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第七十一話 《雷鳴を纏いて降り立つ者ニコライ・テスラ、頭脳班としてログイン》

 

 アマ研ROOMに再び空が揺れたのは、寿香久夜の転送が完了した、その直後のことだった。

 仮想空間にあるはずのない雷鳴が轟き、空の一角が破れたかのように紫電が奔る。

 その中心に、一人の影が現れる。崩れ落ちるようにして、空から落下してくる人影。


 アマ研はすぐに《落下衝撃軽減》を展開し、着地地点の座標を指定。

 すぅしぃが叫ぶ。


「おい、大将! また誰か落ちてきたぜ!」


 愛琉-meru-がすぐにカメラを向ける。


「え、え、え、なに? 映えるやつ? バズるやつ来た?」


 落下してきた人物は、長身痩躯の青年。

 銀白の髪に紫の瞳、ヴィクトリア調のコートを翻しながらゆっくりと立ち上がる。

 手には古風な電磁測定器のような装置を持ち、背後にはうっすらと雷を帯びた回路の幻像が浮かんでいた。


 彼は周囲を一瞥し、静かに名乗る。


「私は……ニコライ・テスラ。ここに至った理由は、ひとえにあなたの配信が原因だ」


 彼の視線の先にいたのは、ストロベリーホイップシンドローム。

 ポーズを決めていた彼女は、突然の指名に目を丸くする。


「えっ、あたし? うそ……そんなに可愛かったベリー?」


 テスラは小さく微笑む。


「実に愛らしい。しかし、それ以上に不思議だった。君の配信には、説明不可能な電気的波動が観測された。魂圧の波形に異常があり、好奇心が限界に達した結果、こうして降ってきた。……無意識的に引力を作っていたのだろうね」


 香久夜が目を細める。


「魂の縁、波紋の如く巡るものでございますな。久夜が去りしと同時に、別の存在が呼ばれた……これもまた必然にございましょうか」


 アマ研は既に《鑑定》を起動していた。

 表示されたスキルは、明らかに常軌を逸していた。


【ニコライ・テスラ】

「スキル」

 ・雷素変換

 空気中の静電気や魂エネルギーを電力に変換

 ・ワイヤレス干渉

 空間内にある情報機器や構造を解析し、遠隔で制御

 ・超感電思考

 瞬間的に複数の論理思考ルートを同時展開

 ・時空の回路

 空間情報のズレを利用し、短距離の高速移動が可能

 ・死後共鳴

 過去に存在した知性体とリンクし、知識を引き出す

 ・無限電池パッシブ

 常に自身に必要な電力が自動生成される

 ・雷霆の残響

 大規模な電撃を発生させ、衝撃波と共鳴を伴う


 その全容に、すぅしぃが思わず目を見開く。


「なんだこりゃ……頭脳も火力も、ヤベえやつ来たな」


 アマ研は一つ頷きながら、静かに告げる。


「これは確かに頭脳班に適任だ。今の我々には、情報解析と展望設計を担える存在が必要だった。テスラ、君は仮入隊としよう。ROOM構築も許可する」


 テスラは頷き、すぐに自らのROOM設計に着手した。

 円環状のコイルが周囲に浮かび、幾何学的な模様が空中に描かれる。

 配信用の構造物というよりは、実験施設に近いものだった。


 愛琉-meru-がスマホ越しにぼやく。


「え、なんかこっちの世界の科学者って、マジで異次元なんだけど……カメラ追いつかない♡」


 ストホイは、ややふくれっ面で呟く。


「リスナーが奪われるのは慣れてるベリー……でも、なんか悔しいベリー。イケメンで頭良いって、ずるくないベリー?」


 くまーるがぽそっと呟く。


「しかも今の雷……久夜さんの転送ログから漏れた魂雷の断片クマ……つまり、神楽さまがきっかけクマ……」


 神楽は何も言わず、ただ微笑みながら彼を見つめていた。

 その目には、すでに先を見通す気配があった。


 この出会いが、何を引き寄せ、何を変えるのか。

 誰にもわからない。だが一つ確かなことはあった。


 アマ研小隊の中に、夜が消え雷が宿ったのだ。

 その閃光は、やがて世界を貫く刃となる。

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