6.くらげとうみ
くらげになりたかった。
家につながっている風鈴ではなく、自由に海を泳げるくらげに……。
海の家に行くと、風鈴が地面に落ちて割れていた。なつきはまだ来ていないようだった。
あの風鈴は私だ。
家に縛られていたから、大雨でも逃げることが出来ず、割れてしまった。
「そこ危ないからどいて」
店員さんが箒をもって声をかけてきた。ゴミとなった風鈴を片付けるのだろう。私は海の家に背中を向けた。
足が重いから歩くのは好きじゃない。とくに砂浜はとても歩きにくい。足を動かすと痛むから、引きずるように歩くしかない。
なつきに会う前に海に入りたかった。なつきはまだ私の足が不自由なことを知らないと思う。なつきがこの醜い足を見たら海にいれてもらえないかもしれない。そしたら逃げられない。それは嫌だった。
海に入ればこの足も軽くなる。そしたら、泳いで遠くに逃げることができる。どこに行くかは分からないけど、どこかここではない場所に行けたら十分だった。
足を滑らせたのは一瞬だった。
地面の感覚がなくなり、足がふわりと水中に浮いた。
身体が軽くなれば、簡単に何処にでも行けると思っていた。でも違った。波に流されて行きたい場所に行けない。
怖かった。
(助けて)
薄れる視界の中で私はなつきらしい少女が浮き輪を持って海に飛び込むのを見た。