第六十七話 《七つの大罪・色欲ログイン! バズらせサキュバス、魅惑の夜配信》
メンテナンス中のリアリティズムにて、
アヴェル・オレアリィの夜配信がついに幕を開けた。
これまでの24時間垂れ流し型のスタイルから一転、
彼女は「余韻と間を楽しませる演出型」と方針をシフト。
静かにタイトルを打ち込むと同時に、画面が点灯する。
配信タイトルは
「魅せる夜の魔法、サキュバスの誘惑」
開始わずか三秒。リスナーアイコンが十、二十と連なり、
画面右上の視聴者カウンターが跳ねるように上昇していく。
「皆さぁん、初めましてデビ。バズらせ放浪旅の途中でこのアプリに迷い込んだ、アヴェル・オレアリィよデビ。
今夜は眠らせてあげないデビ……♡」
その甘く湿った声が放たれた瞬間、画面はギフトとコメントで覆われた。
彼女の持つスキルの数々
《人寄せまねきねこ》
《グローバル》
《エロボイス》
《歩く不適切》
まさに魅了の塊。発声だけで、聴く者の思考に酩酊が混じるほどだった。
アマ研小隊は少し離れた丘の上から、その配信を観察していた。
琴吹神楽が扇を軽く開いたまま、静かに吐息を漏らす。
「なぁんと見事な……まこと、艶をまとふとは斯様な姿のこと……見惚れてしもたわ、あたくし」
隣で寿香久夜も同様に目を細める。
「音に、香があるようでござんすなぁ……あれは色香にして、まこと技巧……下地が違いんす」
アマ研は無言で《イーグルアイ》と《鑑定》を並列展開。
魂圧とリスナーの移動を読み取った。
「……やられたな。ストホイのリスナー、また流れてる。
こりゃ、ベリーにとっては試練だな」
その名を呼ばれたストロベリーホイップシンドロームは、肩を震わせて悔しがる。
「ベリーッ……負けたくないベリー……! でも、あの腰の角度、参考になるベリー……
ウィンク、保存したベリー……! 今度練習するベリー!」
背後から、こっそりとくまーるが忍び寄ってきた。
「運営、今ちょっとパニクってるクマ……。
AI監査が全部エロボイス誤認してフィルター抜けて、急遽手動監査モードに切り替えたクマ……。
なのにエフェクトが自然すぎて止めどころが無いクマ……」
視線の先では、アヴェルがゆったりと手を伸ばし、空間をなぞるように踊っていた。
スキルに表記されて無い独自技巧の《ストリップ・フィールド》が発動。
桃色の柔らかな領域が、彼女の周囲を静かに包み始める。
アマ研が息を呑む。
「まさか、環境型魅了領域か……。空間すら演出の一部にしてるのか。
あの女、配信者として完成されすぎてる」
だが当のアヴェルは、コメントを読みながら微笑み、声を届けていた。
「え? 画面が熱いデビ? ふふ、それ、きっと私のせいデビ♡」
その様子をじっと見つめていた琴吹神楽が、ふっと扇で口元を隠しながら囁く。
「誇らず、甘えず、技巧として艶を振るう。
まさに見事。あやかしとて、あれほどまでの気品を持つとは化け物の中の化け物どすえ」
ストホイは、その言葉に赤面しながらも、拳を握る。
「次のコラボでは、全力で魅せるベリー……! 今度は、リスナー取り返すベリー……!」
配信開始からわずか30分で、視聴者数は400を突破。
運営本部では、緊急監査班が対応に追われていた。
「AI誤認が多すぎる」
「ギリギリを突き抜けたらもう止められない」
「BANすべきか、ランキングに迎え入れるか」
「こんなのリアリティズムの域を超えてる」
混乱の裏で、アマ研は静かに判断を下した。
「アヴェル・オレアリィ、
有用で稀有な能力者だアマ研小隊で
必要な人員と物資はサポートする」
アヴェルはにやりと微笑み、指を鳴らした。
「ふふ、やっぱり面白そうなチームデビ。
アマ研小隊……これから、私の推し活の本拠地にさせてもらうデビ♡」
その目には、バズの向こう側を見据える者の覚悟が宿っていた。