56.姉さんは興味津々
「あら~。そんなことがあったのね」
お茶の準備が整った途端に、ダリヤがどういう流れでオリセントと結ばれたのかものすごい迫力で聞いてくる。問われるがまま、今までの流れをざっと伝えると大地の女神はあからさまに驚いていた。
「でも、使命だからオリセントと無理して結ばれたってわけではないわよね?」
ダリヤはお互いの気持ちが結ばれないと神が妊娠することはあり得ないと分かっていながらも、思わず確認してしまう。
目の前の姉さんの信じられない気持はよくわかる。私自身、この早い展開にはとまどっているのだ。でも、彼に対しての気持ちだけははっきり断言できるので大きくうなづいた。
「うん。確かにきっかけは使命だって分かったからだけど、オリセントが好きだと自覚できたから・・・」
さすがにこうして告白するのは、恥ずかしくて私は言いながら顔を下に向けてしまう。
「フフ。よかったわ。さっきの二人の姿を見たら心配することないかなって思ったけど、事情聞いたら思わず確かめたくなっちゃって」
「いえ。心配してくれてありがとう。ダリヤ姉さん」
本当にお姉さんがいたらこんな感じかなって思う。自分が姉としての立場でしかなかったから、甘えれる存在であることが恥ずかしいようなうれしいような感じで、少しくすぐったい。
「さて、思わず私の質問を思わず先にしてしまったけど、フウカが聞きたいことは妊娠のことについてかしら?」
ここでようやく私が彼女を訪ねた本当の目的を話すことができた。
「はい。私は人間の出産は知っているんだけど、神が妊娠したらどうなるのか、気をつけることがあるのか、まったくわからないので教えてください」
「お安い御用よ。どんどん質問してね」
こうして、先日産んだばかりのダリヤに神の妊娠についての講義をしてもらうことになった。
講義内容をまとめるとこうなる。
神の妊娠期間は約1週間。
別に体型はかわらないが、気に違う色が混ざっていってマーブル状に膨張していく。
その後に気が分離してその離れた気から新しい神が生まれる。別に身体に痛みはないが軽く倦怠感はでる。
妊娠中に気をつけることは、あまり神気を使わないようにしたほうがいいらしい。それ以外は特になし。走ろうが飛び跳ねようが、何を食べようが関係ないらしい。お酒すら別に構わない。
こんなところだ。
聞いてみてよかった。神気は使わないほうがいいのは知らなかった。だからオリセントが仕事もあるのにここまでわざわざ送ってくれたんだと気づく。
「人間みたいに何カ月もお腹に子供を入れてて、痛みを伴いながら産むのって想像しただけで凄いなって思うわ~」
たしかに友達も妊娠中もつわりやら腰痛で大変そうだったし、産むときは約2日ぐらい苦しんでいたと言う話を聞くと、神の出産の楽さにはちょっと拍子抜けしてしまう。
「でも、よく友達は産む前や産んだ時より産んだ後の世話のほうが大変だと言ってましたよ」
神はウリュウのようにほぼ成人した姿と知能で生まれてくるし、そう言う意味では育てる必要もないわけだ。
つくづく楽だと思うが、それだけ神としての役目が大切だからってことだろうと考え直す。
「そうね。人間のように幼児期はないからね。でも、その子を強くするのは親の役目ってことで今日もジューンがウリュウをひっぱって猛特訓しているわ」
ダリヤが母親らしい微笑みを浮かべながらそう言うのを聞いて、前に特訓していた洞窟を思い出す。
今日もやられているんだ。ジューンも大変かもしれないけど、ウリュウも服ぼろぼろになりながらがんばっていたので大変そうだったな。
「そういえば、特訓たいへんそうでしたね」
私がそう言うと、ダリヤは笑い方を母親のものからいたずらを思いついた時のような笑みに変えて、楽しそうにこう言う。
「まあウリュウも失恋して落ち込んでいたから、いい気晴らしにはなっているでしょうね」
あら?いつの間に恋してたんだろう?生まれてそんなに立ってないのに早いなぁ。
「え?誰にですか?」
思わずそう聞いてしまうと、ダリヤは噴きだすように笑い始める。爆笑って感じだ。
聞かなかったほうがよかったかな?
しばらく笑いが続くが、じっと見つめてる私の視線に気がついて、口に手を当てながらダリヤは理由を教えてくれた。
「ごめん、ごめん。でも、本当に対象外だったのね。スタートダッシュが遅かったし、弟って言われたとか言ってたから難しいだろうなって思ってたけど、まさかここまで気がついてもらえてなかったとはね。我が息子ながら情けない」
一瞬なんのことか分からなかったけど、よくその内容をかみ砕いてみると今更ながら理解することができた。
つまりは相手はわたしってこと?
弟とも言ったし、オリセントとこうなったわけだから失恋というのも当てはまる。
確かに恋愛対象としては見てなかった。
そのウリュウの母親に指摘されてどう言えばいいか、必死に言葉を探すが何も浮かんでこない。
「いいのよ~。気にしないで。まあ何人も恋人作るって言うなら考えてあげて頂戴ぐらいは、言わせてもらうけどね」
ただでさえ、レイヤとゼノンのことを考えるとどうしたらいいか分からずにいるのに、これ以上は正直無理だ。できれば二人に対する気持ちを落ち着かせて、オリセントだけを見ていきたいとまで思っているのだから。
そう考えているのも読まれたようですこし苦笑しながら、
「まぁ。ここまで対象外ならそれも無理そうね」
「ご、ごめんなさい」
あまりにも残念そうに言われて、私は思わず謝ってしまう。
「いいのよ~。だって私も・・・・」
ダリヤはそう言いかけていきなり話を中断する。何があったのかな?そう思って私は彼女の顔を伺うと、視線を天井に上げながら少し難しい表情をしていた。
「・・・・ちょっとまって。聞いてみるわ」
小さくそうつぶやいたかと思うと、ダリヤは私に視線を移しながらこう訊ねてきた。
「ビュアスがここに来てフウカとお話がしたいって言っているんだけど、どうする~?」
え?ビュアスさんが?
それほど交流のない愛の女神からの要望にびっくりするが、断る理由もないし逆に女性と親しくなるのは私も望むところなので了解の意味で頷く。
「フフ。なんでも詫びたいことがあるそうよ。まあそれよりもあなたの話を聞きたいんでしょうね」
愛の女神だから。
もしかしてまたオリセントとのこととか妊娠のこととか聞かれるの?
思わず逃げたい気持ちになってしまったが、その前のダリヤの言葉に疑問がわく。
あれ?詫びってなに?
私がそう思って頭をひねっているうちに空間にゆがみが生じて、そこから妖艶な美女が現れた。