30.滝デート
ひさしぶりにエダ登場です。
ふぁ~。
朝、大きく欠伸をひとつする。
昨日の夢は本当に恐ろしかった。だが、ゼノンがわざわざ深夜に来てくれて安らぎの気を与えてくれて、その後はまったく夢をみることなく寝れたのでだいぶ気分的にも落ち着いたのだ。
気も嬉しかったけど彼の言葉がなによりも心に響いた。
私にそのままのフウカでいてほしいと思っていると。
一番ほしかった言葉。私のエゴで記憶を消さないのに、それで迷惑かけているのに、そのままでいいと思ってくれていると。
「本当にこのままでいていいのかわからないけど、もうしばらくはがんばっていいってことだよね?」
考えてみるとレイヤも自分を見ていると言ってくれてたし、オリセントも『フウカでなければ』と言ってくれてたと昨日ゼノンが言ってた。
「でも、夢のことは忘れてはいけないね。癒しの女神としてどうやっていくべきなのかもっともっと勉強していかないと」
ぎゅっと手を握りしめて決意を固める。
ベッドから立ち、カーテンを開けたりしているとノアとセレーナがいつも通り入ってくる。
「おはようございます。昨日本当においしいデザートありがとうございました!」
元気一杯にノアが言ってくる。
そういえばプリン渡していたっけ?よかった。気に入ってもらえたんだ。
「おはようございます。ゼノン様より本日は休養するようにと伝言を頂きました」
セレーナがすこし控えめに伝えてくるのに軽く頷く。
ゼノンには本当に心配かけちゃったな。あんなに大泣きしたのは久しぶりだったけど、その間ずっと慰めてもらっちゃった。最後はキスされてそのまま寝ちゃったし・・・。
会うの恥ずかしいけど、きちんとお礼しないとね。
「ゼノンって甘い物食べるほう?」
食べるなら昨日のプリンを持っていこうと聞くけどセレーナは首を横に振る。
「残念ながら、あまり召し上がらないですわ」
そっか。レイヤは食べていたけどゼノンはお酒飲みながらつまむ程度だったもんね。言葉のお礼だけにするかな~。
いつものように朝の身支度を整えてご飯を軽く頂く。
終わったのを見計らったかのように部屋の片隅の空間が歪み、青い髪をした少年が現れた。
「おはよう、フウカ。昨日はたいへんだったみたいだね」
手を上げながら挨拶をしてくれる。その表情はいつもと違ってすこし心配そうにこちらを伺っている。
「エダ、おはよう。心配かけてごめんね」
心配いらないと言うアピールをしたくて、できるだけ明るそうな笑顔で元気に答える。エダはそんな私の顔をしばらく眺めていた。
「話は聞いたよ。すごい活躍だったんだってね。あんなに饒舌に語るオリセントは初めて見たよ」
どんな話をしてくれたんだろう?あの強面で大柄だけどすごく愛嬌のある戦神が、熱心に話する姿があまり想像つかない。
「今日はゆっくり休むって聞いたからよかったら、前言ってたように出会った滝に行かないかなって、来てみたんだけどどう?」
それはいいかも。今日休みといわれて、どう過ごそうか迷っていたからわたりに船状態だ。
「それはうれしい!ぜひ連れて行って。あ、そうだ。エダって甘い物食べるほう?」
せっかくだしエダにも食べてもらおう。
「すごく好きなほうだけどどうしたの?」
うれしい返事をもらったので、昨日作ったプリンの話をするとびっくりしたように、目を大きくしてから喜んでくれた。
「それはぜひ食べたいな。でも料理する女神なんてだよ。楽しみだな~」
冷たくしているので、今食べようと言うと力で運ぶことができるから、せっかくだし滝で食べようと言う話になった。
「じゃあ行こうか。僕らの出会いの場所へ」
ちょっとふざけた感じで片目をつぶりながら言い、そっと私を抱きかかえて瞬間移動した。
景色が一転したかと思うと、ゴゴゴーっと激しく水が流れる音が聞こえる。
やはりそこはうつくしい幻想的な景色だった。
樹木や苔や石の間から何本もの白い降り注ぐ水。そこに小さな虹が架かっている。
「うわぁ~。やっぱりここいいね~。癒される~」
嬉しくなって滝のほうに近寄る。この滝に救われたんだよね。
「癒しの女神が滝に癒されるの??それ、おもしろいね」
後ろから付いてきながらおもしろそうにそう言う。
だってやはり自然はマイナスイオンがあって、癒しになるっていうからそう感じるものだ。
エダが手招きをしてくれて、水がかからないぎりぎりのところの岩に二人で腰掛ける。
そこから見える滝は本当に壮大でなんとも言えない美しさがあった。
「最初にここでエダに声かけられて本当にびっくりしたんだよ~」
私は出会いを思い出しながらなつかしそうに言う。水の中から声がいきなり聞こえるなんて誰も思わないだろう。
「驚いたのはこっちのほうだよ。どう見ても女神なのに自覚ないし服装はぼろぼろだし、すごくおいしそ
うに僕の水を飲んでくれているし」
心底楽しそうにこちらを覗き込むように頭を下げながら見ている。
あれからまだ10日ほどしか経ってないんだけど、色々ありすぎて懐かしい思い出になっている。
「あの時は本当にこの水に救われたんだよ。だって餓死しちゃうって本気で思っていたから」
本当はそんなに簡単に死なない身体になっていたらしいけど、自覚もなかったしあの喉の渇きは本物だったから飲めたときの水のおいしさは格別だった。
「それに驚きはしたけど、人に初めて会えたってすごく嬉しかったんだよね」
「僕も最初にフウカに会うことができてよかったと思っているよ。だって、他の3人は役目上当然フウカに接することができるけど、僕は違うからね。最初に出会うことができたから、こうして話もできるし教えることもできる。本当に幸運だったな」
そっか。レイヤとゼノンは最高神と言う立場から接するのは必然だし、役目上深い関係にあるオリセントはどうやっても関わっていくことになるだろう。でも水の神であるエダと癒しの女神である自分では今のところそれほど直接関わりがあるわけではない。
「もし会わずに直接神殿に行ってたら、初めて君と話するのはあのお披露目の日のほんのわずかな時間だけだっただろうね」
すこし苦笑するような笑顔でそう言う。だからそれを否定する。だって実際は大切な先生の1人だから。
「でも、実際はこうしてエダと一緒にこの滝にいられるもんね。私は助けてもらったのがエダでよかったと思っているよ」
力強く彼の眼を見て言うと彼は嬉しそうに笑みを深める。苦笑するような笑顔でなく本物の笑顔だ。
「ありがとう。本当に君は癒しにぴったりだね」
その言葉にひどく心を打たれた。
エダが何気なく言ったのは分かっている。でも、昨日からくすぶってた私がこのままでいていいのかと言う思いを、すこし消してくれるような言葉なのだ。
「ほ、ほんとうに?私がこのままで癒しの女神でいてもいいと本当に思ってくれているの?」
気が付いたらすがるように彼に聞いてしまっていた。
いきなり真剣な表情で問いかける私にすこし驚いたようで、一拍間をあけてから答えてくれる。
「当たり前じゃあないか。昨日の活躍を聞いてそう思わない者はいないよ。それ以前に僕はここで君を見つけたときから不思議にも、そのままの君を守りたいと思っているんだからね」
うれしい。ただ純粋にうれしい。昨日あれほど泣いて枯れてしまったと思っていた涙がふたたび復活して両目を濡らす。
「ありがとう。昨日実は私が女神のせいで助からなかったって、無数の人に責められる夢を見ちゃったの。ゼノンが気を送ってくれてなんとか落ち着いたし彼もそのままで良いと言ってくれてたけど、エダにもそう言ってもらえると本当にうれしいの」
そう言うと涙を指で優しくすくいながら、もう片手で慰めるように背中を撫でてくれる。
「それは怖かっただろうね。僕にもゼノンのような安らぎの力がほしいよ。そうすれば君をもっと助けれるのにね」
すこし悔しそうに言う彼におもいっきり頭を左右に振る。
「ううん。本当にいまの言葉で十分助けてもらったよ」
何気なくでた言葉なだけに、それが彼の本心であると深く感じることができたのだ。
「じゃあお礼に昨日作ったというお菓子をもらおうかな?2階の氷の保冷庫にあるって言ったけど、これかな?」
そう言いながら差し出したのはまさに昨日つくったプリンが二つ。
すこし冷えすぎたようで表面が凍っていた。
「うん。これだよ。ちょっと凍っているけど冷凍プリンでもおいしいと思うから食べてみましょう」
話題をここで代えてくれた彼に感謝しながらその話に乗る。匙もいっしょに出してくれて一口、口に入れる。
冷凍と冷蔵の間ぐらいで口に入れた瞬間溶けるような甘みが口に広がる。
あ、これちょうどいいかも。
「へぇ~。こんなお菓子初めてだよ。おいしいね」
エダも本当に甘い物好きなようで満足そうに食べている。よかった。気に入ってもらえたようだ。
本当に気に入ったようで結局あと残り3個とも出してきて食べていた。今日中に食べないとと思っていたのでよかったけど、本当に甘党なんだなあって感心してしまった。
エダとのラブラブは書けません。もうすこしラブラブにしたかったのですけど・・・・。
まあみんなが彼女に積極的に迫るのもどうかと思うので、彼はぼちぼち行くようにします。