20.挨拶&姉さん登場
周りの景色が一転する。
その瞬間、いきなり大きなざわめきが聞こえていた。辺りを見渡せば・・・・
人!人!人!!
そこは大きな会場。
私はレイヤに支えられる形でその場の上段にいた。そのすぐ下では25人ほどのとても優雅な服装をした人々がこちらを見ている。さらにそれからだいぶ下った所には軽く200人は越える人がやっぱりこちらを見ている。
は、恥ずかしいし、足が震えるよ!
人といっても神か精霊なんだろうけど、何百という眼が自分に集中する経験なんかそうそうしてないもん。
でも抱えられているこの姿はもっと恥ずかしいと思い出し、そっとレイヤの腕から離れて震える足を叱咤しながら1人で立つ。
「みんな、よく集まってくれた。いまから新しい神の紹介をするから、すこし静粛に」
隣でレイヤ軽く腕を上げて言うと一瞬でざわめきが消える。
あ、ここで自己紹介すればいいのね。眼で確かめるとレイヤが軽くうなづいてくれる。
まずは軽く深呼吸する。よし!
「本日は私のためにお集まりくださりありがとうございました。癒しを司っております。名前をフウカと申します」
まるで小学生の紹介みたいだけど、これでも必死に考えた紹介だ。よし、ここまで言えた。問題はここからだ。
「私は皆様と違って人間としての記憶があります。レイヤにもつらいなら消すと言って頂いていますが、できればこのまま神としての役目を果たしたいと思っております。だからこそ神として足らない部分が出てくるかもしれません」
実際ルーラできないし・・・。
隣ではレイヤもゼノンも固唾を飲んでこちらの話を聞いている。この話を私からするとは思ってなかったのだろう。それでも私はするべきだと思った。それがけじめだ。ゴクンと唾を飲み込んで話を続ける。
「それでも今はこの記憶が不必要なものと思いたくないのです。それによって今後、皆様方に何かとご迷惑おかけするかもしれませんが、ご指導のほど宜しくお願いします」
そこで大きく頭を下げる。
しばらく沈黙が漂う。
やっぱこの話するのは変なことだったかな?
そう後悔しかけた瞬間、割れんばかりの拍手が会場を埋め尽くす。
あぁ・・・なんとか言い切れた!顔を上げると近くでエダもオリセントもよくやったとばかりに微笑みながら拍手してくれている。
「6人目の女神の誕生です。それも待ち望んでいた癒しの女神です。みんな歓迎してくださいね」
レイヤと反対側の隣でゼノンが言う。決して大きな声ではないのによく通る声で止みそうになった拍手がもう一度復活した。
歓迎してくれていると感じる。それは純粋にうれしかった。
自然に口元が緩む。気がついたら笑顔になっていた。
「じゃあしばらくはこの場で立食会とするからおのおの好きなようにしてくれ」
ここで、曲が流れ始め立食パーティーになる。
ふ~お役目ごめんか~。助かった!
「がんばったな、フウカ。立派な挨拶だったぞ」
一番にそう話かけてくれたのはオリセントだ。
「すごく緊張したんだよー。みんなの眼がこっち向いてるからちょっと足が震えちゃった~」
「そんな感じまったくなかったよ。かまずにすらすら言ってたし」
横からエダも来てくれて労ってくれた。しかし二人と話できたのはここまでだった。隣にいたレイヤが二人に何やら耳打ちすると私の腕を掴んできたからだ。
「フウカ。すこし悪いけど来てくれ。ここにいたら絶対いろんな奴が近寄ってくるからな」
そう言って有無の言わさずレイヤに引っ張られたと思うと景色が一転した。
強引だなあ。
そう思ったのが伝わったように彼は軽く金色の頭を下げる。
「すまない。予想以上にみんなの関心を引いてしまったから、あれ以上あの場にいたらやばかったんだよ」
えー。人を1人1人見る余裕なかったけど、そんな雰囲気まったくなかったけど・・・。
まあ知らない人に囲まれて質問攻めは遠慮したいからよかったのかな?
「ここはどこ?」
気を取り直して辺りを見渡すが、レイヤの部屋でもエダの部屋でも私の部屋でもない小部屋だった。長いすが2つとそれと同じ高さの丸テーブルがあるだけで殺風景な部屋だ。
「さっきの会場の隣の控え部屋だ」
レイヤが長いすに座るように促してくれる。素直に座る。人の眼が無くなり座った途端、思い出したかのように疲れが出てきた。
「あの挨拶は素直な気持ちが出ていてよかった。格式ばった言い方でなく自分の考えを正直に言ってたな」
そう言いながら、彼は私の頭を撫でながら褒めてくれる。
記憶のこと言ったらだめでなくてよかった。だめって言われても言ってたかもしれないけど。
「あら~。レイヤのそんな顔はじめてみたわ~~」
そこにいきなり女性の声が響く。
気がつくと、3人もの人が私とレイヤをたのしそうに見ていた。
1人はゼノンだ。そしてあとは知らない男性と女性。
さきほど声をかけてきた女性はずいぶん背の高いスレンダーな美女だった。栗色の短い髪に同じく栗色の瞳。ダークブラウンのマーメイドドレスを着ている。
うわぁ~すごい迫力ある人だ。
眼は切れ長だが、今は優しげな輝きを見せてくれている。薄いが大きめの唇は真紅の口紅を塗っていて本当にきれいだ。
お姐さんと呼ばれるのが似合いそうな容貌。
その彼女の隣には真っ赤なウルフカットの少年がいた。瞳も燃え上がるような真紅だ。
もしかして・・・。
「はじめまして、フウカ。私は大地の女神のダリヤよ。さっきのスピーチはすばらしかったわ」
やっぱり!とっても想像通りの方だ。
「よう!俺はジューン。ダリヤの伴侶で火の神だ。よろしく」
えー!彼が熱烈にダリヤさんに求愛して、彼女が根負けして夫婦になった火の神???オリセントのような大人の男性をイメージしていただけに思わずびっくりしてしまう。
だって若いと思っていたエダより若く見える。人間で言うと16才ぐらいに?20代後半ぐらいの外見の彼女とはどうしても禁じられた恋の雰囲気になってしまう。
「フフ。正直な子ね。ジューンの姿にびっくりしているのね?」
あ・・・。何も言わずにじっと見つめてしまってかなり失礼なことしちゃった。あわてて椅子から立ち上がる。
「ご、ごめんなさい。夫婦と聞いて、お二人にとてもお会いしたかったです。フウカと言います。よろしくおねがいします」
真っ赤になりながら大きくお辞儀する。
「貴方たちが今まで隠していたの分かるわ~。ねね、フウカ。私のことお姉さんって呼んでくれないかしら?」
えー。姉妹ごっこ?
確かに目の前の美女に姉さんってのはよく似合う。正直姉御のほうが良く似合っているけど。
中身は三十歳のわたしにはすこしきついけど、たしかにこの外見で生まれたてとなればそう言っても普通なんだろう。
「えっと・・・・ダリヤ姉さん・・・」
恥ずかしながらもがんばってそう言ったとたんに、がばっと音が出るほど勢いよく美女に抱きしめられる。
「いやぁ~ん。かっわいい!私が男だったら絶対離さないわ~」
あ・・・良い匂い。
彼女からほのかに香水の匂いがする。きつくもなくさっぱりしたシトラス系の香りだ。
「こら。ダリヤ。フウカが困った顔しているから離してやれ!」
レイヤが私の腕をひっぱってダリヤから離す。
いや、べつに女性に引っ付かれるのは大丈夫ですけど・・・。
「ふふ。独占欲丸出しにしちゃって・・・。ごめんね、フウカ。あまりにも可愛くて。会いたいと言ってくれてうれしいわ。他の神たちは悔しがるでしょうけどね」
あー。もしかして会いたいと私が言ってたから、ゼノンがわざわざ連れてきてくれたのかな?感謝をこめてすこし離れたところにいる黒髪の青年に微笑むと、彼も同じように返してくれる。
ダリヤが楽しそうにそう言うのに、今まで黙っていた隣の紅い髪の少年がうなずきながら同意する。
「そうだな。ベルやアトラスが一番に話かけようと気合入れていたからな。レイヤにとっとと掻っ攫われてかなりくやしがってたぞ」
「あのままだと、フウカがいろんな奴に囲まれてえらい事になるのが眼に見えていたからな。ここに連れてきて、せめて順番に挨拶する形にしないとかわいそうだろう」
そうだったんだ。たしかにここで少しずつ話させてもらえるのはうれしいかも。一気にいろんな人に囲まれてお話するのは難しいもんね。
と、そこである異変に気がついた。
気を見えるようになってからゼノンやレイヤの気を、自然に感じ取ることができるようになっていた。現に今日初めて会ったジューンの気も真っ赤な気を感じる。でも、ダリヤの気は少し違っていた。
茶色と黄色の間のような大きな気の中に、マーブルのように茶色と赤の混ざり合った気を感じる。今までここまでいろんな色が混ざった気ははじめてみた。色がないと言ってたオリセントでも灰色がかった気で一色だったし、私の気もクリーム色のような白一色だ。
「あ・・・。あの。ダリヤさんの気はなぜこのような色になっているのでしょうか?」
どうしても聞かずにいられなくて、直接本人に聞いてしまう。すると、より一層微笑みながら自分の気を優しくなでながら教えてくれる。
「だから、姉さんって言ってね。私は今、妊娠中なのよ。あと数日以内に産まれるわ」
え?妊娠中?まったくお腹膨れてないよね?
思わずお腹を見てしまうがくびれもばっちりでまったく膨れていない。
「もしかして、人間の出産と同じように考えている??私たちはまったく違うわよ」
驚くことに神は1週間ほどで産まれるらしい。妊娠する確率は人間より少ないが、できれば気がいまのダリヤさんのように交じり合い、徐々に自分の色とその子の色に分かれいって、最後にそれが分離して産まれるという。そしてその姿は赤ちゃんの姿ではなく、大差はあれどそれなりに成人しているらしい。
すごいなぁ、それは。私が子供産むときもそうなんだぁ。不思議。
「びっくりして言うの遅くなりました。本当におめでとうございます。ジューンさんと、えっと・・・ダリヤ姉さん」
お祝いを口にするとジューンとダリヤはお互いに眼を一瞬合わせて、それからダリヤが軽く私の頭を撫でながら微笑む。
「ウフフ。ありがとう。貴女の次の31番目の神になるから仲良くしてあげてね」
そっか~。私の弟か妹のようなものなんだ。ちょっとうれしい!
「ぜひ、産まれたときに会わせてくださいね」
「ありがとよ!癒しの女神から祝福があるのは何より縁起がよさそうだし、俺は大歓迎だ」
ジューンも笑顔満開で言ってくれる。本当に仲いい感じだなぁ。もし恋愛するならこんな関係が憧れる。まだ相手の見当もつかないけど。
「あーうぜぇ~。次から次へと会わせろ会わせろと・・・」
今まで端で黙っていたレイヤがいきなり声を発する。
「こっちにも来てますね~。どうします??気分わるくなったって部屋に隠れてしまいます?」
ゼノンがなかなか黒い案を述べる。
さすがにそれはまずいのではないかと・・・・。
「ダリヤ姉さん、ジューンさん。今日はありがとうございました。またぜひ会ってじっくり話させてください」
とりあえず、二人にはお礼を言う。もっともっとお話したいけど無理そうだ。次にレイヤとゼノンを見る。
「レイヤ、ゼノン。よかったらその方たちとも会わせて。私もそんなにいっぺんに会っても覚えられないけど、会いたいと言ってくれているのにずるするのは失礼だから」
人数が何人かわからないけどなんとかするしかないと思う。
「大人数でいっぺんに来られても困るけど、2,3人ずつ少し挨拶する程度なら二人がそばに居てくれてたら大丈夫だからね」
そういうと、じゃあまた絶対会いに行くわと言い残して、美女と少年の夫婦はその場から退出してくれた。
「じゃあ3人ずつ順番に呼ぶぞ。たしかにいつかは挨拶しないとだめだしな。たいへんだろうが、がんばれ!」
レイヤが応援してくれると続いてゼノンまで心強い言葉をくれる。
「私たちが付いてますので大丈夫でしょうけど、変なこと言われたりされたときは我慢しないでくださいね」
この二人がいる空間でなにかする者がいるのでしょうか・・・。気がわかるようになってどんなに格別な存在かわかるようになった私はついそう思ってしまう。
「じゃあお願いします」
こうして神々との初対面は流れるように始まる。
ようやく姉さんを出せました。このお披露目は正直、姉さんと会わせるためです。
年の差カップルって好きです。かっこいい姐さんと少年の組み合わせってよくないですか?
いつか2人の話も番外編ででも書いてみたいですね。リクエストがあれば頑張ろうと思います。