3.美形兄ちゃん
真っ白い天井。明るい日差し。
・・・・・ここは病院??
私はものすごく低血圧だ。実家にいたときは弟にぶつぶついわれつつ、よく起こされたものだ。10分ぐらいぼぉーとしていると、勝手に「しゃあねえなあ」って布団をたたんでくれたものだ。
っと、動かない思考回路のかわりに首を振ってあたりを見渡す。病院にしては広すぎる。20畳ぐらいはありそうだ。ベッドに机にチェストに白で統一される。よく見ると優雅なデザインの彫刻が施され品格の漂うお部屋を演出していた。
そもそも自分が寝ているベッドも2,3人は寝れそうな大きさでおそらくキングかクイーンサイズだ。
・・・・・ここはどこ?
なんでこの場所にいるのか寝ぼけた状態の頭をなんとか動かして気絶する前の状態を思い出す。
「あー。連れてこられてそのまま倒れちゃったんだ・・・。ってかやっぱり夢おちでないのね」
感覚的におそらくそうではないだろうなと思っていたけど、心のどこかで期待していただけに落ち込む。しかし、やはりまだ現実味ないだけに涙はでない。それよりもようやく身の危険から回避できた安堵感のほうが勝っていた
とりあえずベッドの中から立つ。
「あれ?なに?この服」
服装がかわっていた。ぱっつんぱっつんになってたシャツとスーツのスカートだったのに、真っ白いワンピースになっている。
正直だれが着替えさせたんだか気になるが、こんな高級そうなベッドに寝かすのに2日も森林の中をさまよい続けた泥と汗でどろどろの服ではシーツがかわいそうだ。女性がかえてくれたと信じよう。
「ん?あれ?傷がない・・・」
服の丈などをみていて、自分の足がつるつるで傷どころか古傷やシミ、毛までなくなっている。
まるで高級な永久脱毛してエステで磨き上げたような足。
ますますこの世界が現実味なくなってきた。本当に夢でないのかなあ。
いろいろ考えていても結論がでないので情報収集をしに部屋をでようとノブに手をかける。
「よし。だれか捕まえて話を聞こう。とりあえず連れてきてくれた青くんを探すか」
初めて会うことの出来た18ぐらいの少年を色彩からとりあえず青くんと呼ぶ。名前を聞く暇もなかった。ジャニーズにいそうなぐらい顔整っていたな。やさしそうな少年だったから悪いようにはしないでくれるだろう。
するならすくなくてもこの部屋でなく牢屋とかに入れられるだろう。なにより言葉が通じてよかった。
「青くんってだれですか?」
「!!」
なんでこの世界の人は思いもよらない声かけをするのだ。部屋の外にもでてないのにさっき部屋を見渡したときだれもいなかったのになぜ部屋の中から声がするのだ。
つばを飲み込みながら後ろを振り返ると、青年が自分の真後ろに立っていた。黒髪に黒い眼。日本人の色彩なのに顔立ちはどう見ても日本人ではない。ギリシャの彫刻のように計算された顔立ち。さっきの青の少年も美形だと思ったがそれをはるかに超える造詣をしていた。
肩まである長髪をしていたがよく似合っている。
「えっと・・・。つれてきてくれた青い髪と眼をしてくれた少年です。勝手にそう呼んでみただけですけど・・・」
そう言った瞬間、彼は意表をつかれたのか眼をすこし大きくしたあとこらえ切れないという肩をゆらしながら噴出している。
「クックック。会ったばかりであのエダにあだ名をつけるとは・・・」
「だって名前も知らないし・・・。とりあえずつけただけです・・」
そんなに笑われると恥ずかしくなってしまう。心の中であだ名をつけてしまうのは私のくせだ。そうしたほうが覚えやすいのでだれにたいしてもつけてしまう。
しかし、この美形の兄ちゃんはどうやってこの部屋に入ってきたのだろう。あ、そうだ。別に青くんでなくてもいいのだ。とりあえず情報収集しないと。
「あの・・・。それよりここってどこなのか教えていただけませんか?あ、その前に私は橘風香といいます」
やはり先に名乗っておくのが日本人としての礼儀だろう。しかし、それに彼はありえないほど吃驚した。
「え?タチバカフウカ?」
「あ、私個人は風香といいます。どうされました?」
そんなに変わった名前だろうか?それとも知り合いにいるのか?こちらの世界ではありえないか。
「それ以前になぜ名前があるんですか?もうすでにレイヤにあいました?」
「レイヤってだれですか?」
会話が成り立っていない。そんなに驚くことなのか?名前があるのが当然だと思いますが・・・・。
「ちょっと失礼」
彼はすっと私の頭に手をのせる。何をしているのかわからないけど、彼の暖かい体温を感じてじっとしておいた。いやってほどのことではないし、ちょっとなでなでされている感じできもちがいい。
「フウカ?あなたは日本と言う国で30年間いきてきたのですね?で、いきなりこちらに連れられてきた。違いますか?」
おお。テレポートの次はテレパシーか。すごいサイコな国だなあ。
「はい、そうです」
説明が省けた。ありがたいけど、やはり恥ずかしい。私のへんな過去まで見られていたらいやだなぁ。小学校の身体測定のときのトラウマとか・・・。
そんなことを考えているのも聞こえたのかいいタイミングで彼は頭からすっと手を退けた。
「とりあえずレイヤのとこ言ってから説明しますよ」
なるほど。説明はそのレイヤって人でないとだめなのかな?何度もでてきた名前なのでさすがに覚える。というよりその名前しかほとんど出てないけど。と、目の前の美形の兄ちゃんの名前も聞いてないことを思い出す。
このままだと美形兄ちゃんがあだ名になってしまう。これまた、いいタイミングで彼は名を教えてくれた。
「ちなみに私の名前はゼノン。よろしくね」
美形兄ちゃんもといゼノンはにっこりとこちらに笑みを浮かべながら手招きする。さすがに美形の微笑みだけに破壊力抜群だ。三十路の女にも効果絶大。紅くなりながらもごまかすように顔をさわりながら彼について部屋を出た。
ようやく、主人公の名前が出てきました。
ちなみに小学校の身体測定のときのトラウマは作者のトラウマです。