16.ルーラは能力あっても使えない場合があるのです。
「さあ。さっそく練習しよう。まずはここからゼノンの部屋の前の扉に行こう。昨日の跳んだ感覚わかるね?その感覚のままゼノンの部屋の扉と道をイメージするんだ」
レイヤの部屋の扉を閉じたところで言われる。なるほど。確かに近いから練習にぴったりだ。
「目を閉じて集中してね」
たしか、この道を曲がったところだよね。扉はすこし黒がかった・・・・
次の瞬間、その場の気がぐにゃっと音がするほど歪み景色が一転する。
できた!!
簡単、簡単!これでラスボスの階ひっこしは無くなるぞ!
「上出来、上出来!本当に飲み込み早いね。さすが、女神一の気の持ち主だね」
すぐにエダが追ってきてくれた。
「じゃあ次は僕の部屋かな。できる?」
階段を3階まで降りて廊下を・・・・
そう考えているうちに再び景色が一転した。
「え?ここどこ?」
周りを見渡せば、扉がたくさんある廊下にいることが分かった。えー。こんなのではなかったよね。エダの部屋。ってか自分の部屋ともちがう。
「貴女は!もしかして癒しの女神さま!」
一人の栗色の目と髪の少年がいきなり声かけて近寄ってくる。
「えっと・・・」
ここの場所を聞こうと口を開くが少年は興奮して自分の話をどんどんしていく。
「とってもお会いしたかったです!本当にうわさ通り美しい方で、すばらしい気をお持ちなんですね。ああ。俺もお仕えしたかったです。でも男はだめだってレイヤさまが・・・」
あ、圧倒される・・・。
まるで憧れのアイドルを見るような目つきで私に近づいてきている。その声を聞き、数人が扉を開けて私の姿を確認するとおなじように興奮して話しかけようとしていた。
こ、こわい。追っかけに見つかったような気持ちだ・・・。
「そこまで!気持ちは分かるけど、今日はもう連れて帰るよ」
救世主!
振り返ると、エダ先生が仁王立ちしている。
よく見ると、だいぶ顔つきが怖い。
救世主が怒ってます・・・。
有無も言わずに私の腕をひっぱり、抱いたと同時に瞬間移動する。
その場にいた者たちはしかたないとばかりに落胆するものの数人が興奮しながら会話をしていた。
「かっわいい~癒しの女神様なんだよね?なんてすばらしい神気なんだ・・・」
「話できたんだろ、お前!いいよな~」
「男はだめなんてずっこいよなー。ノアやセレーナがうらやましいぜ」
精霊たちには所詮、女神は高嶺の花である。それでも彼らは思いかけずに見ることのできた、今は上位神たちがこぞって隠している深窓の女神に会えた僥倖に胸を躍らせていた。
気が付けばエダの部屋にいた。しかし何時まで経っても身体を離してくれない。
そんなに怒ってるの?
「まったく・・・。君は僕を本当に冷や冷やさせてばかりだね」
えっと・・。
「さっきの所はどこ?」
おそるおそる聞くと耳元で大きくため息と付きながら答えてくれる。
「1階の精霊たちの部屋だよ。あんなところに跳んだら瞬く間に精霊たちに取り囲まれてしまうよ」
たしかにどんどん近寄ってきていた。エダがこなければ絶対そうなっていただろう。それは怖いかも・・・。
「なんで僕の部屋があそこになったんだい?」
いろいろ説明してて根本的に道が違っていることが判明した。そういえば私って一本道で迷うほど方向音痴だった・・・。駅の地下も標示が頼りで通ってたし、地上ではよく迷っていたのだ。
・・・・・・
その説明で気がぬけたようで私の身体に巻きついていた腕が解かれる。
すこし離れて彼の表情を窺うと思いっきり疲れたような顔色になっていた。
「ご、ごめんなさい・・・」
「いや・・・仕方ないよ・・・。でも僕は最上階に君を送りたくないし、絶対瞬間移動は誰かがいるとこでしかしないでほしい。呼んだらおそらく4人ともすぐ君の部屋に跳んで行くからね」
すこし苦笑しながら私の頭をなでてくる。私には彼を弟のように感じてしまっているのだが、彼には逆に私が手のかかる妹のように感じるのだろうか。そんな扱いに思う。
その撫で方がやさしくてついそのまま甘んじて受ける。
「君を拾ってから毎日が刺激的だよ。ほんとうに」
うっ。たしかにエダにはしょっぱなからお世話になりまくっている。
「今度よかったら僕たちが出会った滝に連れていくよ」
喉の渇きを救ってくれたあの美しい滝を思い浮かべる。行きたい!きちんとあの景色を堪能したい。あの時は必死だったから楽しむこともできなかったし。
うれしそうにエダの顔を見ると、肯定の意を汲み取ってくれたようでなでていた頭を自分の身体に引き寄せる。
え?なに?
暖かいものが頭の上に一瞬乗った。
頭に軽く口付けされたのだと気付いたのはしばらく彼の顔を見た後だった。
親愛のキスだろうけど、日本人には照れますってば!
「さあ。君の部屋に戻ろう。これから僕との時間のときは何回も廊下を歩いて早く道を覚えてもらうよ。それまではがんばろうね」
こうして能力以前の問題で瞬間移動はお預けになってしまった。後日他の3人にもこのことが伝わり、何度も部屋を往復するはめになる。
方向音痴と言う壁は神になっても越えれなかった。しかたないので体力でカバーすることとなる。
実は作者がものすごい方向音痴です。1本道で迷う女です。