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女神の憂鬱  作者: 灯星
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42.冷めやらぬ怒り

 レイヤ視点で書いています。すこーしだけ残虐なシーンがあります。たいしたことないとはおもいますがご注意ください。

 執務室で書類と向き合ってたレイヤは、気の変動を大きく感じて思わず手を止める。


 なにがあった?


 その気は自分が今一番気にかけている癒しの女神のモノ。

 いきなり不安定だが膨大な気であったものが凝縮され小さくなり、異常なほど安定したものに変貌をとげる。

 そのすぐ後に震え上がるほど膨大な気が肌を刺す。それが自分の半身である闇のモノであることも感じ取る。

 こうしてはいられないと、彼女の気を探りそこに跳ぶ。

 そこでは黒髪の青年が大切そうにまだ幼い容姿の少女をベットに寝かそうとしていた。

 少女は気を失っているが、その彼女を見詰める青年の表情はひどく口元を歪ませている。半身のこのような表情はここしばらく見たこともない。


「ゼノン・・・。なにがあった?」


 できるだけ冷静に静かな声で問う。なにかがあったのは間違いない。だがそれに対して返ってきた返事はそっけないものだった。いつもの口調である敬語もまったくない。


「・・・・外で転がっている奴の仕業だ」


 言われて意識をそちらに向けると、欲の神であるナーガが苦しそうに地面に蹲っている。神である彼があれほど苦しんでいるのはどうみても目の前の闇の神の力だろう。それもかなりの力を加えている。


「だから、何があった?」


 ここまで彼が怒りを顕わにしているのだからおそらく今のフウカの気の変化がそうなのだろう。なんとなく検討がつくが当たってほしくなくてもう一度聞く。


「奴はフウカの記憶を封じただけだと言っている」


 しかし、ゼノンから出た言葉はいやな予感通りであった。

 やはり、人間としてのフウカの記憶を封じてしまったのか。

 眠っている彼女を覗き込む。気を失ったにしては寝息が安らかでただ寝ているだけにしか見えない。

 それにしてはなぜ3分の2ほどしか気がないのだ?たしかに綺麗編みこまれた気をしているが、いままで来ていた気よりだいぶ小さく色も黄色がかっている。


「本当にそれだけか?それにしては気の減りがあまりにもおかしいだろう」


 レイヤがそう言うと、ゼノンは彼女の額に手を伸ばす。ゼノンから安らぎの気が送られているようだ。


「それはわからない。でもここまで安定しているってことは封印されたままってことです。さっきナーガの術はある程度は分解しときました。だが、フウカ自身が本心からもどってくる気にならないと、完全には消滅できないですね」


 これ以上はだれも施しようがないのか。


「しばらく様子みるしかないか・・・」


 少なくとも意識が戻るまではこのまま寝かしておくしかない。


「で、あのアホはどうするんだ?」


 レイヤが窓の外を顎で指して聞くと、ゼノンは一層冷気漂うようなおそろしい顔つきになりながら舌打ちをした。生まれてからの付き合いだが、自分はともかく半身の闇の神の舌打ちなど初めて聞く。


「そのまま放置でいいだろう。フウカが眼をさますまで、あのままにしておいてあげますよ」


 かなり力をかけてナーガに罰を与えているにも関わらず、一切悩みもせずに答えるゼノンに呆れたようにため息をつく。

 と言ってもゼノンを咎めるどころか、話を聞いてレイヤ自身も怒りがどんどん湧き上がってきている。少なくとも本当にフウカが記憶を封印することを望んでいれば、自分かゼノンに頼むはずだ。ほとんど会った事のないナーガがそれを行うってことはおそらく不意打ちか強制的にだろう。

 なんとかこのままでがんばろうとしていた彼女の努力を一瞬で踏みにじったのだ。

 なにより眼を覚ましても女神としてのフウカであって、あの自分が惹かれた彼女に会うことはできないのかと思うと、いまさらながら喪失感でぞっと背中に寒気が走る。


「それでいいが、そんなに力をずっと放出してたらお前でも疲れるだろう。半分は俺が引き受けてやるよ」  


 というか、俺にもさせろと言い加えると、ゼノンは歪んだ口元をもっと吊り上げながら無言で頷いた。


「ここでどうにかするのは彼女に悪いからとっとと奴の部屋でじっくり話を聞くぞ」


 レイヤはそっと彼女の頬を名残惜しそうに撫でてから、その場から退出しあまり入ったこともない欲の神の居室に跳んだ。

 薄暗い部屋だが壁一面に女性の裸体の絵が掛けられている。芸術的には素晴らしいものであるはずだが、ここまで数多くの裸体が並んでいると気持ち悪くなる。


「あいかわらず悪趣味だな、ナーガ」


 そう言って振り返った視線の先には栗色の髪をした青年が苦しそうに蹲っている。


「れ、レイヤ。たすけてくれ・・・」


 搾り取るようにかすれ声をあげながら伸ばしてくる手を汚いもののように払いのける。その後ろで自分と同じ顔をした青年が殺気立った目つきで、下でもがいている青年を睨みつけている。


「こうなるってわからなかったのかよ?」


 情けない顔でこちらに助けを求めているナーガを見ていると、レイヤとしてもゼノン同様怒りがどんどんと込み上げて来る。

 ゼノンがこれほど怒りを見せる内容を俺が許すと思っているのかよ。

 舐められているとしか思えない。


「圧迫がいやなら死なない程度に俺が切り刻んでやろうか?」


 そう告げると共に気をナーガにぶつける。とたんに全身に無数の切り傷ができる。と言ってもかすり傷程度だが。こんなのはただの脅しにすぎない。


「うわぁ~!やめてくれ!」


 顔中の血が引き蒼白になりながら、欲の神ががたがたと身体を震わせている。


「いやなら、記憶を封じた以外になにをしたか言うんだな。彼女の気があまりにも減っているのはお前がなにかしたんだろう?」


 レイヤがそう言うと、ナーガは小刻みに頭を振りながら必死に否定してくる。


「な、なにもしてない!しようとしたときにゼノンが来たから、それ以上なにもできなかったんだ・・・」

「ほお~。検討は付くが何をしようとしてたんだ?」


 できなかったということはしようとしてたと白状しているも同然だ。どうせこんな悪趣味な部屋の主だから、しょうもないことだと思うが聞かずにはいられない。


「べ、別に大したことしてない!」


 蹲る青年の胸ぐらをつかんで無理やり上を向かせる。


「どうせ、フウカにいらん欲を植えつけようとしただけだろ?」


 言った瞬間にもっと青くなったその表情を見て確信する。


「う、うわぁ~」


 持ち上げたレイヤの腕にも伝わるほど後ろから放たれる闇の気が膨れ上がる。


「ゼノン。あほはほっとけ。それ以上やっても無意味だ」


 片割れが怒りをぶつけているせいで、こちらがフォローに回らないといけない。いつもはレイヤが切れてゼノンが宥めるのに今回は逆だ。この場を鎮められる唯一の神を呼び出す。これは自分が代わるだけではすまない。

 こうなったら彼女しかいない。

 呼び出すとすぐに空間が歪み姿を現す。妖艶と言う言葉がぴったりな美女だ。


「あら?なんでわたくしの息子がこんな床に寝そべっているのかしら?」


 真紅の口元に楽しそうな笑みを浮かべながら場違いなのんきな口調で聞いてくる。その口調に床で苦しんでいる青年に対しての心配の色はかけらもない。


「ビュアス。これはナーガがフウカにちょっかいをかけたお仕置きだ。後は親の役目だと思うが?」


 そう言いながら事情を軽く説明をすると、愛の女神は一気に瞳に怒気を浮かばせる。


「なんですって!彼女の記憶を封じた上に、欲を植えつけようとするなんて・・・」 


 愛の女神だけ肉欲だけでことを運ぼうとした息子に対して、怒りが爆発する。


「ええ。あとは任せて。ごめんなさいね。馬鹿息子が貴方たちの大切なお姫様にちょっかいをかけて・・・」


 その表情は謝りながらもどこか楽しそうだ。愛の女神だけに、いままで誰にも見向きもしなかった最高神ふたりの恋愛を見れるのがうれしいのだ。


「ビュアスに謝られても困る。これでフウカが元に戻らなければ、俺とゼノンが徹底的に痛めつけてやるつもりだからな。とりあえず彼女が眼を覚ますまでは任せるよ。しばらくこの部屋から出さないようにしてくれ」


 レイヤがそう言うとその場を支配していた闇の気が、持ち主である黒髪の青年の元に戻っていく。

 同時にナーガが大きな息を吐いた。どうやら圧迫がなくなったようだ。それでも今までのダメージなのか頭すら上げようとしない。


「ビュアス。私の代わりにお願いします」


 今まで険しい表情をしていたゼノンは、ここで少しだけ表情を緩めて愛の女神のほうを向きながらそう言う。


「おいたがすぎた息子のしつけなおしは任せておいて。まずはこのお部屋の模様替えからするから」


 部屋を軽く見渡しながらビュアスは手を振る。

 ここでレイヤもゼノンもすることは終わった。あとは彼女の目覚めを待つだけだ。

 しかし、彼女の部屋に戻ろうとした途端、彼女の気配が彼女の部屋でないことに気づく。


 どこにいったんだ?


 探るとすぐに見つかる。

 しかし、それは戦神の部屋だった。とりあえず何故と考えるより先に、二人ともそちらに向かうことにした。

 ゼノンの怒りがすごいです。レイヤはそれに圧されて怒りきれていません。

 

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