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女神の憂鬱  作者: 灯星
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44.感情と使命

前半はオリセント視線、後半はレイヤ視線です。ころころ代わって見にくいかもしれません。

「何があったのだ?」


 オリセントは彼女を抱きしめたまま、レイヤとゼノンに聞く。

 何があったのかさっぱり分からない。


「ナーガのアホがフウカの記憶を封じたんだ」


 レイヤが舌打ちをしながらそう言う。

 欲の神か。自分とは考え方が正反対でお互い、そりが合わずにほとんど接したこともない。もうすこし詳しく事情を聞いた。仕掛けた奴の愚かさにあきれてため息が出る。


「それでこうなったのか?」


 おそらく帰ってきたときのあのゼノンの気はそのせいだろう。


「ああ。でも、どうやら記憶が戻ってきたようですね」


 ゼノンが彼女の周りの気を視ながらそう言う。今までの小さく凝縮された黄色い気がすこし不安定だが、大きく綺麗なクリーム色のものに戻っている。おそらく先ほど記憶を含んだ気が戻ってきて身体に入ったのだろう。

 響いた口調も情緒豊かで昨日まで聞いてたモノだった。

 そのことに安堵する。先ほどの彼女の変貌を見てしまっただけに例え彼女が望んでも、記憶を封じることに自分は全力で阻止するだろう。あんな無表情の彼女を見たくない。

 すやすやと眠っている彼女をいつまでも抱いておくわけにもいかず、とりあえず自分の寝台に寝かす。


「オリセント。さきほど彼女が言ってたことは・・・」


 彼女を寝かして掛布をかけてから、後ろでこちらの行動をみていたレイヤが一番気がかりであろうことを聞いてくる。それに対して正直に答える。


「ああ。守護の神は俺と彼女の子供だそうだ」


 わずかに眉をひそめる彼らたちを見ながら、申し訳ないと思いながらも、どこかで優越感を感じてしまう。

 自分と彼女と結ばれることが必然であると言われたからだ。

 自重しようと思っていたにもかかわらず、惹かれてしまった少女がたとえ義務的とは言え、自分を欲してくれている。そのことは純粋にうれしい。しかし、やはり先ほどのフウカに対して情を感じることはできない。たとえ同じ容姿で合っても自分は今まで接してきた彼女を欲しているのだから。

 レイヤもゼノンも守護神がどれほど人間界に必要かも、最古神として永らく支え続けていた彼らには言うまでもなく知っているはずだ。

 彼女が戯言で言ってるわけでないと言うことも分かっている。時々、神としての直感と言うもので様々な事柄が視えることが自分たちでもあるからだ。

 そうなると、静観するしか二人にはできないだろう。

 いくらそれが自分の意に反していても。

 二人が同じ女性を見ていることはよく分かっていた。自分が彼らと同じ立場だとどうしようもないジレンマを覚えてしまうだろう。


「そうですか。わかりました。ともかくもう一度フウカが目を覚ましてから今後のことを話ししましょう」


 そう言うとレイヤの腕を掴みながらゼノンが転移する。二人の姿が見えなくなりその場は再び自分と彼女だけになった。


「戻ってきてくれて感謝する。いくら同じでも先ほどの彼女に気持ちを持つことはできそうになかったからな」


 自分の寝台で寝ている彼女を覗き込み、顔にかかった白金の髪を指で整える。

 まさか記憶を封じたときのフウカがあのような状態になるとは思いもしなかった。まったく感情を見せない少女。たいてい笑っていて、照れた顔、怒った顔、喜んだ顔、悲痛な顔、そして癒しを与えたときの慈しみの表情。

 次々と表情を変える彼女を見てきただけにどうしても違和感を覚えてしまう。さらにそんな彼女だから惹かれたのだと思い知る。


「もうすでに他のだれかに心を奪われているかもしれんが、まずは俺と結ばれるのが定めらしいから諦めてくれ」


 くっと口元に笑みを浮かべながら、今度は自ら寝ている彼女に口付けを施す。

 お互いの舌を絡ませて奪い取るような深い口付けをしたいと思うが、さすがに寝ている彼女にそこまでするのは酷だろうし、そうすることで自分の欲望に火がついて暴走してしまわない自信がない。 


「神の出産に心と心が結ばれないといくら肉体的に結ばれてもできるものではないと、よく俺が言えたもんだ」


 さきほど彼女に自分が言った言葉を思い出して自嘲気味に笑う。

 オリセントは彼女から離れて、さすがに同じベットに寝るわけにもいかずに長いすにクッションと掛布を持ち込んで横になる。





 

 一方。衝撃の宣言を聞いた最古神二人は、ゼノンの部屋でなんとも言えないほどの苛立ちを抱え込んでいた。部屋の持ち主である闇神は執務用の大きな机に肘をつき難しい表情をしながら座っている。

 それに対して光神は落ち着かないとばかりに、机の前を険しい顔をしながらうろついている。

 まず怒りを爆発したのはレイヤ。


「くそ!」


 足元にあった机を足蹴にする。それに対してゼノンは普段ならすぐに注意するのだが、ただ無言で一瞬睨みつけるに止まった。


「なんでオリセントなんだ!」


 激怒を全面に出しているレイヤに対して冷静にゼノンが答える。


「戦神と癒しの女神で守護神を産むのは充分ありえますからね」


 癒しと守護。今この神の国で一番望まれている神である。癒しはもう誕生したが、守護が自分が好んでいる女神が他の神と結ばれなければいけないことに、強いジレンマを感じている。


「わかっているぜ、それぐらい!だが、俺はそんな冷静になれないんだよ」


 神としてはそれを歓迎しなければいけない。だが自分の彼女に対しての執着心がそれを邪魔する。なんで自分ではないのだ!と叫びたくなる。


「ただ彼女の唯一の相手になることを諦めただけです。彼女自身を諦める気はさらさらありません」


 ゼノンは努めて冷静にそう宣言する。ナーガに対してあれほどの怒りを見せる片割れが、自分より彼女に執着していないわけがない。だが、自分とて初めて欲しいと思えた少女を諦めるつもりはない。


「俺だって諦めねえよ」


 幸いここは多夫多婦なのだから。

 さきほど彼女がオリセントに甘えるように抱きつこうとしていたのは、あくまでも使命のための義務感である上に、彼女は自分が惹かれた表情豊かな少女ではない。


「ともかく、彼女は元に戻ったでしょう。今はそれだけでもよかったと思うしかないですね」


 ふぅとため息を吐きながらゼノンが苦笑する。彼も同じように思っているのだろう。


「ああ。戻ってきてくれてよかった。あんな人形みたいなフウカ見たくもねえよ。とりあえずビュアスには伝えておくか」


 あの容赦のない彼女が息子にどうしつけしているのか。それは正直興味もない。だがビュアスはああ見えても気にしているはずだ。お披露目の日にフウカと少し話してて、それなりにフウカを気に入ってた様子だ。


「じゃあ俺部屋に戻るわ。仕事たまっているしな」


 それだけ言うと返事も聞かずにさっさとゼノンの部屋を後にした。

 ようやく次回からフウカ視線に戻ります。

 他の視線は書きにくいので作者はほっとしています。


 誤字報告のお願いを前回するといろいろな指摘いただきました。

 ある人が『読者は校正の一役をになう』と言ってました。本当にその通りだとだと思います。本当に感謝です。

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