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女神の憂鬱  作者: 灯星
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52.守護神不在の代償

 前回の戦いのフウカ視点です。

 あの時姿を現さないだけでその場にかけつけていました。

 あ、あれ?


 私はいままで感じたことのない胸騒ぎを覚えてベッドから上体を起こした。


 なんだろう?どこかで私を呼んでいる。だれ?


 今すぐ行かないと。

 そう思うと同時にあたりが一転する。

 ほとんど無意識に跳んでしまったようだ。

 頬に強い風を感じる。その風はひどく血の匂いを含んでいた。


「人間界?」


 この周りの気は神の国ではなく人間界であることを知らせていた。

 まだ地上からだいぶ上のほうを飛んでいたので、ゆっくりと下降していく。

 段々、見えていく地上。

 その中で一際目立つ大きな光を感じていた。

 あ、あの気は・・・。


「オリセント?」


 馴染みある気を感じて思わず安堵するが、戦神である彼がそこにいるということは戦場であることを思い出して、気を引き締めた。

 近づいていくと、山と山とで囲まれた下り坂の細道に100人ほどの人間が、馬に騎乗しながら進んでいるのが見えた。そのすぐ先で山のほうで50人ほどが大きな岩を積み上げて待ち構えている。さらにその先は木や岩を積み上げられて通れなくなっている。

 空中から見るとどのような状況なのか一目瞭然だ。おそらくそこの道を通ろうとしている軍に落石を落とすつもりだろう。細道をわたる軍隊は警戒もすることなくそれなりのスピードで進んでいる。


「あ、だめ!」


 止めようと下降していくが間に合わずに無情にも大きな岩は上から大量に落とされた。100人の軍隊は慌てながらも先頭で指示している者に従い、最小の被害でその場を切り抜けようとしていた。しかし、先の作られた行き止まりによりとうとう袋小路になってしまう。

 このままでは落石にやられるしかない状態になっていた。

 私は癒ししかできないから、みんなが怪我する前にふせぐことができない!

 それでも何かいい方法がないか頭の中で模索するが思い浮かばない。

 そのとき、心によく知っている声が頭に響いてきた。


『俺がなんとかする』


 それは戦神であるオリセントの声だった。落石が転がり落ちてくるすぐ側にオリセントは降り立つ。

 光の中から現れた彼の姿は、人間たちにも見えているようだ。その証拠にいままで慌てふためいていたのがうそのようにその場に立ち竦んで彼の方向を見ている。


「このような処でおまえを失うつもりはない」


 そう言いながらただ、その場で立っている。迫り来る落石はオリセントの身体に体当たりするとすぐに木っ端微塵に粉砕され、その岩だったものが積み重ねられて壁になった。

 いくら他に手段がないからといって自分の身体を犠牲にして受け止めるなんて・・・。

 私はただ静観することに耐えられず、オリセントに近づいた。だが、オリセントはこちらを向かずに人間たちを見つめていた。

 人間の1人が先だって馬上から飛び降りて膝を折り頭を下げる。それに習って周りの者も我先にと同じようにオリセントのほうに頭を下げていた。


「ターチェン。己の志をつらぬくがよい。そうすることで平穏をもたらす王となるだろう」


 オリセントは一番に跪いた青年に温かい眼を向けてそう言った。私はその青年に眼を向ける。

 30歳ほどの青年だが体つきも軍人らしく均整がとれており、顔つきもそれなりに端麗な容姿をしている。さらに一目で人をひきつけるような意志の強い瞳の輝きをしていた。

 オリセントがそう宣言すると歓声が沸き起こる。






「オリセント。私、彼らに癒しを送るわ」


 戦神であるオリセントがターチェンと呼ばれる青年に気をかけてるのがよく分かった。せっかく来たのだし、あと私ができることは癒しを与えることだけなのでそう提案する。もちろん、オリセントにだけ聞こえる声でだ。

 そうすると、戦神は少しだけ私のほうを振り向いて笑みを浮かべてから、もう一度ターチェンに視線を戻してこう言った。


『フウカが祝福をしてくれるそうだ。ありがたく受け取るがよい』


 そう言ってくれたので遠慮なくその場にいる者全てに癒しの気を送る。この前とちがって100人程度なのでそれほど疲れは感じない。

 気を送り終わるころにはオリセントが私の側に飛んできていた。

 人間に姿をもう見せてないようでだれもこちらを振り向いたりしていない。


「来てくれたんだな、フウカ。たすかったよ」


 オリセントはそう言って私に腕をのばそうとする。私は無言でその腕を引っ張りあげて腕をめくる。

 案の定、落石を受けた左腕はひどい内出血ができている。

 身体の3倍以上の迫りくる岩を身ひとつで受け止めて、粉砕したわけだからまったく大した事ないのかもしれないけど、こんな無茶な止め方なんてみたくない。 

 この体にこんな傷を残したくない一心でそっと撫でるように触って気を送ることにした。みるみるうちに腕から赤みがひいていく。


「ターチェンたちの傷を治してくれてありがとう」


 オリセントは自分の傷が癒えたことよりも、さきほどの人間たちの傷を癒したことに感謝を述べる。


「ターチェンってさきほどの?」

「そうだ。俺はあいつがこの人間界に平穏をもたらす王になると思っているんだ」


 たしかにあのカリスマ性と一見でわかる善良な魂は、すばらしいものだと分かる。

 その上、戦神であるこの青年が身を挺してまで守っているのだ。


「でも、いくら身体が丈夫だからって身で受けるなんて・・・」


 思わず私は本音をつぶやいてしまう。神の体は頑丈であるとは聞いたけれど、それでも傷が付かないわけではない。

 オリセントを見上げると、すこし苦笑したような表情をしながら私の頭をなでた。


「守護の神がいない以上、これしか方法がないからな」


 この言葉にオリセントが今までずっとこの方法で人を守ったりしていたことに気が付いた。

 早く守護神を産みたいと本心からつよくそう思う。同時にこの目の前の心優しい男性を身体だけでなく、心まで癒してあげたいという気持ちがわいてきた。

 そっと自分から彼の大きな手を握る。いきなりの私の行動にすこし眼を見開くが、すぐに彼のほうからも手を握り返してくれた。そこから伝わる彼のぬくもりが私の心まで温めてくれているように感じる。


「フウカ。戻ろう」


 オリセントは手を繋いだまま、もう片手を私の腰に回して抱きかかえて瞬間移動をした。あたりの景色が一転して、オリセントの部屋に連れられていた。

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