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女神の憂鬱  作者: 灯星
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26.戦神のつぶやき

 今度はオリセントの番です。

 最初に彼女を見たのは、ほんとうに偶然だった。

 ある目的で噴水のそばを歩いていると、女性の叫び声と水色の布が真上から降ってきた。

 水の精霊か?

 そう思ったが声が悲鳴だったので、考えるより先に噴水に飛び込み彼女の下敷きになる。

 小さいので子供の精霊かと思ったが、そのときに当たった胸の感触はずいぶん成熟したものである。


「!」


 顔を見た瞬間、自分の勘違いを悟った。どう見ても精霊ではない。この強く輝く気は神以外ありえないものだ。自分自身も大きいほうだが、それに負けず劣らずの輝きをしている。さらに眼の色が自分と同じでオッドアイなのだ。金と薄紫色。すこし垂れ眼なためにずいぶん幼くみえる。優しげな顔立ちでずいぶん整った顔立ちだ。

 こんな女神はいなかったはず。生まれたてか???

 と、言うことは・・・。

 思考に行き着く前に、彼女が自分の左腕をそっと撫でる。自分でも気がついてなかったが小さな傷があったようで、それが瞬く間にふさがり姿を消していく。


「例の評判になっている癒しの女神か」


 確信を持って言う。

 とうとう現れてくれたのだ!我が同志が!

 長かった。自分が生を受けてから人々の間で争いが始まり、それを制御しながらも全てを制しきれずにいた。レイヤとゼノンや他の神々も手助けしてくれるが戦争は過激化していくばかり。

 せめて守護と癒しがあればと思うが、なかなか生まれることもない。そうして150年が過ぎる。このままではこの下界その物が破壊されるとまで感じていた。

 そんな時、癒しが生まれたとレイヤから伝言があり、仕事を大急ぎで終えて神殿に戻ってきたのだ。

 女神でも神でも関係ない。どちらでもよかった。


「俺はオリセント。戦を司っている。癒しの神の光臨を何よりも待ち望んでいた。歓迎するよ」


 100パーセントの気持ちをこめてそう言うと、彼女はうれしそうに微笑んでくれた。水の中から引き上げると、彼女の服装が嫌でも眼についてしまう。いや、正確には服装でなく水に濡れたせいで、豊満な女性特有の体のラインが鮮明に見えている。ひどく官能的な姿だ。

 そこで水の神エダがやってくる。いつも嫌味なほど冷静な彼が見たことも無いほど慌てている。

 とりあえず、これから彼女と深く関わっていくことになるのは必然なのだから、何もここでこれ以上話する必要もない。そう考えて後から来た少年に彼女を任せた。

 しかし、あの顔立ちであの体つきはなんとも言えない色気がある。それになにも分かっていないと思わせる無垢な瞳で見詰められると、自分のモノにしたいと会ったばかりと言うのに誘惑に駆られる。あれは男性神が騒がしくなるな。先ほど見たエダもその気のようだし・・・。


「ともかく、俺は本気にならないよう気をつけよう。仕事でだれよりも傍にいられるのだから」


 その後、レイヤとゼノンの二人さえも彼女に執着しているのを知り、その決意を強く持つようにする。

 だが、それを彼女はいとも簡単に破ってくれる。






 初めて彼女と話する機会。授業と言う形でレイヤとゼノンとエダと、そして今日から自分で時間を持つようにしている。話を聞いてびっくりしたが、彼女は人間としての記憶を持ち合わせているらしい。そのようなもの持っていても、長い生の中辛くなるだけだと思うが、彼女がガンとして消したくないと言う。それで女神としての自覚や能力が不安定なために、このようなことになっている。

 他の3人はそれぞれ激務があるだろうに、嬉々として時間を作って授業の講師になっているようだ。今までどちらかといえば、恋愛に興味など見せなかった3人の変貌に唖然とする。

 彼女は話の中で色と精霊のことについて聞いてくるから、自分たちは精霊と子を作らないかぎり自分の系統の精霊はできないというと、すこし考えるようにこう聞いてくる。


「じゃあ私が精霊と子供作ったら、癒しの精霊になるのですか???」


 実際にはそれは正解だが、癒しの精霊が生まれることは皆無に近いだろう。

 あの上位3人が他の神や精霊の視界から、彼女を隠しているのはあきらかだ。

 神であるなら我慢もできるが、精霊に貴重な女神を渡すはずもない。


「まあそうなるだろうが、神たちがそんな隙を作らせないだろう。俺もそれは阻止したいな」


 そう言うとわからないと言うように顔を見上げている。あれほどあからさまに他の者から隠されていながら自覚がないのか?

 とりあえず忠告しておくことにする。


「女神が少ないと聞いているだろう。それにフウカの神気が一番つよいとも。話した感じではレイヤやゼノン、エダまでこぞって興味持っているし、他の神も見られないだけに余計に興味津々だ。俺もできるなら立候補したいと思っているからな。精霊が近づく隙など作らせないさ」


 本気で口説いているわけではないが、彼女が興味を持ってくれるならいくらでも受け入れると言う意思表示で、最後に自分のことも言う。

 実際彼女に魅力を感じている。ただ、ライバルも多いしまだ彼女が恋愛まで頭が回っていないようなので、積極的に口説いたり行動したりしないでおこうと思った。

 しかし、今日の衣装は昨日以上に艶かしい。顔に合わない女性特有のラインにぴったりと張り付いた服で、胸はストールで隠しているがスリットが深いために動くたびに足が見えている。

 光の衣装だからレイヤの趣味だな。まったく・・・。最高神のくせになんという趣味だ。

 ふたたび忠告だけして本題に入る。

 自分としては今すぐにでも戦場に連れて行きたいが、まだ女神になって浅い上に人間として記憶がある彼女には過酷すぎるだろう。

 彼女は癒しの神としての役目を聞いてくる。とりあえず、まだ早いかと思ったがいつかは行くという覚悟を決めてもらうために、戦場に行く必要性を説く。

 少しの間。彼女は青い顔をしながら下をみていたが、やがて決意を固めたように顔を上げて、しっかり自分の眼を見ながら言う。


「次、オリセントが担当になってくれたときにぜひ連れて行ってください」


 それを聞いた瞬間、自分の中でなんとも言えないほど、目の前の彼女に対しての気持ちが大きくなる。

 気がついたら抱き寄せていた。


「すまない。正直女性に見せるものではないと分かっている。でも見ないことには癒しを施すこともできないだろう」


 できればこの瞳にあの地獄を見せたくない。だが、見せなければ彼女の存在価値が無くなるのだ。そのために生まれてきたのだから。


「生まれてきてくれてありがとう」


 気持ちが高ぶって思わずそう言うと、彼女は本当に美しい笑顔を浮かべた。






 彼女のお披露目があるということを口実に、彼女との授業をその後にしてもらう。少しでも彼女を戦場に連れて行くのを遅らせるためだ。

 自分の中でもお披露目が終わったら、一番目の授業をさせてもらうと決めていた。

 お披露目の翌々日がその日になった。

 自分が部屋に入っていくと、彼女はすこし固い表情を浮かべている。

 戦場に行くという話を思い出しているのだ。思わず、生まれたというジューンとダリヤの子のことを理由に延期の提案をするが、彼女はそれが彼女だけのためであると見破り頭を左右に振る。

 そして彼女を軽く抱きながら連れて行くこととなる。少しでも彼女が帰りたいと言ったら、迷わず連れて帰ろうと決意していた。

 戦場に着いた途端、彼女は血の気がなくなるほど真っ青な顔をして自分の腕の中で、目を閉じ両手で頭を抱えるように耳を防いでいた。

 見慣れているはずの自分でも気分が悪くなるような光景。何万と言う人が武器で殺し合い、視界が血で真っ赤に染まっていた。今まで見たことも無い残虐な光景に彼女が耐えられないのは当然だ。

 抱いているので身体が恐怖で小刻みに揺れているのが伝わってくる。


「大丈夫か?フウカ。とりあえず、いったん帰るか?」


 そう言って抱く力を強めるが彼女は大丈夫と言い、ゆっくりだが塞いでいた手を除け、目を開ける。

 その瞳はしっかりとこの現実を受け止めていた。

 ならばとこの戦いの原因を告げる。

 善悪がはっきりしているような戦いであれば、自分が善のほうに手を貸すこともできるが、今回のものはどちらもただの犠牲者だった。だから自分が出ることはできず、彼女を連れてくることとなったのだ。


「今日は見るだけで帰るが、できれば近いうちに希望として癒しの力を彼らに与えてほしい」


 今言うには彼女に過酷な願いをしたが、それに対しての彼女の反応は肯定ではなかった。

 自分が姿を現して戦を止めると言うのだ。

 神が姿を現すことはタブーではないし、実際自分が現すこともあった。しかし、生まれたてで初めてこのような地獄を見てそれを言うのか。女神としての自覚と言うより人としての記憶がそう言わしているようだ。


「今すぐその無意味な殺生をやめなさい。我が名はフウカ。お前たちの戦いの元である者は、もうすでに戦神オリセントによって天罰を下されています。この戦争に双方とも利はありません」


 顔だけ天に映して心音で、その場にいる全ての者に伝わるようにする。

 確かに自分が少々手伝いはしているのだが、大半が彼女自身の神力を使って無意識で行っていると自覚はないようだ。制御はまだにしても自分と同等の力を彼女はなんなく使っている。

 地上では戦は完全に制止し、命あるもの全てが彼女を見上げている。


「私は癒しの女神です。武器を収める全てのものにひとまずの癒しを与えましょう。戦うより前に話し合い、相手を慈しむ心を養ってください。そういう者には私から祝福を授かることになるでしょう」


 戦いを止めるだけでなく、諭す。おそらくそれは人としてのフウカの言葉に感じた。

 そのとき、なぜ彼女が人の記憶を持ち合わせたまま癒しの女神となったのか悟った。おそらく女神として最初から生まれていれば、癒しを与えることしかしなかっただろう。そもそもそれが彼女の役割なのだからそれで正しい。


「じゃあ癒しの力を与えるね」


 そう彼女が告げた途端、彼女の体の気が大きく膨れてそのはみ出したものが彼女から離れる。球状になった彼女の気は見る見るうちに巨大になり草原一帯を覆う。

 それを見届けた瞬間、彼女は安心したように笑みを浮かべて自分のほうに倒れてきた。

 考えるより先に彼女を抱きしめる。


「ゆっくり休むがよい」  


 そう言いながら彼女の髪に顔をうずめ、唇を頭に当てる。


「俺のそばにお前が来てくれたことを今ほど感謝したことはない。できれば俺をいつか見てくれ」


 彼女が意識を失っていることは分かっているが、どうしてもそう告げたかった。

 未だ腕の中で眠る彼女を抱きしめながら、ゆっくりと天界にある神殿に昇って行く。瞬間移動も可能だが少しでも彼女に負担をかけたくなかった。それに彼女が腕の中にいるという事を味わいたかった。


「こうなりたくなくてセーブしていたが無駄だったか。ライバルは多いが、かと言ってもう諦められる状態ではないしな。フウカ、悪いが覚悟を決めてくれ」  


 しかし自分の声を聞く者は誰もいなかった。 

 2人目落ちました。彼らがこれからどうフウカに接していくか作者自身わかりません。キーボードを打つ指しだいです。

 少し最近、戦争シーンとかばかりなので書きながらよくつまずきます。

 難しいですよね~。

 

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