37.純粋な質問
「えっと、まずはお米を洗って30分浸けてっと」
ここは前も使用させてもらった調理場。
鍋に入れてごしごしお米を研いで水に浸していると、後ろから興味津々と言うかんじでノアとウリュウが覗き込んでいる。
あのあと、そのままウリュウに調理場まで連れてきてもらった。その後すぐにノアが抱きついてくる。
「フウカさま~。姿も気も感じなくなって心配してたんです~」
かなり心配させちゃったみたいで、目に涙を浮かべている。
謝って事情を説明すると納得してもらったようだけど、あまり無茶なことしないでくださいよっと釘を刺されてしまった。
で、気を取り戻して本来の目的である調理を開始する。
「じゃあまた材料をそろえるのと、器具を調べよう」
そう言ってまずは前にももらった卵をお願いする。卵があればなんでもできるもんね。
次は調味料だ。塩っぽい調味料を出してきてもらってかたっぱしから味見する。
ん~、これとこれかな?
ひとつは粉で塩っぽい味けどすこしざらざらしている。もう一個はトマト風味の味。
醤油や味噌はさすがにありませんでした。残念。
油があればオムレツになるね。和食ではなくなっちゃうけどお米の出来具合で、卵焼きにするか考えよう。
よし、次の具材探しだ。
いちいち思い浮かべて出してもらうのもたいへんなので、適当に見せてもらうことにした。
倉庫に連れられてその具材の種類の多さにびっくりする。量はそれほどではないのだがなにしろ大きな両面の棚いっぱいに200以上の食材が並べられているのだ。
いやぁ~すごい。
でも、やはり果物やお酒類が多いみたいだ。
あまり食事や栄養を重視してないようだ。
まあ天然の気だけで十分だって言ってたもんね。
ノアに説明を聞きながら選んだのは以下の通りだ。
白ねぎっぽい野菜。玉ねぎはなかったのでそれでなんとか代用。味見するとけっこう似てた。
ちょっと毒々しい紫色の玉になった野菜。ノアに強引に薦められていれたけど、どんな味か未知だ。
なにかわからない葉っぱ類。これこそ分からないけど、一度茹でてみようと思ったので入れる。
肉類まで手はだせないので、とりあえずこれだけにする。
「あとは鍋ね。できれば土でできた分厚い鍋があればいいんだけど・・・」
やはりご飯は土鍋でやりたくて聞くとすこし形はちがうけど、ちょうどいい感じのものを出してきてくれた。
水に漬けてたご飯を土鍋もどきに移す。えっと水加減はと適当に入れて手のひらで量る。昔、調理場のバイトしてて、手で量るやり方を教えてもらっていたので助かった。
「ウリュウ。おねがいしていいかな?直火でこれを火にかけてほしいんだけど」
そういえばコンロがなかったどうやったらいいのかな?
考えながら言うと、後ろで黙ってみていたウリュウがひょいっと土鍋もどきを取り上げる。
「了解。火の量はどれぐらいがいいの?」
そう言うといきなり空中に土鍋を浮かしてその下に火を付ける。
えーそのままでやるの??
「土鍋が噴いたりするから気をつけてね。えっと、まずはそれぐらいの強火でぐずぐず言ってきたらすこし弱めて、私がいいというまでそのままにしてほしいんだけど、けっこう時間かかるんだけどそのままでも大丈夫?」
すくなくても15分ぐらいはかかるよね。空に浮いていると言うことは力を使っているのだろうし・・・と思って聞いたのだが、
「心外だなぁ~。それぐらいなんてことないよ。まかせといて」
と、すこし機嫌を損ねた感じで引き受けてくれた。
「ごめん。じゃあ遠慮なくお願いするね」
その間に野菜を一度ゆでてみる。だって味わからないしね。ちなみに湯は水を瞬間で沸騰してもらいました。もちろん、ウリュウに。手をかざしただけでぼこぼこと湯で立つんだからすごい。
柔らかくなったのに塩もどきを振りかけて食べてみる。
「お!おいしい。全部すっごい甘いよ!」
葉っぱも紫の玉も白葱もどきもおいしかった。これだけで食べれそう。でもせっかくなので卵に入れてオムレツにしようと考えるが、ふと基本的なことも思い出す。
そう言えば、コンロもなかったのにどうやってすればいいんだ!これは困ったぞ。
ん~~~。
仕方ないので試しにこの前使った石釜を使用することにする。
まずは卵をこれでもかと言うぐらいに巻き混ぜる。さっき茹でた野菜を入れて塩もどきも入れる。
ふわふわにできるかわからないけど、これで卵を固めればいいかな?
器に移して石釜まで持って行く。
石釜の付け方をノアに聞いて教わる。さすがにウリュウにやってもらっているようにはできないけど、この石釜ぐらいできるようにならないとね。
「えっと手をかざして、気を送ればいいのね・・・・・きゃ!!!」
聞いたとおり気を送った途端、ものすごい熱気が部屋中に充満する。
「フ、フウカ様。す、すこし加減をしてください」
慌ててノアにそういわれるけど、加減の仕方もわからない。だって気を送ったのも本当に付いてって思った程度だから。
ど、どうすれば・・・・。
と、そのとき、隣で土鍋に火をつけてくれてたウリュウがすっと近寄ってきて、かざした私の手に彼の手を重ねる。途端に、熱気は止みちょうどいい温度になった。
「あ、ありがとう」
ほんとうに何から何までお世話になりっぱなしだ。彼がいなかったら料理できなかったかも。
そう思って礼を言うと土鍋の調整をしながらこちらの気の制御もしてるのに、本当に涼しい楽しげな表情をしている。
「本当に面白いね。フウカの力って。そんなに制御できないのは人間の記憶があるからなの?」
いきなり自分にとって急所にあたるところを言い当てられて、思わず胸を押さえてしまう。
な、なぜこのタイミングでそれを言うの?
「ねぇ~。なんで記憶を消さないの?人間の記憶ってそんなに大切なものなの?」
大切なのかな?自分でも分からなくなってきた。レイヤたちがこのままでいいと言ってくれているから考えることすら封印してしまったけど、そもそも女神としての自分に必要なのかと常に疑問持っていたことを思い出す。
私の手を握ったまま、こちらの考えを見通すかのような目つきでウリュウは話を続ける。
「辛くはないの?消してしまえばこんな制御簡単だよ?ただ、必要なところにだけ癒しを与えるだけで済むよ?」
なんとか自分の考えを伝えようと言葉を捜すが見つからない。そうしているうちに、そばにいたノアが見たこともないようなきつい表情で赤茶の青年を責め立てた。
「ウリュウ様!もうおやめください!フウカ様はこのままでいいのです!」
「ノアだっけ?このままでいることがフウカにとって、苦痛でしかないものであってもそう言うのかい?レイヤたちだってすぐに記憶を消してくれって、フウカが言い出すだろうと思っているから放置しているのに気が付いているのだろ?」
しかしそれに対してウリュウは淡々と反論しノアが言葉を失う。
言葉を返せないと言うことがノアもそう感じていたのだと、物語っていることを現している。
レイヤたちも私が言い出すのを待っている?
やはりそうなの?4人とも言葉ではこのままでいいと言いながらも、内心では記憶を消すだろうと踏んでいるのか。
つい疑心暗鬼になってしまう。
「そうね・・・。たしかに、私が拒んだときすぐに撤回してくれたのはそうなのかも」
思わず、本音が出てしまう。
「そ、その件はご飯ができてからもう一度じっくり考えてみるわ。そうしている間に米飯もできてきてそうだし・・・」
とりあえず時間がほしくてこの話を締め括る。いきなりそんな話を出してきたウリュウの意図まで読めないけど、純粋に思ったことを聞いてみただけなのかもしれないし、ここでさっと話できる内容ではない。
私がそう言うと、ウリュウが私の顔を見てなぜか慌てる。
「フ、フウカ。俺は、別にフウカを責めているわけでないからね!」
自覚はなかったけど、かなり悲痛な表情になってしまっていたようだ。
ウリュウが言ってることは事実なだけだ。
「俺はただ疑問に思ったから聞いただけで、消したほうがいいとか思ってるわけでは・・」
「うん。もういいから料理に専念しよ。土鍋はもう火消してもいいと思うから。ノア、この卵をお皿に入れてから釜でしばらく焼いてみて」
これ以上ウリュウの話を聞きたくなくて途中で打ち切るために、料理の指示を口早に告げる。
結局その後は3人ともすこし気まずい雰囲気で料理を作り終えた。
ウリュウは本当に無邪気に聞いてみただけなのですが、フウカの胸にぐさりと刺さってしまいました。