クラスメイトの共感
斎藤は教科書を軽く持ち上げ、次の問題を読み上げた。
「それでは第二問だ。『交差点の手前3m以内は駐車も停車も禁止されている』。さぁ、この問題は◯か✕か?」
視線を生徒達に移し、いつもの爽やかな笑顔で問いかける。
「じゃあ、この問題◯と思う人?」
すると、一人の女生徒がぱっと手を挙げた。
彼女は香川夏美。6年2組で少し目立つ、活発な子だ。
「おや?◯と思うのは香川さんだけかな?じゃあ、✕と思う人は?」
斎藤が続けると、香川は少し迷った様子で手を下ろした。
他の生徒は誰も手を挙げない。教室に気まずい沈黙が落ちる。
「あれ?みんな、どうしたのかな?」
斎藤は軽く首を傾げながら生徒達を確認した。
生徒達は隣の席の子と小声で相談し合っている。
「これ、どうだったっけ……」「わからない……」という呟きが、あちこちから聞こえてくる。
「なるほど、そういうことか!皆、わかんないみたいだね。じゃあ、先生が正解を発表するよ。正解は✕だ!はい、じゃあまた4ページを開いて。先生が解説するから」
斎藤は教科書をめくりながら、明るい声で言った。
生徒たちは渋々といった感じでページをめくり始める。
その時、ただ一人ーー香川夏美の顔が、真っ赤になっていた。
斎藤はそれに気づかず、解説文を読み上げ始めた。
「え〜、問2の答えは✕です。駐停車禁止は5m以内ですね。だから、さっきの問題の答えは✕になります」
その言葉を発した瞬間、香川が机を叩いて立ち上がった。
教室の視線が一斉に彼女に集まる。
「ちょっと待って下さい!これ、✕っておかしくないですか!?」
声に、はっきりとした怒りが混じっていた。
毎日一緒に過ごしているクラスメートたちには、そのトーンで「夏美が本気で怒っている」とすぐに伝わった。
しかし、週に一度しか来ない斎藤には、まだその深刻さは感じ取れなかった。
「解説に書いてるよね?駐停車禁止は5m以内なんだ。3mじゃないよ」
斎藤は冷静に、いつもの教習所モードで対応した。
「5m以内がダメだったら、3m以内もダメですよね!?」
香川は声を荒げて続ける。
彼女の目には、悔しさと苛立ちがはっきり浮かんでいた。
教室の空気が、急に張りつめた。
他の生徒達は息を潜め、香川と斎藤のやり取りをじっと見つめている。
何人かは椅子を少し後ろに引いて、身を乗り出すようにしている。




