表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

2.セミのぬけがらとくらげ

 セミのぬけがら探しは難しかった。木の根元に穴は見つけても、辺りにぬけがらは見当たらない。セミの声の分、ぬけがらはあるはずなのに。

 ぬけがらを見つける度にさっきの堤防に戻る。戻る度にぬけがらの数が増えていた。女の子も集めているんだ。その事に安心した。

 なぜ、ぬけがらを集めているのか、理由は分からない。でも、どうせやることもないのだ。時間つぶしにちょうど良かった。

 辺りが暗くなってきて、そろそろ最後かなと堤防に戻ると、女の子が立っていた。足元には2人で集めたセミのぬけがらが山になっている。私はしゃがんでその山の上に見つけたばかりのぬけがらを置いた。

「おわり」

 夕日に照らされながら女の子が言った。顔を上げると女の子と同じ目線になった。

「このぬけがらどうするの?」

 女の子は大きな目でセミのぬけがらを見つめていた。そしてゆっくりと足を上げるとぬけがらに向かって下ろした。

「えっ」

 戸惑ってる間にも女の子はゆっくりと、時々ふらつきながらセミのぬけがらを踏んでいた。真剣な表情に、声をかけられなかった。

「あなたも」

 急に服を掴まれた。私も踏めと言うことだろう。女の子が1歩下がったので、同じように踏み潰した。女の子を見ると大きく頷いた。間違えてなかったらしい。

 それからはふたりで夢中になってぬけがらを踏んだ。一日かけて集めた山はみるみるうちになくなった。

「ぬけがら、なくなっちゃったね」

 踏み終わった女の子が呟く。時間をかけて集めたものがなくなるのは一瞬だった。

「わたし、くらげ」

 女の子が突然呟いた。くらげ? 比喩だろうかと思ったが、疑問が伝わったのだろう、女の子は続けて言った。

「ほんとはみつきなんだけど、海の月って書くからくらげって呼んで」

 よく知っているなと関心する。

 あなたは? とくらげが私を指さした。

「私は夏生だよ」

「なつき? 似てるね」

 女の子が口角を上げて笑った。謎めいた大人しい子だと思っていたが、その笑顔はちゃんと子供らしいものだった。私もつられて笑顔になる。

「明日も会える?」

 明日も用事はない。会って何するのか分からなかったが、私は頷いた。

「じゃあじゃあ約束! あの海の家で待ってるから」

 くらげが薬指をたてた。薬指を絡めながらふと、疑問に思う。

 この子はどうして一人でいるんだろう?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ