第八十四話《選別の鍵と文法結界破壊と創造の境界線》
名を与えられた《アカシア・オルファネイジ》が、その存在を確立した瞬間、周囲の空間が不気味に震える。
その震えは、物理的なものではない。むしろ、意味の法則そのものが反応し、空間を「リセット」しようとしているような感覚だった。
それが《文法結界》であった。
結界はただの防御線ではない。
それはこの世界の「文法」に基づき、成立した物理法則の編集システムだ。
どんな存在も、その中で定義され、役割を果たさねばならない。
つまり、結界内での「物理的現実」や「存在の定義」は、その中で流れるルールに従うことを強制される。
だが、《アカシア》のような、既にこのルールそのものを無視した存在に対しては、もはや機能しない。
いや、むしろ、新たな定義を作り上げていくのだ。
「これが、アヴェルが言っていた《選別の鍵》か」
晴明がつぶやく。
選別の鍵は、結界の中で「正当な存在」を選び出し、逆に「不正規」の存在を排除するためのツールだ。
これにより、世界はその外部から来た異物や破綻した「存在」を弾き、秩序を保っている。
だが、今は違う。
結界の内側で「選ばれた者たち」苺瀬れな、ヨハン、すぅしぃが、その鍵を受け取ることによって、この選別のプロセス自体をリセットする権限を持つこととなった。
その瞬間、結界内部の法則が揺らぎを見せる。
ヨハンが、再びその足を踏み込む。
「どうした? 何が起きている?」
彼の声に、テスラが答える。
「これが、結界の解釈を変えた瞬間だ。今までは《選別の鍵》が強制的に決定していた。それが、もうそうじゃなくなった」
今や、選別を行うのはもはや結界ではなく、「意志」そのものだ。
意志つまり、選ばれし者たちの集合的意識が、この世界の「基準」を作り出す。
そのため、この瞬間から、
彼らが一歩踏み出すたびに「新しい法則」が作り上げられ、従うべきルールが一変する。
「なるほど、つまり、今は私たちの意志が、この戦場を創っているというわけか」
すぅしぃが、手を伸ばしながら言う。
その手の先には、穴子が現れ、地面を叩く。
「そーいうこったよ!これからはウチらが決めた通り、この場のルールもガラッと変わるんだよ。誰が来ようが、バッサリぶっ壊しちまうから覚悟しな!」
彼女の言葉には迷いはなかった。
そして、最前線で闘っているれなが、改めて盾を構える。
「これ以上、私たちの「現実」を壊させるつもりはない!」
その声は、確固たる意志の証だ。
彼女が盾を振るう度に、結界の文法が加速的に書き換えられ、今やそれは「現実の認識と干渉」の枠組みを越えた次元にまで拡張していた。
ついに、結界の「崩壊」が始まる。
*術理補足*
《選別の鍵》
《選別の鍵》は、結界内の「存在」を識別し、適応不全となった異物を排除するための概念的なプロトコルだ。
だが、単なる外部干渉のためのツールではなく、その正当性を決定する主体が「意志」に移行した瞬間、結界そのものの機能が劇的に変化する。
今後、このキーを持つ者の意識が、その世界を定義していく。
《文法結界》
結界は一種の「現実の操作ツール」であり、この中では全ての法則が再設定され、秩序の枠組みが明確に定義される。
だが、異物や破綻した存在が結界内部に存在する場合、その結界が無効化されると同時に、新しい法則が生成される。
今後、これにより新たな戦局が展開される。