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女神の憂鬱  作者: 灯星
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38.恋人候補より弟

「さぁ~。気を取り直して料理の味見をしよう!」


 私は場の重い雰囲気を一掃したくてわざと明るく声をかけた。

 卵は途中で何度もかき混ぜるといい感じでふんわりとなった。いくつかに分けてトマト風味の調味料をかける。

 ご飯はすこし硬めだったけど、あの独特の匂いは紛れもなく毎日食べていた米飯だ。

 三人分を軽めによそって、席に座る。

 ノアは一緒に食べることをはじめ遠慮しようとしたけど、強引に座らせた。だってやはり一緒に作ったのだから一緒に味見したい。


「頂きます」


 いつものように手を合わせてから食べる。さすがに箸はないようでフォークで刺す。

 思ったよりご飯もオムレツもいい感じにできていて思わずその味を口の中で堪能する。

 やはりこの味よね~。

 おいしそうに食べる私をみて、ウリュウもノアもおそるおそる口にいれた。食べたことないものを食べるときってどうしても慎重になってしまうよね。

 でも口にいれた瞬間、二人とも表情が柔らかくなった。


「へえ~。おいしいもんだ」


 ウリュウが口を動かしながら端的に感想を述べる。


「すごくふわふわでおいしいですわ、フウカ様」


 ノアはごくりと最後まで飲み込んでからそう言った。

 二人とも気に入ってくれたみたいだ。


「ご飯と一緒に食べるともっとおいしいんだよ」


 見本にご飯の上にオムレツを乗せて一緒に口の中に入れる。本当はオムライスにしたほうがおいしいけどフライパンなしだとこれが限界よね。

 二人も私を真似て食べる。

 無言でもぐもぐと食べているが、その表情は本当においしそうで気に入ってくれているのがすぐにわかった。


「私は人間のとき、このご飯を毎日食べていたんだよ」


 食べ終わって飲み物を飲みながら、私はおもむろに話しはじめた。ウリュウもノアも食べ終わって、同じように飲み物に口をつけている。


「ウリュウ。さっきの話だけどね。私はやはり30年間の人生を封印することはまだできないわ」


 二人は私が真剣に話出したのが分かって、飲み物を机に置いてこちらを黙ってみている。


「今までそんなに大したことやってきた訳でないけど、自分で人生に幕を降ろしたくないの。封印することは橘風香という人間の消滅だと思っているの。私が自分からそれを願うってことは自殺と同じ」


 自殺しようと思ったことはないし、それはしてはいけないことだと思っている。


「それにね。勝手な解釈かもしれないけど、私がこのまま女神になったということに意味があるのかもって思うようにしているの。私に関わってくれているレイヤたちもそう思ってくれているって言ってくれたしね」


 少なくとも私がこのままで女神になったことに不都合があると分からないのであれば、このままでがんばると改めて決意を告げる。料理を完成させながらそのことを考えていた。ご飯を食べてから話はじめたのは、感情的にウリュウに言うのではなく、冷静に考えをまとめてから話したかったからだ。


「フウカ。ごめんね。俺が考えなしで言ってしまったせいで悲しませてしまったね」


 ウリュウが本当に後悔しているって表情で、こちらを痛々しそうに私を見てそう言った。


「ううん。心配してくれてありがとう。私ね。ウリュウが生まれてきてくれて本当にうれしいんだ」


 私より若い神の初めての誕生。それに立ち会うこともできた。それもこんなに可愛い子が弟なんだからね。

 さっきの質問も私が辛いだろうからと、心配してくれてのものだと冷静に考えるとわかったのだ。

 そう思って言うと、意表をつかれたというように猫のような眼をもっと大きくしてこちらをのぞきこんでいる。何を言おうか必死で言葉を捜している感じだ。


「ねえ!これからもこうして料理手伝ってくれる?弟と一緒にこうして料理とかできるって本当に楽しいもん」


 もっと仲良くしたくてそう言うと、一瞬だけ絶句と言うように息を止めたあと大きくため息をつく。

 オトウトかよ・・・・とか小さくつぶやいている。


 あれ?やっぱり料理迷惑ばかりかけてたから嫌だったのかな?


「あ、料理が嫌だったら他のことでもいいよ。加熱はすべてウリュウにたよりっきりだったものね。なんなら一緒に神として修行の練習ってのもいいし」


 慌ててそう言うと、無言で首を振りながら、


「いや、料理でいいです・・・。なんぼでもお手伝いしますよ・・・」


 と、呆れたというような口調で私に言う。


「なんで、いきなり敬語なのよ。ほんとうに嫌ならいいよ?」


 そんな口調で言われても嫌々なのかと思ってしまう。本当に料理はウリュウを誘わずノアやセレーナにお願いしようと思い直す。ウリュウは私がそう思ったのが分かったのか慌てて手を振る。


「だめ!料理の時は絶対俺を誘うこと。わかった?」


 いままで見たこと無いような真剣な表情でそう言ってくる。


「う、ウリュウが嫌々でないならお願いするけど、いいの?」


 ウリュウの声に圧されて小さな声で聞くと大きく頷く。

 なにかぶつぶつつぶやいているけど、聞こえない。なんか触らぬ神に祟りなしということわざを思い出してしまった。

 スルーしとこ・・・。


「ご飯とオムレツすこし余ったけど、どうしようかな?」


 話題を変えようとノアにそう言うとすぐに返答が返ってきた。


「それなら、レイヤ様にあげたらどうですか?そのぐらいの量軽く召し上がられますし、喜ばれますよ」


 にっこり微笑みながら、いつのまにか綺麗に残りを装ったお皿を並べたお盆を私に差し出してくる。飲み物まで置かれている。

 本当にいつのまに盛り付けたんだろう。


「そうね。たしかにレイヤなら食べてくれそう」


 断れない雰囲気で差し出されたお盆を受け取って返事する。


「レイヤ様にはもうお伝えしましたわ。フウカ様の部屋に行くと申されています。あとかたづけは私がしておくので部屋にそのままお持ちください」


 もう伝えたんだ。はやすぎでしょう。後片付けまでしたかったのに・・・。まあ料理は温かい方がいいからノアの好意に甘えるしかないか。


「うん。わかったわ。ありがとう。じゃあウリュウ。本当にありがとう。でも嫌な時は遠慮なく断ってね」


 そう言ってから自分の部屋に瞬間移動することにした。

 そのおかげで、直後に部屋の雰囲気が一気に険悪なものになってしまったことに、幸いなことに私が気づく事もなかった。






「・・・・ノア。わざとフウカを部屋に返しただろ?」


 ウリュウは癒しの女神がいなくなった場所を恨めしそうに見詰めながら、光の精霊の少女に話しかける。それに対してノアは本当にたのしそうに否定する。


「あら?ウリュウ様。そんな訳ございませんわ。まさかフウカ様にとって弟同然のたいせつな方に対して意地悪をするなんて・・・」


 どこがウリュウの機嫌を損ねたか分かっていながら、その傷をえぐるようなことを言う。これ以上聞いてられないとばかりに火山の神である彼は、手を振りながらその場から消え去った。


「ふふ。さすがにあれはウリュウ様には可哀想だったかしら。まあフウカ様にしたら恋人候補より弟がほしいのでしょうね。レイヤ様のためにもこのままのほうがいいから、ウリュウ様には悪いけど理由は教えないでおきますわ」


 しかしその呟きを聞く者はだれもいなかった。

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