第六話 《フォローは刃より柔らかく》
巨大な鎌によって真っ二つにされた男の亡骸が、ドサリと音を立てて崩れ落ちる。
血の臭いの中、風が止み、空気が固まる。
「……え?」
アマ研が声にならない息を吐いた。
その視線の先――鎌の飛んできた方向には、奇妙な存在感を放つ女性が仁王立ちしていた。
頭にちょこんと、小さなハムスター。
表情は崩れず、ただ静かに、けれど絶対的な威圧を纏っている。
すかさず、アマ研は《鑑定》を発動した。
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**チルバニアファミリー**
スキル:**ファミリー形成**
「#」タグを用いてファミリーを結成すると、構成員すべての能力値が上昇する。
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「貴方達――」
女の声は、どこか品のある王家の令嬢のような口調だった。
滑らかで、冷たい。
「ワタクシの**チルバニアファミリー**に入りなさい。
拒否権はありますけれど、ワタクシのスカウト率は100%なのよ」
アマ研たちは無言で目を見合わせた。
さっきまで命を狙われていた男が斬られた直後。
そして今は、王族のような口調の女性にファミリー入りを命じられている。
moorが小声で言った。
「……ちょっと怖くない?」
「絶対ろくでもないですわ、これ」なぎ店長が酒を片手にぼやく。
短い相談の末、アマ研はひとつ深く息をついてから答えた。
「今回は……遠慮させてもらいます」
女性は表情ひとつ変えず、優雅に微笑んだ。
「そう。では、また気が変わればメッセージでも飛ばしなさいな」
直後、アマ研の画面に通知が届く。
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**チルバニアファミリー からフォローが来ました。**
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アマ研は無言でフォローを返した。
相互フォロー成立――一時共闘可能状態。
「さて……」
空気が戻ると同時に、アマ研は腕を鳴らした。
「残りのデイリーミッション、こなそうか」
三人は歩き出す。
だが背後――ハムスターを頭に乗せた女は、いつまでもその場に立ち尽くしていた。
無言で、まるで何かを見届けるかのように。