ルールだけじゃ足りない
「お前と謎々大会やってるんじゃねぇよ!」
「こっちは学校に勉強しに来てるんだよ!」
「ちゃんと道路交通法教えろや!」
怒号が飛び交う中、文房具、教科書、丸めたプリント用紙が次々と教壇に向かって飛んでくる。
黒板に当たる乾いた音が、教室中に響き渡った。
「ひっ、ひぃっ……!」
斎藤は慌てて教壇の下に身を縮め、頭を抱えた。
青いスーツの肩や背中に、消しゴムや筆箱が当たる度、小さく体を震わせる。
机を叩く音、椅子を蹴る音、子供達の怒声。
教室は完全に制御不能になっていた。
教壇の下で震えながら、斎藤は必死に考えていた。
(……道徳の授業をなくしたのが、絶対に良くない)
自分は道路交通法を教えるプロだ。
教習所で何年もやってきたし、青切符のルールも、引っ掛け問題も、全て頭に入っている。
でも、子供達に「正しい心の持ち方」や「相手を思いやる気持ち」を教えるのは、専門外だった。
道徳の時間を丸ごと交通法に置き換えた結果、子供達はルールだけを叩き込まれ、そのルールに疑問を持ったときに、どうやって感情をコントロールすればいいのかを知らなかったのかもしれない。
(俺は交通法なら教えられる。でも……道徳は、ちゃんと時間を取って学ばせないと……)
暴動はまだ続いている。
「道徳返せ!」「もう嫌だ!」という叫びが、次から次へと飛んでくる。
斎藤は教壇の下で小さく息を吐いた。
道路交通法を学ぶのも大事だ。
でも、それだけじゃ足りない。
子供達には、ルールを守る理由や、他人を思いやる心も、しっかり育てていかないといけない。
こんな風に、教室が戦場みたいになる世界は……
やっぱり、おかしい。
斎藤はただ、頭を抱えたまま、
飛んでくる文房具の音を聞きながら、静かにそう思った。
こういった短編作品は結構書いてるので、お気に召せば作者ページから他の作品も読んでみて下さい。




