45.新たな決意
ようやくフウカ視線に戻せました。
よし!帰るぞ!
そう思って瞬間移動した途端、私は思わず両手で顔を覆ってしまった。
な、なに!あれ。
自分の部屋を目指したはずだけど、そこは違う部屋だった。そこでレイヤとゼノンが見ている前で、自分の身体がオリセントに無表情で近づこうとしていた。
『わたくしと戦神で守護神を創るのが使命の一つだと言うことですわ』
情緒もない声でそう言いながらも、戦神に抱きついてキスをしようとしている。媚びるような表情を浮かべながらも眼はまったく笑っていない。もし私の記憶が完全に封印されたらこんな感じになっちゃうなんて嫌だ。
思わず気が付いたら叫んでいた。
「やめてー!」
いくらなんでも私の知らない間にそういう関係になっちゃうなんて辛すぎる。それも義務感のみで。
せっかく戻ってくる決意をしたのに。
だいぶ様がわりしたとは言っても元は自分の顔なのだ。
「元は私の身体なんだから、そんな真似はさせないんだから!」
そう言いながらオリセントに抱きついた私の身体にぶつかってみる。
あ、これでよかったんだ。
すぐに自分の身体と幽霊のような自分が融合していくのを感じた。こんなに簡単なことだったんだ。自分さえ決意すれば身体は私を受け入れてくれるんだと気づき安堵する。
そのときに頭の中に一つの声が響く。
『癒しの女神として戦神と結ばれて守護神を創りなさい。それが使命です』
融合していく中で、今まで身体を動かしていた者は抵抗する訳でもなくただそれだけを告げて自分の気の中に混ざっていった。
完全に融合するとずんと身体の重みを感じ、それに耐え切れずに意識を失った。
いきなり視界が真っ赤に染まった。
ここは戦場???
この前初めて見た戦い同様人と人が激しくぶつかり合い、そこら中に血が飛び散り次々と人が死んでいっていた。いや、この前は兵士対兵士であり場所も草原であった。しかし、そこは街中で色々な家に火の手が上がっている。その下では兵士だけでなく老人や女性、子供の死体が見える限りでも数え切れない。
なに?これ・・・。
状態を把握するために地上から天空にゆっくりと昇る。
さきほど見た光景はほんの一部分であったと思い知る。
その城下町中に火の手があがり、無数の死体が転がっていた。
とりあえず見える範囲でも癒しを与えようと手をかざすが、何も起こらない。
「こんなときに・・・」
そう私が悔しそうにつぶやいたと共に同じように苦悩一杯の声が聞こえてくる。
「俺は人を戦わすしかできないのか!なぜ戦神など必要なのだ!」
よく知っている声に振り返る。思ったとおりで黒髪の大柄な青年が赤と青のオッドアイの瞳に涙をにじませながら、私と同じ景色を見下ろしている。
「オリセント・・・」
すぐそばでそう呼びかけたのだが、何も返答がない。それで彼のすぐそばに近寄ったのだが、こちらの姿がまったく見えていないようだ。
「せめて癒しと守護が生まれてそばにいてくれたらこんな惨状にならないのに・・・」
え?癒しの女神として私が生まれてきてるのにこの言葉はおかしい。
どういうことだろう?
そう思っていると1人の若い少年が近寄ってくる。レイヤと同種の気なので、彼が光の精霊であることはすぐにわかった。
「オリセント様。レイヤ様から癒しの女神が誕生したと連絡がありました」
その言葉にオリセントは額に手を当てながら答える。よく見ればその手がかすかに震えている。
「分かった。しばらくは戻ることはできないが戻ったらすぐに会いに行くとレイヤに伝えてくれ」
返事を聞いて光の精霊は軽く頭を下げたかと思うとすぐに姿を消した。
「俺の願いが通じたか!ありがたい。癒しがあれば戦に巻き込まれた者を1人でも救う事ができる!」
手で顔を覆いながら大柄な身体を震わせながら喜んでいる。それだけに彼がどれほど癒しの神を望んでいたかわかる。
自分の存在をここまで望んでくれていたのだと分かって嬉しさのあまり、震える身体を思わずそっと抱きしめようとした。
しかし、見事に伸ばした手が彼の身体を通り抜ける。
あ、やっぱりこうなるのね。
ここでさすがに今の状況を把握した。
もしかしてここは私がこっちの世界に来た当初のこと?過去ってこと?
それならいろんなことが納得できる。
癒しが使えなかったこと。
オリセントに声かけても気づいてもらえないこと。
触れることもできないこと。
分からないことはなぜここにいるのかだ。
そのときに頭の中で先ほど聞いたフレーズが響く。
『癒しの女神として戦神と結ばれて守護神を創りなさい。それが使命です』
あ・・・。
それでさきほどまでの出来事を思い出す。もしかしてその為にこの過去を私に見せたのだろうか。
癒しの女神として戦神と結ばれて守護神をつくる。
それってもしかしてオリセントたちが望んでいた守護神を創るには、オリセントと結ばれる必要があるってこと?
信じられないと言う気持ちが強いが、どこかでそれが偽りでないことを感じていた。オリセントの事はそれなりに好意を持っているが、そういう眼でみたことはない。
おそらく彼もそうだろう。義務感でお互いに子作りのために結ばれるなんて私にはできないし、彼に強制なんてしたくない。
それでもさきほどあれだけ私の誕生を喜んでくれていた姿に、もし彼がそれを望んでくれるなら前向きに考えたほうがいいのかなとも思う。
これからはやっぱりできるだけオリセントを見ていくようにするべきね。ほんのちょっと戦場を知った私でも守護が必要であると思ったぐらいなんだから、私が産めるなら少しでも早めにその気にならないと。と言っても彼のほうもその気にならないとだめだろうけど。
それはがんばるしかない。
しかしその一方で頭の片隅でレイヤが告白してくれた時の彼の表情や、壊れそうなときに助けてくれたゼノンの優しさがリプレイのように流れている。
申し訳ないけど、これ以上レイヤたちに惹かれないように気をつけないと。
いろいろ考えている間にいつのまにか何も無い空間に移動していた。おそらくここは夢の中なのだろう。
さきほどの戦いの惨状を思い出して、許しを請うように頭を垂れる。
ごめんなさい。今はなにもしてあげることができないけど、眼が覚めたらすこしでも癒しの力を与えれるようにがんばるわ。そして守護の神を産める様に努力もするわ。
新たな決意を胸に抱き、夢の中と分かっていながら眼を閉じた。