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女神の憂鬱  作者: 灯星
27/86

27.初めての料理

 サブタイトル・・・3度目の口付け

 

 どちらをタイトルにするか迷いました。

・・・・・・・・

 あれ?ここはどこ?

 白い天井に白い壁。そして大きなベットに私は寝ていた。一瞬、なぜ私がここにいるのか分からなくなる。


「あ、神の国だった・・・」


 すぐその理由を思い出す。ここは自分の部屋だ。次になぜ寝ていたのか思い出そうとするが、頭がぼんやりしてあまり動いてくれない。


「えっと・・・」

「気が付いたようだな、フウカ」


 誰もいないと思っていただけに、いきなりの声かけに飛び上がってしまった。振り向くと右は深紅、左は青の色違いの瞳をした大柄な青年が、ベットのそばに置かれた椅子に腰掛けている。


「オリセント・・・」


 戦神の顔を見て、さきほどまでの出来事を思い出す。人間界で癒しを与えるだけ与えて倒れちゃったんだった。


「あの戦いはどうなったの?」


 がばっと上半身を起こし、彼に近づく。すると私の頭にぽんっと大きな手をのせてゆっくりと髪を撫でながら教えてくれる。


「安心しろ。お前の活躍であの後すぐに終戦した。瀕死だった者まで瞬く間に回復してたぞ。まったく無茶をする」


 良かった!止めることができたんだ!

 死ななかった人が増えたのも嬉しい。


「身体は大丈夫か?一気に気を使ったからだいぶ疲れただろう。癒しだけでなく心音も姿現術も同時で使ったからな」


 言われてみれば身体がいつもより重い感じがする。そっか~。使いすぎるとこうなるんだ。聞きなれない言葉を質問するとすぐに答えてくれる。

 心音は人に心に直接話かけることで、姿現術は天に姿を映すことらしい。オリセントがやってくれたと思っていたがその手助け程度で、無意識に自分でしちゃっていたらしい。よく考えたら私にはすべての人の言葉が日本語に聞こえるが、そうではなく無意識に自分自身で変換しているそうだ。


「だって、どうしても止めたかったの。癒しを与えることはできてもその後、傷が癒えた者同士が戦えば意味が無いから」


 思ったより神のお告げを重視してくれる世界のようでよかった。こんな新米神でも聞いてくれるんだって思ってしまう。


「ああ。だから戦後に癒しを与えてもらおうと思っていた。おかげでかなりの数の人間が生き延びることができたぞ。本当に感謝する」


 戦神はまだ私の頭を撫でながらそう言ってくれる。

 役に立てたんだ!よかった!

 戦は予想以上に恐ろしいモノだったし、ここ数日は寝るときに思い出してしまいそうだけど、それが私の存在価値なんだから避けるわけにはいかなかったんだ。そこで無我夢中だったけど活躍できたんだ。


「ありがとう。ここまで運んでくれたのね」


 オリセントがここにいることにお礼を言う。あの後、寝ちゃったから運んでくれたんだろうし。


「だから礼を言うのはこっちのほうだ」


 なでていた手を止めて私の頭の上にポンっと置く。


「これからも止めれる戦争があるならがんばって止めようね。私のできることがあれば何でもするから」


 戦場は怖かったけど、止めれることがあるのならぜひ止めたい。その思いを伝えるとオリセントは今までに見たこと無いほど、優しい表情でうすく笑みを浮かべた。


「フウカ。俺は今日、お前が癒しの神でよかったとつくづく思ったぞ」


 そういうと頭に置いた手で私を彼のほうに引き寄せる。そして、美しいオッドアイの眼が近づいてきたと思うと、そっとやさしく口付けしてきた。触れるだけのキスで気が付いたら離れていた。


「じゃあ今日はゆっくり休め。お前の考えている以上に身体も気力も疲労しているはずだ。無理して動こうとするなよ」


 それだけ言うとこちらが返事する前に一瞬で姿を消した。


 ま、またキスされてしまった!


 ゼノンからはじまりレイヤにされ、さらにオリセントまで・・・。みんな不意打ちだし。

 でも問題はだれも嫌だと思わなかったことだよね。

 うーん。

 と、とりあえず。私に隙がありすぎるってことよね。気をつけよう。

 それにしてもレイヤは言ってくれたけど、ゼノンもオリセントもどういうつもりなのかなぁ。


 ん~。とりあえず女神がいるから口説いとけ、みたいなものかな?


 ま、いっか。考えても仕方ないことは考えないに限る。

 これが処世術だ。






 さて、これからどうしよう。

 まだまだ夕食にするには時間がある感じだ。

 寝てしまいたいような気もするけど、これ以上寝ると夜が寝れなくなるかも。


「なんかなつかしいものが食べたい・・・」


 できれば和食で。

 白い炊き立てのご飯。あさりの味噌汁。だし入りの卵焼き・・・・。

 食べたい。

 でも、そんな食材がここに存在するのかわからない。調理場の位置すらわからない。

 なかなか無謀かも。

 でも食べられないとなると余計に食べたくなるものだ。


「セレーナに聞いたらわかるかなぁ?」


 そう口に出しただけですぐに彼女が姿を現す。すごい早い。


「仕事中なのにごめんね。ちょっと教えてほしくて・・・」 

「わたくしにとってフウカ様のお傍にいることが最優先ですから、お気遣いなくなんでも申しつけてください」


 本当になんでもないと言うように言ってくれる。

 お礼を言って、お米と卵など存在するのか聞く。

 セレーナは少し驚いたように目を大きくしてこちらを見てたが、やがて手を頬にあててしばらくの間考え込んでいる。


「卵はソウ鳥の卵ならすぐにございますわ。ただ、そう言う植物のほうはおそらく人間界の一部の民族に食す習慣があったと思いますが、さすがにすぐに手に入りませんわ」


 なるほど。でもあるんだ。


「じゃあ、動物のミルクと甘い粉のようなものない?」


 牛乳と砂糖だ。これがあればプリンができる。本当は甘くないものがいいんだけど、ご飯がないならデザートにしたほうがいいよね。

 聞くと代用できるものがあると言うことで、さっそく調理場を聞く。


「2階に私が普段使用している調理場でよろしければご案内できますけど」


 へ~やっぱりあの料理はセレーナが用意してくれていたんだ。


「じゃあそこまで連れて行ってくれる?できれば歩いて行きたいんだけど」


 そういうと頑なに拒否される。


「そのようにいたしますと、わたくしがゼノン様に消されてしまいますわ。2階は精霊で溢れかえっていますので、廊下を歩くたびに足止めされて調理場までたどり着けなくなりますよ」


 なんでゼノンに消されるのかわからないけど、たしかに前みたいに精霊たちに囲まれるのは遠慮したいかも。

 早く道を覚えたかったけど、仕方ない。今回は甘えることにしてセレーナに連れて行ってもらった。

 しかし、そこで愕然とする。

 調理器具が知っているものとまったく違うのだ。まず、コンロがない。オーブンもない。しいて言うならピザを焼くような石釜か。でも中に入れる炭もないしスイッチもない。

 どうやって火をつけるのだろう?


「これはここにすこし気を送ったら火の力になって、この空間自体が高温になるのですわ」


 そういって、石釜に手をかざす。その途端に、石釜の煙突から煙が出て熱気が釜からあふれ出てきた。

 すごい仕組みだ。ほんとうに神の国なんだなあって感心する。とりあえずこれで蒸すことはできそうだ。

 鍋、器、漉す物、かき混ぜる物に容器に・・・と代用できるようなものを棚の中から物色する。

 私が探している間にセレーナは卵に牛乳に砂糖を持ってきてくれる。

 卵は鶏より一回り大きかったが割ってみると、同じように黄身と白身に分かれていた。

 ミルクは牛乳でなく山羊っぽい生き物の物で、味はすこし濃厚だけどおいしかった。

 砂糖は三温糖のような色で、舐めてみるとおどろくほど上品な甘みがただよっていた。

 うん。これならできそう。わからないことをしつこく聞きながらなんとか形になった。

 表面は火加減がわからなかったので、少しすがたってしまっているが形にはなっている。


「問題は味ね」


 セレーナと同時でくちに作ったばかりのプリンを入れる。

 甘いなつかしい味が口の中にひろがる。


 これ!これよね~。


 隣の彼女も幸せそうな表情をしている。かなり甘党のようだ。


「本当においしいですわ。少ない材料でこんなにおいしいものができるなんて信じられませんわ」

「よかった。成功ね。冷やすとまたちがう味わいになるから半分は冷やしておくね」


 そう言って5つほど氷の保冷庫に入れる。冷蔵のほうがいいけど、冷凍で固まっちゃってもおいしいからいいか。だってここの保冷庫の温度分からないもん。


「そうだ。せっかくだしノアにも1個あげてくれる?」


 そう言ってセレーナの分とふたつをかわいく包み渡す。

 あと、4つ余った。

 全部食べるのはきついしだれかにあげよう。

 でも甘い物が好きかわからないし・・・あ、そうだ。

 先日お邪魔した大地の女神のことを思い出す。

 ダリヤは好きだったね。ジューンは好きでなかったけど、ウリュウはわからないので2個渡しておこう。可愛くリボンもつけて包みちいさな籠に入れる。うん。いい感じ。

 あと二つは夕食時に持ってきてもらおうかな。他の人は甘い物が好きなら冷えたものをあげたらいいし、二つなら食べれる。


「じゃあダリヤ姉さんに持っていくことにするね。あ、自分で跳んで行くよ」


 ここが2階でダリヤ姉さんの部屋は4階だ。私の部屋からそう遠くなかったから分かるはず。

 セレーナはしばらく難色を示していたが、もし間違ったところに行っちゃったら迎えに来てと、お願いするとなんとか許してもらった。

 だって練習しないといつまでも跳べないままだもんね。


「今日はありがとうね。セレーナと久しぶりに料理できて楽しかったわ。じゃあ行ってきます」


 手を振ってからダリヤ姉さんの顔と部屋の場所を思い浮かべて跳ぶ。


 あ、あれ?


 部屋の前の扉に跳んだはずなのに、景色が変わった途端ダリヤが目の前にいた。

 あー部屋の中まで来ちゃったんだ。


「ご、ごめんなさい、姉さん。まだ上手く跳べなくて・・・」


 なんとかダリヤの部屋には来れたけど、目の前にいきなり現れたらびっくりするよね。でも姉さんは笑いながら否定してくれる。


「いいのよ~。来ることは気配で分かるから。来てくれて私もウリュウもうれしいわ」


 そう言われて初めて昨日生まれたばかりの火山の神が、ダリヤの隣でこちらを微笑みながら見ているのに気が付いた。


「こんにちは、フウカ。昨日は生まれるときに傍にいてくれて本当にありがとう」


 生まれたてなのに本当に礼儀正しいな。笑顔もすごく可愛らしいし。


「ううん。立ち会えて私のほうこそ嬉しかった。これから新米の神としてお互いにがんばろうね!」


 ウリュウに笑顔でそれだけ言うと、ダリヤのほうを向いて今日の目的の物を差し出す。


「これ、おすそ分けです」


 籠を差し出すとダリヤはありがとうと受け取りながら、中身を確かめている。何かわからないようだ。


「甘い匂いがしておいしそうだけど、こんなお菓子初めてみたわ。なんて言うの?」

「プリンと言います。私と精霊で作ったの。ちょっと火加減がわからなくて表面にすがたってしまったけど、味はまあまあいけると思います」


 作ったと言うと二人ともが驚いた表情をする。


「まぁ~。フウカの手作りなの?素敵だわ」


 ラッピングしたプリンを本当にめずらしそうに眺めている。たいした料理でないし表面が美しくないから、そこまで感心されると恥ずかしくなる。


「ウリュウが甘い物食べれるかわからないけど、2個用意しました。できれば今日か明日までに食べてくださいね」

「うふふ。すぐに頂くわ。ウリュウもそこは私に似たようで甘い物食べるわよ」


 あ、そうなんだ。よかった~。

 じゃあと帰ろうとしたとたん、ダリヤに腕を軽く捉まれて引き止められる。


「さっき、火加減がどうって言ってたわね。よかったら今度なにか作るときに、ウリュウに手伝わせて頂けないかしら?」


 え~~~。神さまを厨房の手伝いに?

 自分を棚に上げるけど、なんか恐れ多いような・・・。


「火の系統なので調節はお手の物だわ。そういう微調整も彼の修行になるからお願いしたいの」


 あ、なるほど。そう言うことなら理解できる。


「じゃあお願いします。私ほんとうにここの調理器具とかわからないから助かるわ!」


 ダリヤにお礼を言ってウリュウにお願いすると、二人ともほんとうにうれしそうにしてくれる。


「では、そのときお願いね。今日は帰ります」


 私はそう言ってこの場から退出する。この距離なら移動できるだろう。白い部屋をイメージするときちんと自分の部屋に跳ぶことができた。よし、少しずつマシになってきたぞ。






 一方。


「ありがとうございます、母上」

「ウフフ。こうでもしないとライバルのあの4人が、側に寄る事も妨害しそうだしね。あとはがんばりなさい」


 私がいなくなった部屋で二人がこんな会話をしているとは、私が知るよしもなかった。

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