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女神の憂鬱  作者: 灯星
29/86

29.闇神からの安らぎ

 すこし長いです。延々とゼノンの回想を書いています。

 最初見たときから惹かれていた。

 エダが抱いて連れてきた少女。外見も素晴らしいものだがそれ以上に美しい神気。神殿で保護をして彼女が目を覚ました途端、その姿を見たくて仕事を放り出して見に行った。

 起きた彼女の純粋な眼の輝きを見て、レイヤやエダを出し抜いて会いに来てよかったと思った。彼女の眼には自分しか映ってないからだ。

 エダのことを青くんと呼んでいるのをからかうと恥ずかしそうに頬を染める。

 そんな彼女を見て今まで恋愛にそれほど興味なかったけど、彼女なら口説いてみてもいいと思った。

 話してみてあり得ない事実を知る。

 彼女に名前がもうあるのだ。風変わりな名前。もうすでにレイヤが会って付けてしまったのか?できれば自分が付けたかったのだが・・・。

 しかし彼女はレイヤの名前にも無反応だった。

 この状態を解明したくあまりよくないことだが、彼女の記憶を読みとる。この力は最古神であるレイヤとゼノンのみに備わった力である。

 彼女の中の記憶が自分の中へ一気に流れ出る。

 生まれたときから30年間の彼女の歩み。異世界の日本という国で、戦とは無縁な平凡な生活を満喫していたのに、いきなりここに連れてこられたようだ。なぜそのようなことになったのか謎だが、いままで29人が誕生したときとは大きく異なっている。

 レイヤもそれを知り、消してしまおうとしたが彼女は断固拒否した。自分たち2人はここに住む者のだれよりも長い生を過ごしていた。だから人としての記憶を持ち合わせたまま神になることが、いかに苦痛になるか予想できていた。

 それでも彼女は記憶を残すことを選択した。自分としても30年の彼女の人生を視てしまっただけに、消したくないと言う気持ちがよく分かる。それに彼女の眼の輝きが違うものになってほしくないと思ったのだ。

 とりあえず慣れない彼女に侍女を付けるという話になり、セレーナを呼び出す。自分の側で補助をするワトンに次ぐほど有能な闇の精霊だ。彼女なら選ばれるだろうし安心できる。


「悪いが癒しの女神の侍女に立候補してくれないですか?」


 執務室で彼女にそういうと一瞬びっくりしたように顔を上げ、次にうれしそうに微笑みながら頭を下げる。


「ゼノン様からの命令でしたら喜んで立候補いたしますわ。あの神気のおそばにいられるのは、どの精霊にとっても幸せなことですから」

「本当にうらやましいね~セレーナ。僕でもおそばにつけるものならいたいものだよ。男はダメらしいから無理だけどね」


 自分の隣で補佐をしているワトンが、本当に残念そうにため息をついている。半分は冗談だが、半分は間違えなく本気で残念がっているのだろう。付き合いが長いだけによく分かる。


「立候補したいならしたらいいですが、どうせレイヤが選びませんよ。女神のそばに男の精霊をつけるようなことはできませんからね」


 冗談でそういうとワトンがますます顔をおもしろくなさそうにゆがめる。


「わかってますよ。だから無駄なことはしませんよ」


 幼い顔立ちの精霊を見てクスッと笑ってしまう。


「じゃあ諦めて今までどおり私の右腕でいることですね」

 

自分がそう言うと今までの表情をなくし一転して、面白いものをみつけたような顔になって冗談だか本気だかわからないことを言ってくる。


「そうだ。それならゼノン様が恋人か夫になってくださいよ。そしたら僕らも接する機会がふえますから!」


 期待一杯の眼で見上げてくる。


「まあ努力はいたしましょう。ただ、ライバルは多いでしょうからどうなるかわかりませんけどね」


 そう控えめに言いながらもそれなりにやる気になっていた。





 

 女神として規格外な彼女に、レイヤとエダと3人でいろいろと教えるということになった。

 本来忙しいほうだったが、あまり彼女と接する神を増やしたくないので、なんとか時間を作ることにした。

 そしてはじめての授業で飛行術を教えるとともに、人間界に連れて行くことをした。

 生まれたら早いうちに人間界に降り、存在を示すのが慣わしになっている。

 実際は空を飛んだだけだが、それで十分に神官などの職についているものには伝わっただろう。

 飛んでいる最中、彼女が怖そうに自分の身体にしがみついていた。震える姿がなんとも可愛らしく自分の独占欲をひどく満足させていた。それであえて手を掴むだけでいいとは言わずに、抱きかかえる形で長い間飛んでいた。

 しばらくして彼女も慣れてきたが、この体勢はそう言うものだと思っているようで別に抵抗もしない。

 だが、その時間も頭に響く片割れの声で中断せざるをえなくなる。


『おい!いつまで飛んでいるんだよ。次は俺の番なんだからさっさと代わりやがれ』


 思わず舌打ちをしてしまう。

 びっくりして腕の中でこちらを下からのぞく彼女に説明する。


「レイヤがそろそろ代われって言ってきているんですよ。昨日夕方一緒にいたくせにね。ほんとうはもうすこし、こうしてひっついておきたかったのですけど・・・」


 ついその感触が名残惜しくて抱きしめる力を強めてしまう。 

 夕食の話になりつい強引に同席を願ったが、すんなりと了承してくれる。

 おそらくレイヤが今日も一緒に食べるつもりだっただろうが、先に約束してしまえば自分と一緒に食べようとしないことはわかっていた。仲悪い兄弟ではないが付き合いが長すぎるので、別に食事まで一緒にしたくないのだ。

 そして夕食時、とんでもないことを聞く。

 瞬間移動をしようとして失敗して、噴水に飛び込んでオリセントに会ったと言うのだ。

 なんと危険なことをするのだろう、この娘は。

 自分がどれほど稀有で魅力的な気を放っているか、自覚がなさすぎるのだ。

 まだ、あの堅物で紹介する予定だった戦神だったからよかったが、他の神や強い精霊共であれば脅しや冗談でなく監禁されて、無理やりにでも自分のものにされてもおかしくないのだ。まだまだ神気はあっても使いこなすことのできない彼女に、抵抗する術はないだろう。

 気が付いたらかなり脅してしまったようでかなり彼女の顔が青ざめている。

 本当にいい表情しますね。自分の言葉や行動でここまで表情がかわるのが楽しいと思えるとは、考えもしなかったですよ。

 申し訳ないと思うより楽しいと思ってしまう自分の性格の悪さに、いまさら気が付いてしまった。

 結局、瞬間移動は彼女の性質のためにしばらくお預けとなる。

 周りの神が紹介しろとうるさく言ってくるようになると、レイヤやエダ、オリセントと相談し牽制もかねてお披露目をすることとなる。正直やりたくないと言う気持ちもあったが、このまま隠し通せるわけもないし、焦れて強行突破に出るやつが出てもおかしくない。

 そう思ってしたのだが、正直彼女の着飾った姿をみて軽く後悔した。

 これでは逆に煽ってしまうだけかもしれない。

 予感は的中して壇上で挨拶する彼女を見て、多くの者たちが見惚れている。このままでは挨拶が終わったと同時に、人が押し寄せてくるのが目に見えていた。

 レイヤと目配りして隣の控え室に彼女を連れ出す。

 挨拶は必要だが、自分とレイヤが監視しながらすることにしたのだ。そうすれば暴走する者もでないはずだ。とりあえず一番目に彼女も会いたいと言っていた、唯一の夫婦であるジューンとダリヤを呼び出す。控え室に行く途中で大地の女神にこうからかわれてしまったが・・・。


「本当に貴方たちは彼女を可愛がっているのね。気持ちは分かるわ~。さきほど緊張しながらも挨拶している姿は、本当庇護欲をそそられるものがあったもの。それに実際彼女に近づきたくてみんなの眼の色が変わっているからね」


 夫婦との会話でフウカもずいぶん肩の力が抜け楽しそうにしていたが、そうしている間に様々な神が会わせろと自分とレイヤに抗議してくる。

 まあそうなるだろうな。

 仕方ないので切り上げてもらい、流れるように神たちが3人ぐらいずつ挨拶に来る。

 中にはなんとか近づこうと、積極的に話かけたりしている者や贈り物をしようとしている者もいたが、レイヤと自分で無言の睨みを利かせて退散させる。

 その成果もあって挨拶が終わって、彼女が名前を覚えていたのはほとんど女神だけだった。

 しかしその夜とんでもないことが起こる。

 夜も更け寝ようとしたとたん、ベッドのすぐ近くで誰かが移動するときに発生する空間のゆがみが起こった。


 だれだ?


 そう思う間もなく自分の隣で、今日お披露目の主役だった癒しの女神が目を閉じながらつぶやいている。


「でも、起きているかどうかってどうやって調べるのだろう?」


 そういいながらゆっくりと目を開ける。


「え!」


 自分から来たのにこの状態を把握してないようで、驚きを全面に顔に出している。

 理由を聞くと寝れなくて自分の気を探ろうとしたら、間違って跳んできたと。まったく、この子はあぶなっかしい。他でもない自分を探してくれたことには純粋にうれしいが、この状態でそう言われてまったく手を出さないほど、男として枯れているわけでも理性的でもない。

 趣くまま彼女をベッドに押さえつけるが、慌てふためく彼女を見てすこし冷静になる。

 でもこのまま帰してしまうのも嫌なので唇だけ奪う。

 絡めとるような口付けもできたのだけど自分の理性を保つためと、初めてであろう彼女に対して触れるだけで済ました。

 自分と親しい者だけに渡す匂い袋を贈り、結局その日は部屋まで送り届けた。

 まあ神としての初めての口付けを頂いただけで満足しましょう。






 深夜。自分の周りに集まる気の中で異質なものを感じ取る。

 なんだ。このひどく不安定で悲しげな気は。

 夜になると闇の神である自分の力が増しわずかな気の変動にも過敏になる。


「フウカ?」


 集中してその気を探ると癒しの女神から発されていた。

 彼女のそばに移動すると、寝ながら彼女の搾り取るようなうめき声をあげていた。


「ごめんなさい!そんなことまで私にはできないの!」


 日ごろの彼女からは想像できないほど、その彼女の表情は苦悶に満ちていた。眉間に一杯しわを寄せ、辛そうになんども謝っている。

 彼女の上体を抱き上げる。少し安らぎの気を与えながら何度も彼女の名を呼ぶ。


「私だって女神になりたくてなったわけではないの!ただの人間なの!!」


 今日オリセントから彼女の活躍を聞いていた。戦場に降り立ち、人に呼びかけ、戦争を止めて、溢れるばかりの癒しを与えたと。あの冷静で沈着な戦神が興奮したように、彼女を絶賛していた。


『それでも彼女ははじめて戦争を目にして、衝撃を受けているはずだ。それがどう彼女が受け止めるか分からないが、できる限り俺は支えになって、彼女の記憶を消すようなことにならないようしたいと思う』 

 説明し彼女に気遣いを見せる彼が、彼女に対して思いを抱いたというのはすぐに分かった。 

 やはりオリセントが言うように彼女は大きな傷を隠し持っていたのだ。


「フウカ!フウカ!!」


 抱きしめて揺らしながら何度も呼ぶ。

 やがて彼女は小さなうめき声をあげるのを最後に、ゆっくりと目を開ける。


「ゼノン・・・・」


 弱々しげに自分の名前を呼ぶ彼女に安堵する。


「フウカ・・・・。大丈夫ですか?」


 そう言うとしばらく状態を確認してから一度呼吸を整えてから、


「・・・うん。夢だったのね」


 とまるでなんでもないと言うように、柔らかく微笑みを見せてくる。だが、抱きしめている身体が小刻みに揺れている。彼女がやせ我慢をしているのは明白だった。


「フウカ。強がるのは止めなさい。私には弱音を吐いてもいいのですよ?」


 震えを止めたくて慎重に彼女を抱きしめて、彼女の顔を自分の胸に引き寄せる。このまま彼女を放置すると壊れて、記憶を消す羽目になると思った。それは自分が思っていた以上に耐えられないことなのだと今更に思い知る。この彼女だから惹かれたのだ。

 しばらくそのままにすると、彼女が小さな泣き声をあげる。


「こ・・・怖かったの。戦いで助けられなかった人が私を責めるの。お前が癒しの女神だから死んだって!数え切れないほどの手が私に伸びてくるの!」


 それだけ言うと必死にその体温を離すまいと、自分の胸に抱きついてくる。その姿を見て彼女に対しての愛おしいさが溢れるのをとめられない。黙って絹のような触り心地の髪の毛を落ち着かせるように、何度も撫でる。


「やっぱりこのまま女神でいることがダメなの?記憶を消したら完璧な女神になれるの?」


 今まで黙っていただけで、やはり彼女もそこに苦悩していたのだ。


「フウカ。完璧な神などいませんよ。私など欠陥だらけです」


 自分の感情に任せていろいろな失敗もした。それはレイヤにも言えるし他の神もそうだ。

 オリセントが彼女のことを絶賛していたことを告げると、びっくりしたように顔をあげてくる。涙は拭かれることもなく両目からあふれ出ていた。その表情は憂いに満ちていて、今まで以上に彼女を美しくみせている。


「神は万能ではないのです。全ての者を救うなどだれであってもできません。逆に全てを救ってはいけないのです。自然の摂理なのですから」


 そう言うとしばらく考え込むようにしてから、


「私はこのまま記憶があってもいいの?許されることなの?」


と、こちらに問う。彼女はどういう意図でこちらが言ったのか正確に把握したようだ。


「君はつらいでしょうが、君に関わった者たちはそのままのフウカでいてほしいと思っていますよ。私もね」


 そう言って彼女の頬をそっと両手で包み込むと、まだ涙があふれる色違いの瞳にそっと口付けする。そうするとより一層彼女の涙は流れる。


「泣きたいだけ泣きなさい。ずっと溜め込んでいれば、それは良くない闇として心に染み付いてしまいます。もう怖い夢を見ないように私の気を与えますのでゆっくり休みなさい」


 それだけ言うとゆっくりと頭を下げながら彼女に口付けした。できるだけ優しく唇だけを味わいながら安らぎの気を与える。

 しばらくすると腕の中で静かに彼女の瞳が閉じられる。

 安定した気を確認しながらゆっくりと彼女をベッドに寝かす。

 まだ乾ききらない涙が彼女の頬を湿らしていた。

 人差し指でそれをぬぐい、最後に軽く彼女の唇に口付けをする。


「どうしてここまで惹かれるのでしょう。おそらくレイヤもエダもオリセントも引き下がれないほど、君に心を奪われることになるのが目に見えてますよ。いえ、もうすでになっているのでしょうね。その危ういまでの人としての魂のせいなのか、癒しの女神の本質なのか分かりませんが。それでもそのままの君を間違いなく、私たちは欲しているのでしょうね」

 自嘲するように聞こえるはずの無い彼女に呟いてから、自分の部屋へ静かに移動した。


 あれ?なんかゼノンが一番フウカに惹かれているみたいになっちゃった。

 まあいっか。当初は光神は傲慢で嫌な神で双子の闇神が、主人公を庇って保護して彼女も光神に対してトラウマだらけの闇神を癒して、お互いに惹かれると言う設定だったし。

 まったく違う形になっていますけどw

 すこし文章がおかしかったので改正しています。でも話は変わっていません。

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