第七話《酔拳強化中:囮とセリフとドロップキック》
「俺達、三対一でもこれから勝てるか微妙……。なら、勝てる準備しようぜ」
アマ研が険しい顔で呟いた瞬間、なぎ店長は黙ってうなずき――すでにテキーラの瓶を取り出していた。
一口、二口、三口……。
飲むたびに、なぎ店長の空気が変わっていく。
瞳はほんのり赤みを帯び、頬には火照りが浮かび、体の揺れが次第に殺気を孕んだ舞いへと変わっていく。
「酔えば酔うほど強くなるって……店長、バフにも程があるんだょだょ……」
moorがぽつりと呟いた。
廃ビル裏、身を潜めた二人の女子。
なぎ店長は無言で酒を次々と空けていく。
なぎ店長の《酔拳強化フェーズ》が、静かに始まっていた。
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一方その頃。
アマ研はひとり、1キロ先のターゲットへと疾走していた。
――150メートル先、姿確認。
「鑑定、発動」
視界に浮かぶ情報ウィンドウを見て、アマ研の眉がぴくりと動いた。
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**クラス:D**
**名前:そのまんま西**
**スキル:セリフ枠(※話した内容が現実になる。ただし、一度きり)**
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「……チート能力じゃねーかよ」
だがそのスキル、**使用は一日一度限り**。
ならば――使わせなければいいだけの話だ。
「モノマネ、発動」
アマ研の目が鋭く光り、スキル《セリフ枠》がコピーされる。
「このコラボ中、そのまんま西はスキルを使用できない!」
言い切ると同時に、現実が歪み始めた。
コピー能力がセリフ枠に干渉し、スキル封印が成功する。
そのまんま西の身体が白い光に包まれた。
「それでも身体能力は良くて互角か。なら――こっちもやってやる!」
――後ろからドロップキック!
そのまんま西の背中に、アマ研の両脚が当たる!
……こりゃ、予想より強そうだ。
そのまんま西の殺気を受けて、アマ研は踵を返して走り出す。
わざとらしいほどにオーバーに身体を揺らし、叫びながら。
「た、助けてくれ〜〜! 誰かぁぁぁあああッ!」
追いつかれるギリギリの速度で、廃ビルへと駆け込む。
直後、そのまんま西がエネルギーの塊と化して突進してきた。
アマ研は振り返りざま――
「ドロップキックぅッ!」
**ドッカーン☆**
乾いた音とともに、アマ研の両足がそのまんま西の顔面に炸裂した。
空中で弧を描いた男の身体は、放物線を描いて吹き飛ばされる。
飛んだ先には――
酔拳MAX、極みに達した女が立っていた。
「こっからはぁ〜〜?」
なぎ店長がグラスを砕きながら、ニヤリと笑う。
「三人で、ボッコボコにしてやっから覚悟しなぁ☆」
「ぶっ潰す時間だょだょ」
moorが足を踏み鳴らし、微笑む。
再び、戦いの鐘が鳴る。
セリフはいらない。
ここから先は、拳で語るだけ。