4.双子の最古神
ゼノンに連れられて、歩くことすぐ。
気がつけば数人の男性に囲まれて、動物園の動物のように上から下まで見られています。なんでだー。
誰一人、いやらしい目つきもなくただ可愛いペットをみるような穏やかな視線なので、そこまでいやな気分にはなりませんが、この状態にはちょっと困惑してしまいます。ゼノンは隣で彼らの反応を楽しんでいるご様子。
お兄さん、たすけてくださいな。
しかし、救いはゼノンではなかった。
「おまえたち。彼女は生まれたばかりなんだから、あまり大人数で近寄るんではないよ。とりあえず、ゼノンとエダと俺で話してからにしなさい」
救いの声が聞こえてそちらのほうを振り向くと、私はその姿にあっと驚く。
ゼノンさん、双子なんだ。
そこには先ほどまで見ていた、隣で笑っているゼノンとまったく同じ造りをした男性がいた。いや、色彩がちがう。黒髪黒目のゼノンと正反対で金髪金目の彼。それに肩まで届く長髪のゼノンに対して彼は短髪だ。
「迎えにわざわざきたのですか、レイヤ」
隣でゼノンがそう言う間に回りに取り囲んでいた男性たちは消えていた。不思議だ。なんで一瞬で消えたり現れたりするんだろ。
「そういうゼノンこそいきなり部屋から瞬間移動して、彼女のところにいったではないか。というか、なんでさっきのやつらに見世物にしているんだ?」
うん。それは言ってください。やはり嫌がらせですか?
「いや。ちょっとだけ優越感が・・・。散らそうとしたときにお前が来たんですよ」
やはり見世物だったのか。まあいいけど・・・。やめてもらうつもりはあったらしいし。
「じゃあ、とりあえずエダの部屋に行くか。あいつが拾ってきたんだから説明も聞かないと納得しないだろう」
レイヤと呼ばれた金髪兄ちゃんは話題を切り上げてこちらを見てきた。色が変わっても美形は美形だ。こんな人が日本にいたらみんな振り返るだろうなあ。
「フウカ。青くんのところに行きましょう」
ゼノンがすこし笑いながら手を差し出してくる。
エダって青くんのことか。そうだ。はやく事情を知りたい。帰れるなら帰りたい。
「青くん?それにフウカって・・・」
レイヤは怪訝な表情でゼノンをみる。
「事情はあっちでね」
そういうとふたたび手を合わせていた私の腕をひっぱって身体を密着してきた。
と、同時に周りの景色が一転する。今度は青に統一された部屋だった。
部屋のいすに腰掛けながら書類をみていた少年がこちらを振り返る。
青くんこと、エダだ。
「ゼノン!レイヤまで。ああ、彼女をつれてきたのか・・・・。僕が連れて行こうと思っていたのに・・・」
すこし、くやしそうにしながらこちらに近寄ってくる。
「きみ、もう大丈夫?いきなり倒れるからびっくりしたよ」
長身のふたりには眼もくれずに、こっちを覗き込むようにみながら話かけてきた。
「すみません。いろいろ迷惑かけちゃって」
心配かけてしまったようだ。申し訳ない。
「いやいや。いいんだよ。生まれたばかりだもんね」
「え?生まれた??」
彼の言葉に頭の中でクエッションマークが踊る。生まれたのは30年前だ。そういえばさっきレイヤって人も生まれたと言ってなかったか・・・。
「いや。彼女は日本って国で生まれて30歳ですよ。すくなくても今はね」
ゼノンがさっき私の頭から知りえた情報を出す。それにはエダだけでなくレイヤまで面食らったような表情をする。
「そういえば、フウカって呼んでいたな。どういうことだ?」
「さっき頭の中を見たんですけど、人としての記憶があるみたいなんですよね。魂に刻まれたまま生まれてきた感じです」
ゼノンがそういうと二人はますます怪訝そうにこちらを見る。
どういうこと?なんかおかしいの??
「それは、たいへんだな。よし、記憶を消してやろう。そっちのほうがすごしやすいだろうしな」
レイヤはポンと手を叩いてこちらにますます近寄ってくる。
記憶を消す?
どういうことかはっきりわからないけどこのままでは最高にまずい気がする。記憶喪失にされちゃう。
「いや!!ぜったいやだ!!」
少しでもレイヤから離れるように隣にいたゼノンの背中に隠れる。
「こわくないよ。ゼロからはじめたほうが女神としてやりやすいはずなのだから」
まったく言っている意味わからないけど、冗談じゃあない。風香としての人生人格を消されてたまるものですか。私は私よ。
「まて、レイヤ。フウカが嫌がっているのを強制はできないでしょう。とりあえず、説明してからにしましょ」
そうだ!説明もなしにそちらの都合で消されてやるものですか。
「っ。そうだな。フウカっていうのか?ここがどこかわかるか?自分自身のことは?」
頭を大きく振る。それがわからないからここに着たんだ。
「難しく言ってもわからないだろうから簡潔に言えば、ここは神の国だ。といってもまだできたてだけどな」
神の国。日本で言えば八百万の神さま。ギリシャ神話でいえばゼウス神。中国で言えば西王母とか?
まあここは地球でもないようだし、そもそも宇宙ですらないのかも。
ってなんで私がそんなところにいるんだろう・・・・。
「で、一応俺とゼノンが最古の神で、所属は光と闇だ。ちなみにエダは水」
おっと、めっちゃ人間くさい方々なのに神なんだ。どうりで美形だ。と現実逃避を図る。だってこれを現実だとだれが受け止めれるんだ。すくなくとも私には無理。
「さらにお前も女神だな。精霊や妖精にしては気が大きすぎるし、おそらく癒しの女神っぽいが・・・。人間の記憶がなんでか残っているせいで、力がごちゃごちゃになっている。だから気が不安定になっているんだよ」
さすが最古の神。わかりやすい説明だ。だから記憶を消しちゃえば安定するだろうってことね。
でも、理解は出来ても納得は出来ない。
だって自分を消されるのだよ。消されて日本に帰れるならいいけど、そんなご都合なことはないだろう。が、とりあえず聞いてみた。
「じゃあ橘風香の人格は日本に帰してくれるのですか?」
神ならやってみてよって挑戦的に聞く。いい加減、むかついてきた。
「あ、それは無理です。ここまで同化してるのだから消すと言っても眠らせる程度ですね」
ゼノンが飄々を述べる。やはり、無理か。
ゼノンが言うのをレイヤが舌打ちをしながらこっちを見る。
なんぼその美形スマイルで見てもこれだけは譲れません。
「あーあ。消しちゃったほうが君も楽なのに。まあつらくなったら言えよ。ぱぱっと消してやるから。名前は普通俺かゼノンが決めるけどそのままフウカでいいだろう」
いっこうにあきらめない私の表情をみて、折れたのはレイヤのほうだった。はあっとため息をつきながらそう言う。
「ありがとうございます!」
心からの笑みでレイヤに礼を言う。そうすると、なぜか顔を背けながら早口で吐き捨てる。
「そのかわり、気の安定の練習をすること。そのままだと、やばいから」
なにがやばいのかわからないけど、なんとか助かったらしい。
「あー。くわしい話はあとでな。俺かゼノンかエダから徐々に聞く事。しばらくはここのさっき寝てた部屋を使ったらいいから。精霊を数人つけとくから、そいつらからも常識とかをきけばいい」
精霊までいるのか。よくわからないけど、とりあえずしばらくここで生活することになりそうだ。