のようなものを感じる。少女が女性になった瞬間のようなものだ。その表情はとても幸せそうで、いやでもオリセントとの心の繋がりを感じさせられる。
だから思わず口から本音が出る。
「フウカ。やっぱりオリセントと結ばれちゃったんだね。おまけに子供まで出来ちゃっているし・・・」
それに対して彼女が謝ってくるが、こちらが愚痴をこぼしているだけなのにと思うとついつっかかってしまった。
「なんで謝るのさ。使命もあったって聞いているし、フウカが決めたことなら僕に何も言う権利もないよ。僕はただ、自分勝手に相手が自分でないことにくやしがっているだけだから」
言ってから後悔する。あーもう自分が嫌になる。
思った通り、彼女は自分が彼女に気持ちを持っていたことを分かってすらいなかった。押しきれなかった自分も悪いのだけど、ここまでくると彼女にとって自分はそこまで対象外だったのだろう。
やはり諦める方向でがんばろう。自分のためにも彼女のためにも。
謝ってからなんとかその宣言も兼ねて、女神を産んでと要望する。
これが、諦めるという意思表現だと彼女もわかってくれるだろう。
それに対して言いたいこともあるだろうに我慢しながら感謝だけを口にする彼女に、手を振りながらその場を退出した。
何も言葉を発することなく消えたのは、それを撤回しそうになる自分を抑制するためだ。
今は正直かなりきつい。
だが、自分自身これ以上彼女に魅かれて苦しい思いもしたくないし、ただでさえオリセントだけでなく、ゼノンとレイヤに気持ちをぶつけられて葛藤している彼女の負担にもなりたくなかった。
僕は彼女に言ったように彼女が産んでくれる娘の女神と、恋愛できたらそれでいいや。次は競争率高くてもひかずに最初からがんがん圧そう。今回みたいな過ちはもうごめんだからね。
沈みきった心を少しでも浮上させるために、エダは自分の中でそう宣言していた。
諦めない者、諦める者それぞれという感じで書きたくてエダは諦める選択にしました。だってみんな諦めないのもどうかなって思うしね。少ない文章ですみません。