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怖さを楽しむ孤高の登山家ユーチューバー「死と隣り合わせの絶景を求めて」


インタビュアー(以下、イ): 本日はお忙しい中ありがとうございます。登山家であり、人気ユーチューバーとしてもご活躍されているということで、まずはその魅力についてお伺いしたいです。チャンネル登録者数が22万人を超えるそうですね。


登山家(以下、登): はい、ありがとうございます。私の動画は、単なる登山記録というよりは、リアルな山の姿、そこに潜む極限の状況を映し出すことに力を入れています。それが多くの視聴者の方に響いているのかもしれません。


イ: 「極限の状況」とおっしゃいましたが、これまでの登山で一番怖かった経験は何でしょうか?


登: 一番怖かったのは白馬の資料ですね。通常のルートじゃなくて、モンブランよりも傾斜が急な、本当にまっすぐな壁みたいなところを登るルートなんですけど、そこが一番怖かったです。


イ: それは想像するだけで鳥肌が立ちます。でも、怖い経験をしてもなお、登山を続けられるのはなぜですか?


登: それが、怖いタイミングの方が楽しいんですよね。なんか、夏と冬で自分の記憶を更新するような登山をしたいと思ってて。自分の技術で試せるギリギリのラインの山を一年の目標にして、毎年登るって感じなんです。怖さを超越した、ある種の陶酔のようなものかもしれませんね。


イ: その原点には、大学時代のバックパッカー経験が深く関わっているとお聞きしました。詳しく教えていただけますか?


登: はい。スペイン語圏に一人でバックパッカーに行った時に、たまたま登った山がきっかけでした。先住民の人たちが儀式をやってるっていうので、それを見たくて行ったんですけど、現地の人に登山靴を聞いたら、登山者だと思われてしまって。それで、ものすごく厳しいルートに入っちゃったんです。


イ: それが初めての登山だったと。


登: ええ、まさに。登っても登ってもその先住民の人たちが見えないし、どんどん景色は険しくなっていく。日本の山みたいに標識とかロープとかもないので、途中で道に迷って遭難しかけてしまって。岩の間に足が挟まっちゃって、このまま道に迷ったら死ぬって思いました。


イ: 絶体絶命の状況ですね。どうされたんですか?


登: でも、とりあえず山頂まで歩いてみようって。もうとにかく、登りが終わるところまで進んで、山頂で休憩してたら、下の方から声がわーって聞こえてきて。何だろうと思ったら、その先住民の人たちが、祈祷で百人くらい集まって、みんなで輪を作って歌ってたんです。それが谷の方から声が聞こえてきて、「ああ、この声を辿っていったら降りられる」って思って。


イ: その声に導かれたと。


登: はい。降りてったら、みんなが手を取り合いながら歌っている光景がすごく神秘的で。山で遭難して死ぬかもしれないっていう経験と、その不思議な光景が合わさって、なんか自分の中ですごい、もう行きたくないじゃなくて、もう一回ちょっと自分で登ってみようかなっていうので、今の山に登り始めたのがきっかけです。


イ: それほど強烈な経験が、今の活動の原点になっているのですね。しかし、日本に帰国後、また遭難しかけたとお聞きしました。


登: そうなんです(苦笑)。初めて日本で登った山でも再び遭難しかけてしまって。そこで「ちゃんと調べて登らないと死ぬんだ」と痛感し、そこから本格的に山を学び始めました。


イ: 「命をかける」という感覚は、やはりあるのでしょうか?


登: 命をかけるっていうのとはちょっと違うんですけど。とは言え、100%死なないって言われたら面白くない。安全な山に登りたいかって言われたらそうじゃない。でも、命をかけてる気はあんまりないんです。いかに死なないか、みたいな。ちょっとミスったら死ぬけど、自分の努力でそのミスをだんだん小さくしていけば、ほぼ死なずに登れる。そのちょっとずつ自分のそのリスクを減らしていく作業が楽しいって感じなんです。


イ: なるほど、「死なないための努力」が楽しみでもあると。具体的にはどんな努力をされていますか?


登: 徹底した準備とリスク管理ですね。雪山であれば、体力はもちろんのこと、山の地形や天候を事前に詳細に調べ上げ、あらゆる条件を考慮して判断を下します。技術面においても、雪山の教室でピッケルの使い方や、滑らずに歩く方法などを学び続けています。


イ: ユーチューバーとしての活動を始めた頃は、批判もあったとお伺いしました。


登: そうですね。最初の半年は全然登録者数も伸びなくて、登山動画を出し始めてからちょっとずつ増えていったんですけど、1万人急に行ったのは北アルプスの槍ヶ岳に行った動画を上げた時でした。コメント欄には「こんな危険なところに女の子一人で行くなんて危ない」みたいな、批判コメントがすごく多くて。多分、動画のために危ないことをやってるって見られてたんだと思います。その時は結構辛かったですね。


イ: それは大変でしたね。どのように乗り越えられたのですか?


登: 2年ほどかけて、視聴者の方とのコミュニケーションを通して、自身の登山への真摯な姿勢を伝えていきました。毎回、天候が悪くても自分で判断して、登って大丈夫だと思ったらそのまま行くんですけど、そういう時に私がどういうふうに物事を判断しているかっていうのを、動画の中でしゃべりながら撮るようにしたんです。


イ: 説明しながら撮影するようになったのですね。


登: はい。例えば、「今、標高3800m地点で、ゆっくり歩いていきたいと思います。こういう時にこういう風に考えて登ってるんです」みたいな感じで。そうしたら、視聴者の方が「ただ突っ込んで登ってるだけじゃないんだな」って理解してくれるようになって。批判コメントもだんだんなくなっていきましたね。登山家の人たちが危ないことをやってるんじゃなくて、山を色々考えて楽しんで登ってる人っていう認識に変わっていったのかなって。


イ: 動画の編集も全てご自身でされているとお聞きしました。


登: はい、全部自分で編集します。我流ですけど。最初は編集のやり方すら分からなくて、YouTubeで「動画の編集の仕方」って検索して、見ながら覚えました。自分が頭で「こういう映像にしたい」っていうのが表現できるようになるまで、本当に時間をかけて作って。自分で登って、自分で撮って、自分で編集して映像にするって感じです。


イ: なぜ、そこまでこだわってご自身で編集されるのですか?チームに任せることは考えないのでしょうか?


登: チームとか欲しくないですかって言われるんですけど、自分が登った山を編集するのもすごく楽しくて。「そういえばこのシーンこんな感じで撮れてるから、こうしたらすごい自分が思ってる危険度が伝わる」みたいな。人に頼んだら、このニュアンスが伝わらないかもしれないし、何より、頼むだけでも、このシーンどういうふうに撮ってるかとか、全部覚えてるかどうか、わかんないんですよね。例えば「この三角の岩の上を歩いてるところを撮りたい」って言っても、伝えにくい。なんで、自分で「ここは危険だ」っていうのを見せたい場面は、自分で作らないと難しいかなっていう葛藤と、単純に面倒くさいなっていうのがあって(笑)。


イ: 幼い頃から運動がお好きだったと伺いました。何かスポーツをされていたのですか?


登: はい、小さい頃から激しい運動が好きでしたね。空手をずっとやっていて、中学校までしかやっていないんですけど、東海大会で3位まで行きました。岐阜県出身なので、岐阜のトップ3に入れば東海大会に出られるという感じでしたね。


イ: 東海大会3位はすごいですね!高校は留学されたと聞きました。


登: 高校は留学してアイルランドに行きました。家ポストにたまたま留学のパンフレットが入っていて、「こんなんもあるよ」って親に言われて。じゃあ行こうかなって。アイルランドが一番日本人が少なかったらしいので、そこに決めました。全く英語が喋れなくて、最初は本当に辛かったですね。毎週親に「帰りたい」って電話してました。でも、2年くらい経ってから急に喋れるようになって、最後の1年はすごく楽しかったです。


イ: 大学ではどのようなことを学ばれたのですか?


登: 大学は日本の大学に戻って、工学系でした。でも、英語はもういいかなと思って、別の言語を学ぼうと、スペイン語を勉強しましたね。旅行するのに困らないくらいには喋れるようになりました。大学の途中でスペイン語圏に一人でバックパッカーしようっていうのを計画して、その時に先ほどの登山経験があったんです。


イ: 大学院では文化人類学を研究されたと伺いました。登山と何か関係があるのでしょうか?


登: はい、人間と動物の関係を研究していて、先住民の人たちが動物をどういう存在だと認識しているか、みたいな内容でした。その頃は趣味で筋トレにはまっていて、平日に山に登りたい、仕事も好きなことを全部詰め込みたいって考えたら、フィットネストレーナーになったんです。


イ: では、現在の登山家ユーチューバーとしての活動が本業ということですね。今後の目標について教えていただけますか?


登: はい。今は冬に登りたい山が違うんですよ。今年の冬には「幻灯機の槍ヶ岳」っていう、ちょっと危険な挑戦を考えています。一番吹雪いてて、雪も多いし危険も多い、日本でいうとすごい難しいって言われてる山に登ろうと思ってて。今はすごい雪が多いエリアで、気をつけないと踏み外しちゃったりすると、そのまま崖の下まで落ちちゃったりとか、死ぬかもしれないって言われてる山なので、そこが一番怖いですけど、その分、楽しみでもあります。


イ: それはまさに「死と隣り合わせ」ですね。それでも挑むのは、ご自身の限界を試したいからでしょうか?


登: そうですね。世界中のいろんな山に一人で登りたいです。自分が登る限界の所まで、いろんな山に登りたい。一人で登ると、何か起こっても誰も助けてくれないし、計画も自分で全部立てるので、そういう自分の力が試される状況が好きなんです。


イ: 孤独な戦いですね。一人で登ることの魅力とは?


登: 何か起こっても誰も助けてくれないのと、あと計画も自分で全部立てるので、どの相談をどう使うかとか、全部自己判断なんです。あと、嫌になったら誰にも相談せずにルートを変更できるのもいいですね。危ない気がするからやめよう、みたいなのを瞬時に判断できるので、あんまり判断に迷うことが少ないかなって。もし誰かのためにって考えたら、誰かを諦めさせないといけないかもしれないから、その方が気が楽です。


イ: ご自身のペースで、ご自身の判断で進める自由があるからこそ、一人での登山を選ばれているのですね。これからも、その挑戦から目が離せません。本日は貴重なお話をありがとうございました!

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