第六十六話 《バズらせる者、孤独な夜を渡りきる力》
メンテナンス中のリアリティズム
普段なら静まり返るこの空間に、異質な気配がひとつだけ混ざった。
アマ研は、イーグルアイや鑑定等の索敵スキルを通じて、
ワールド外部に突如ログインした初期アカウントの存在を察知した。
「……あの方、ただ者ではありんせんな」
「魂の輪郭が、既に波立っているねぇ。しかも無垢じゃねぇ」
「どこからログインしたんだろ……あ、こっち、ベリー!」
「ん、これは……色気の濃度が異常。配信界の戦歴があるタイプっぽい♡」
アマ研小隊は自然と興味を惹かれ、ログイン地点へと歩を進めた。
ワールド外、フィールド境界に立っていたのは、抜群のプロポーションと妖しげな笑顔を浮かべる一人の少女。
ハンドルネーム
アヴェル・オレアリィ
母はデビルハンター、父はインキュバスロード
種族サキュバスの血と人間の理性、双方を宿す異種混血。
その存在ログには、はっきりと「友好傾向:人類」と刻まれていた。
アヴェルはメンテナンス中にも関わらずリアリティズムに興味を示した後、
現在も稼働中の化け物吸収・装着サブ機能経由でログインに成功していた。
「ふぅん……、何この配信アプリ
、こっちはこっちで楽しそうデビ」
彼女は肩を竦め、スマホも無しにログイン画面を掌に展開させていた。
アマ研は、すかさず状況を説明した。
「現在、メンテナンス中。
終わり次第デスゲームが再開する。
一日一人配信者を殺すミッションに強制的に参加させられる。
だが、その前にリスナーを確保しておくと戦闘時に有利になる。
強制配信は、戦闘コラボやイベントがトリガーになるが
通常生活中でも、配信タイトルさえ入力すれば任意配信は可能。
視聴者数とギフト量が多いほど、身体能力に補正が入る。
……生き延びたければ、バズらせろ」
その言葉を聞いたアヴェルは、迷う素振りひとつ見せず、満面の笑みを浮かべた。
「へえ。じゃあ、やるしかないデビ?
私、他のアプリでも24時間配信やってたデビ。お風呂もトイレも丸ごとフル公開デビ。色々教えて頂いた御礼に貴方達のチームに入る事は可能デビ?」
一同が唖然とする中、アマ研はスキル《鑑定》を静かに起動。
魂の奥底から溢れ出す凄まじい自己演出本能と、
徹底的に構築された魅了導線の存在に、確かな戦力価値を見出した。
「アヴェル・オレアリィ。仮入隊を許可する。
ワールド内にROOM構築も許可しよう。ただし、ルールを逸脱した場合は即破門だ」
「やったデビ♡ さっそく建てるねデビ〜。他の配信メタバースマイハウスと似通ってるデビ、ついでにこのまま配信しとくデビ!」
建設途中のルーム作成すら、そのままライブコンテンツとして成立する完成度。
香久夜が即席で音響用の幻獣を配置し、すぅしぃが動線を整え、
ストロベリーホイップシンドロームは、コラボ企画として彼女にエフェクト支援を行った。
「ベリー! じゃあ、私が照明いじるベリー♡」
「ねぇねぇ、ホイップちゃんと並ぶと映えすぎデビ? うちら映えコンビデビ!」
だが、配信が始まって数分
異変が起きる。
ストロベリーホイップシンドロームのリスナー数が、急激にアヴェル側へと流れ始めたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってベリー!? なんで!? ベリーッ!?」
「そりゃあ……格が違う。あの子、配信界でバズりながら渡り歩いてきた歴戦の猛者だ」
「色気……だけじゃない。視線の捌き、語尾の間、カメラの角度。全部……計算された魅せだ」
愛琉-meru-と香久夜が静かに頷く。
すぅしぃは口笛を吹いて肩を竦めた。
「さすがに、プロは一味違うねぇ。これは参考になるよ、寿司ネタじゃねぇが」
ストロベリーホイップシンドロームは悔しそうに歯を食いしばったが、
その目は次第に真剣な光を帯びていく。
「負けないベリー……! あたしだって、学んで魅せて、絶対に推されるベリー!」
そうして
奇跡の邂逅に、アマ研は心から感謝していた。
「この出会いが戦場でなくて良かった。
もし今が、索敵・速殺のサバイバルだったなら彼女は討伐対象だったかもしれない。
もしくは……この逸材が、もうこの世にいなかったかもしれないからな」