第八十話《 再起動:隔離領域のデスゲーム》
アマ研は沈黙のまま、開戦の兆しに備えていた。
このエリアは隔離領域ビギナー区画とは物理的・規則的に断絶しており、一方通行。内部からの干渉は禁じられているが、「迷い込んだ者」に対する制限はない。そう設計されている。
探査、連携、監視。そのすべてが静かに稼働する。
イーグルアイによる全周索敵、スキルリンクでの非言語連携、感知スキルでの脈動トレース。安倍晴明は式神を通じ、既に情報の織り上げを終えていた。
「動くべきは、いつか」。答えを出すのは個ではなく、連携の総体。
標的は不明確だ。迷い込んだビギナー十名か、他サーバーからの越境プレイヤーか。
だがいずれであれ、他派閥に情報も資源も譲る選択肢はないという判断は早かった。アマ研は動く。
最初に視界へ入ったのは三名。
苺瀬れなは防衛スキル《イチゴシールド》を展開。Fairy Taleは回復バフを載せつつ、戦線維持の旋律を紡ぎ続ける。ヨハンは生体再生特化の異能を有し、すでに致命傷級の損傷から三度立ち上がっていた。
構成に欠落があった。
アタッカー不在。これは壊すべきものを持たない編成だ。
この瞬間、アマ研の判断は変わった。
「排除」から「収集」へ。
有効な資源ならば、損耗前に価値を引き出す選択肢もある。
先陣を切ったのは、すぅしぃだった。
何も告げず、握り上げた穴子が一閃する。
振るわれたそれに込められたのは、空間切断と瞬間加熱
三名をこの区画まで追い立てた
フランシスコBLTの身体は反応すら許されぬまま、爆散した。
残された三人の眼球だけが、状況を理解しようと泳ぐ。
言語機能は沈黙し、身体機能は恐怖に拘束されたまま。
その前に、アマ研が姿を現した。
威圧ではなく、静けさで制圧する歩み。
両手を広げて進みアマ研、掌に光を灯す。そこには識別デバイス、《選別の鍵》。
「ここから先は保護ではなく、選別。ようこそ、隔離領域へ」
苺瀬れなの光盾が震える。Fairy Taleがマイクを強く握り直し、ヨハンが再び前へ出ようとする。
その瞬間、テスラの指先から雷が放たれた。
閃光はヨハンの背面を貫通し、再生中の細胞を逆流させる。
「回復能力は、遅延要因にはなるが突破力ではないデビ」
アヴェル・オレアリィが囁くように冷笑する。
再生のたびに乱れるヨハンの姿勢、神経系の遅延。
《再生》という異能が、戦場において無敵でないことを彼らは知っている。
苺瀬れなが叫ぶ。
「……わたし、盾です。仲間を守るって決めて、ここに……!」
アマ研が静かに頷く。
その頷きには、戦術判断でも感情移入でもない。
「観測された意思は、反応として処理する」という認識の一致だった。
アマ研が指を鳴らす。
すぅしぃの握った穴子が、再び空を裂く。
ここはデスゲームではない。
適者のみが残る選別にすぎない。
三人の選択は、いま始まったばかりだった。