40.幽霊?
あ、あれ?ここはもしかして日本?
目を開けた瞬間に広がる景色にびっくりする。
よく知っている実家近くの駅前。コンビニの点灯が煌々と道を明るくしている。電車が到着する音が聞こえてくる。目の前には流れるような人通り。帰宅時間なのか背広を着た男性やスーツを着た女性だらけだ。
「もしかして夢だったの?」
女神になるなんてよく考えたらファンタジーすぎるし、三十路の女が現実逃避でみちゃったのか。
「・・・・よくわからないけど、とりあえず実家に帰ろう」
よく知った道を歩き出す。
半年以上帰ってなかったのでひどく懐かしい。
「しかし、本当にへんな夢だったな。ロリコンオタクが好きそうな容姿になっちゃってたし・・・」
そう思って下を向くといやでも胸の谷間が目に付いた。白いワンピースから見える見事な形をした胸。
え?あれ?
ここで違和感を覚える。おそるおそる、近くの店のガラス窓をのぞいてみる。
「な!なんで映ってないの?」
自分の姿が映るはずなのにそこにはだれもいなかった。
もしかして私死んで幽霊になっちゃった?
「それも死んだ自覚のない自縛霊?」
と、ともかくさっさと帰ろう。
早歩きでよく知っている道を歩く。
そのおかげですぐに家につく。
入ろうと玄関を開けようと手をのばす。
え!!
取ろうとしたノブに触れることもできずに手がノブの中に入り込む。いや、通り抜けているのだ。
慌てて手をそこで振るが空ぶって触れることすらできない。
やはり幽霊決定か!
ショックを隠しきれずにしばらくその場で立ち竦む。
なんで?死んだ記憶なんかないよ?あの訳のわからない夢は死後の世界?
そのとき、思いかけない声が後ろから聞こえてきた。
「だれ?うちの家になにか用?」
びっくりして振り返ると、よく知っている青年が怪訝そうな顔してこちらをみていた。
「は、隼人!」
弟である。しかし呼ばれた本人は驚きを顔一杯に出す。仕事がえりなのかスーツを着ている。
「え?君はだれ?」
あれほど仲良くしていたのに半年会わないだけで、分からなくなるなんてひどい。
「お姉ちゃんがわからないの?何寝ぼけているのよ~」
「え?・・・・もしかして姉貴?」
じーとこちらを凝視しながらおそるおそると言うふうに聞いてくる。
「それ以外にありえないでしょ?」
そう私は言ったのだが、その声が聞こえていないように呆然とこちらを見ていたかと思うと、
「やはり、俺に姉貴がいたのか・・・」
と小さくつぶやき、私の身体に触ろうとしてくる。
あ・・・。
思ったとおり、その手は私の身体を通り抜ける。
「ゆ、幽霊になっちゃったのか姿も映らないしドアに触れることもできないのよ・・・」
「・・・・・と、とりあえず入って俺の部屋で話そう」
私が開けれなかった玄関の扉を開けて入れてくれた。そこでひどく違和感を覚える。
あれ?だいぶ雰囲気が変わっている。もっと女性らしい雰囲気もあったし、私が作ったオブジェとかも飾ってくれていたのにまったくなくなっている。
「付いてきて。もしお袋たちに姿が見えたら適当に俺が言うから黙っていろよ」
頷いてリビングに向かう弟についていく。
「ただいま~」
隼人がそう言うとなつかしい母の声が聞こえてくる。
「おかえりなさい、隼人」
「お、お母さん・・・」
思わず私は呼んでしまったが、母はまったく私の姿を見ない。いや、まったく見えてない様子だ。
「悪いけど、ちょっと部屋で仕事してから夕飯にするから。自分で温めたりできるからなんなら先に風呂入ったりしてて」
隼人は母に早々とそう言うと目で私に合図を送りながら自分の部屋に戻った。
少ないけど、一つにすると長すぎるので二つに分けさせてください。