48.そっけない態度
私が起きてからん~と伸びをしたとたんに、部屋の扉のほうからノックの音がしてきた。
すごく早いなと思いながら返事をすると、いつもとは違って乱暴と言ってもいいほど手荒く扉が開けられる。
そして飛び出してきたのが栗色の美少女である。いつも世話してくれる光の精霊のノアだ。
「フウカ様!具合のほうは大丈夫ですか?」
大きい黒眼を潤ませながらこっちを覗き込みながら聞いてくる。どうやら事情を聞いているみたいだ。
昨日みたいに起き上がった瞬間にふらつくことはなかったので、だいぶ体調が戻った。
「う、うん。身体はだいぶ良くなったよ?」
だが、その返事にノアは納得がいかないようで、もっとこちらを窺うようなしぐさで聞いてくる。
「記憶!記憶のほうはいかがですか?」
私はありのままに以前のように人間の記憶があると言う返事をすると、ノアはあからさまに手を胸に当てながら、
「よかった~」
と、安堵のため息をつく。
「レイヤ様もゼノン様もそうおっしゃっていたでしょ?でも本当によかったですわ、フウカ様」
ノアの後ろからセレーナの声が聞えてくる。その方向をみると濃い蒼色の髪と眼の美女が、いつもどおりゆっくりと扉から入ってきていた。
「ありがとう。また女神としては不安定な状態だけど二人とも支えてね」
心から嬉しそうによかったと言ってくれているのが分かって、戻ってきてよかったんだと胸に暖かいものを感じる。
それから身支度を整える。やはりみんなに心配かけているだろうし、今の状態を報せる必要があると思う。
しかし強く勧められて軽く朝ごはんを食べることになる。今まで欠かさず食べてきたからだろう。
食べ終わるとセレーナから、レイヤとゼノンが朝食を終わったら行くと伝言を頼まれていたと告げる。
やはりそうだったんだ。
オリセントは別にいいと言ってくれていたけど、やはり少なくとも守護神を創るまではオリセントだけを見るようにしたい。
乱れた気持ちを整えるために大きく一度深呼吸をしてから、二人が来ることを了承する。
セレーナとノアは後片付けを終えて部屋から退出する。
部屋で待ってたらいいってことよね?
そう思って部屋にある長いすに腰掛けて待つことにした。
「そういえば二人共に、あの恥ずかしいシーン見られちゃったのよね?」
記憶がない状態の私がオリセントにせまっていたシーンを思い出して、思わず顔を両手で覆う。
だから空間のゆがみが部屋に発生したけれど、それに気が付いたのは金色の髪の青年が扉の前に姿を現したときだった。
「おはよう、フウカ。体調はよくなったか?」
光神であるレイヤが、軽く手を上げながら近寄ってくる。
「うん。心配かけてごめんなさい。昨日の夜よりだいぶよくなったよ」
私がそう言いながら立ち上がろうとするのをレイヤは手で制す。
「座っていろ。で、記憶のほうはどうだ?」
ノアと同じく聞いてくる。
「うん。今までと同じよ」
その返事にほんの少しだけ口元に笑みを浮かべる。だが、その微笑み方はすこし寂しげでいままで見たことないような表情だった。
「そうか。それはよかったよ。まぁその気を見るとそうだろうとは思っていたんだけどな」
気が違っていたのかな?そう思って聞くと意外な回答を貰った。
「お前の記憶がない状態のときは気はたしかに安定していたけど、色が黄色いし7割ぐらいしか気の大きさがなかったんだよ。だから3割分は記憶を持ったフウカ自身に在るということだな」
そうなんだ。それは意外な事実だなと思う。
「やはりそのままのお前がこの世界では癒しの女神として、求められているということだな」
レイヤはわかったか?と言いながら手を私のほうに伸ばしてくる。しかしその手は私に触れることなく、ごまかすように自分自身の頭を乱暴に掻く。
「じ、じゃあ。フウカの元気な姿を見れたし、俺仕事あるから行くぞ。またな」
そうしてレイヤは慌しく手を振りながら私の部屋を退出していった。
いままでにないそっけない彼のその態度に、ひどく動揺を覚えてしまった。