2.セミのぬけがらとくらげ
セミのぬけがら探しは難しかった。木の根元に穴は見つけても、辺りにぬけがらは見当たらない。セミの声の分、ぬけがらはあるはずなのに。
ぬけがらを見つける度にさっきの堤防に戻る。戻る度にぬけがらの数が増えていた。女の子も集めているんだ。その事に安心した。
なぜ、ぬけがらを集めているのか、理由は分からない。でも、どうせやることもないのだ。時間つぶしにちょうど良かった。
辺りが暗くなってきて、そろそろ最後かなと堤防に戻ると、女の子が立っていた。足元には2人で集めたセミのぬけがらが山になっている。私はしゃがんでその山の上に見つけたばかりのぬけがらを置いた。
「おわり」
夕日に照らされながら女の子が言った。顔を上げると女の子と同じ目線になった。
「このぬけがらどうするの?」
女の子は大きな目でセミのぬけがらを見つめていた。そしてゆっくりと足を上げるとぬけがらに向かって下ろした。
「えっ」
戸惑ってる間にも女の子はゆっくりと、時々ふらつきながらセミのぬけがらを踏んでいた。真剣な表情に、声をかけられなかった。
「あなたも」
急に服を掴まれた。私も踏めと言うことだろう。女の子が1歩下がったので、同じように踏み潰した。女の子を見ると大きく頷いた。間違えてなかったらしい。
それからはふたりで夢中になってぬけがらを踏んだ。一日かけて集めた山はみるみるうちになくなった。
「ぬけがら、なくなっちゃったね」
踏み終わった女の子が呟く。時間をかけて集めたものがなくなるのは一瞬だった。
「わたし、くらげ」
女の子が突然呟いた。くらげ? 比喩だろうかと思ったが、疑問が伝わったのだろう、女の子は続けて言った。
「ほんとはみつきなんだけど、海の月って書くからくらげって呼んで」
よく知っているなと関心する。
あなたは? とくらげが私を指さした。
「私は夏生だよ」
「なつき? 似てるね」
女の子が口角を上げて笑った。謎めいた大人しい子だと思っていたが、その笑顔はちゃんと子供らしいものだった。私もつられて笑顔になる。
「明日も会える?」
明日も用事はない。会って何するのか分からなかったが、私は頷いた。
「じゃあじゃあ約束! あの海の家で待ってるから」
くらげが薬指をたてた。薬指を絡めながらふと、疑問に思う。
この子はどうして一人でいるんだろう?