7.セミの就活と、くらげの笑顔
「私はセミのような人間です」
面接官が眉をひそめる。大丈夫、何度も自己分析をした。
「暗い土の中、見つけられなくても努力を続け、飛び立つことが出来ます。先日、私は人の命を救いました。幼少期から続けていた水泳が実を結んだのです」
面接官がほうと関心するのが分かった。
「この行動力と忍耐力を活かし、御社でも確実に結果を出します」
噛まずに言えた! 面接官が頷いて何かをメモするのが分かった。どうだろう、今度こそ縁があってほしい。
面接が終わると私は電車である場所に向かった。今日は数ヶ月ぶりにくらげに会える。
あの日、沖に流されているくらげを見つけて飛び込んだ私は、持ち前の持久力でなんとかくらげを助けることが出来た。火事場の馬鹿力だったのだと思う。後から駆けつけてきたライフセーバーさんには危険なことをするなとしっかり怒られた。プールで泳ぐのと海で泳ぐのは違う。私は反省し、改めて資格を取ったのだけど、それはまた別の話。
病院で暴力の痕が見つかったくらげは児童保護施設に保護されることになった。通常、施設に保護されると第三者が面会にいくことは難しいが、くらげが切望したこともあり、特別に許可が降りたのだ。
「なつきーー」
「海月さん、危ないです。走らないで」
自動ドアをくぐり施設に入るとくらげが身体を左右に揺らしながら走ってきた。その後ろをスタッフらしき人が追いかけてくる。
「会いたかった! 案内するね。それからお喋りしよう! 折り紙もあるよ。あとね、ボードゲームもあるの! リバーシ知ってる? 将棋は? 一緒にやろう! 何する?」
くらげは息する間もなく一気に話した。出会った時よりもずいぶんと表情が明るく元気になったような気がする。
あの時泳げなければこの笑顔は守れなかった。ただ継続するしかできないと思っていた空っぽな自分にもちゃんと出来ることがあったのだ。
私はセミのぬけがらなんかじゃない。ここにいるよと明るい場所で主張できるセミなんだ。
「私もくらげに話したいことがあるの」
カバンの中からライフセーバーのライセンスカードを出そうとしたが、くらげが手を引いた。
「早くこっちきて」
聞いて欲しいことが沢山あるのだろう。私はくらげの話を優先することにした。
窓の外では、2匹のトンボが楽しそうに空を滑るように飛んでいた。